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第462話 笑顔

ゆっくりと、とてもゆっくりと地に近付く。

その先はごぎょう町の神社入口。自身が生まれ育った場所へリュウシロウは降りる。



「……」



彼に支えられつつムリョウはその手から降りる。

浮かない面差しをしている……かと思いきや、その周囲に居る人々を真っ直ぐに見据える彼女。リュウシロウの気持ちを受け入れ、自身の気持ちにも素直になった彼女は既に覚悟が出来ているようだ。



(……私は……殺されるかもしれない。だがそれも……仕方がないだろう。行いだけを見ればとても許されるものではないのだ……私は……受け入れなければならない……)



ムリョウなりのけじめなのだろう。

最悪の状況もありえると考える。だがリュウシロウは黙って腕を組み、何も言わない。危険なのではないだろうか?


だが、目前に広がる光景は、彼女がまるで予想しないものだった。



―……ぐす―

―ズズ……―

―う……う……―



「???」



集まっている民衆の方向からすすり泣く声、さめざめと泣く声、嗚咽……つまり()()()が至る所から聞こえる。ムリョウは疑問符しか浮かばない。


向けられるものは怒り。それだけしか考えていなかった。


だがどうだろう? 人々は彼女を見るや否や涙を流し、ひどく同情しているように見える。そしてその全貌は、あらゆる場所から聞こえる声が物語る。



「こんな……こんな少女が……」

「三千年も……? 嘘だろ……?」

「うあああ……ん……」

「で、でも、あんなの見ちゃったら……」

「おねーちゃん……かわいそう……」

「ぐすっぐすっ……」

「ずっと……俺たちを……」

「守ってくれてたのか……」

「永遠の命なんていらねえよ!!」

「……だよね。ゾッとするよ……」

「そんなに……長い間……一人で……」


「??????」



言葉の端をかいつまみ、その上でまとめると……人々が何故かムリョウの境遇を知っていることに彼女自身が気付く。



「ど、どういう……」



訳が分からない。

そして、この『訳が分からない』状況を作り出す者は大抵決まっている。それをムリョウは、虚喰いとの戦いで思う存分知った。



「……」



だからチラリとリュウシロウを一瞥する。

すると彼は……プイッとそっぽを向いてしまう。



「……」



ムリョウは回り込み、もう一度リュウシロウの顔を見ようとするが……



「……」



またしてもプイッと逆方向に視線を置く。

目を合わせない。頭をぼりぼりと掻きながら。


彼女は考える。何故このような状況となっているのか。


そう言えば、狭間の世界では音を立てることがご法度であった。

どれだけ小さな音であっても虚喰いが感知してしまうからだ。

だが物音にはひどく鈍感……つまり、何らかの力を使って僅かな声でも自身に聞こえるように張り巡らせていた可能性があるのだ。それこそ狭間の世界いっぱいに。


つまり虚喰いの能力。

それはその存在が消滅しても、狭間の世界のその道が崩れる等徐々に変化を伴っていったことから、元の状態に戻るには時間差があったのだと考えられる。よって、その能力も暫くは持続していた可能性が高い。


そして、現世と狭間の世界は繋がった。


虚喰いが倒れ、二人が現世に戻っている最中も狭間の世界とは暫く繋がっており、おそらくその能力も持続していただろう。つまり、二人のやりとりは……





()()()だったのである。





何処までが有効範囲なのかは不明だが、きっとリュウシロウは東国の人々の顔も遠巻きに見ていたのだろう。そして、その反応を知った上で判断したのだろう。

そして何より、二人は正確にそれを知っている訳ではないのだが、事実現世の者たちに声が聞こえていた。狭間の世界が見えた時から、もう言葉だけは届いていたのである。



「……リ、リュウシロウ……?」


「……」



目を丸くするムリョウ。なんだが罰が悪そうにするリュウシロウ。ひたすら頭を掻いている。

気付いてしまった……彼の思惑に。


そう、リュウシロウが狭間の世界を出てゆっくりと地に降りるまで、妙に()()()()ムリョウの半生を語ったのは……



「お前と……言う奴は…………」



目頭が熱くなる。またしても。

またその胸に飛び込もうとするのだが……?



「良かった……良かったな……!」

「ムリョウちゃん……だったよな? なんでもおじさんに言えよ!」

「でももう大丈夫だな! 最強の旦那が付いてんだ!」

「な、なんかすげえものを見た気がするぜ!」

「困ったことがあったらいつでも頼って……くれていいのよ!!」

「雷神と時姫か……いけるな!」

「何がだよ!?」

「こりゃめでたい! ごぎょうの新しい主とその嫁だぁぁぁ!」

「うおおおおおおおおおおおおお!!」



すっかりお祭りムードのごぎょう町に、彼の胸に飛び込む筈がその勢いに押され目を白黒させるムリョウ。

人々は殺される可能性があったという事実よりも、あまりにも哀れな境遇に加え虚喰いと三千年も戦い続けたことを感謝しているようだ。


()()()()()だからこそ彼女は……



「へへ……居場所……出来たな?」



ムリョウの背中をぽんと叩き、白々しい台詞を吐くリュウシロウ。



「ば、ばか……お前はあれだけの危機の中、私の居場所を作ることまで考えていたのか……もう……ほんとに……馬鹿……なんだから……」



俯き、頬を赤く染めながら文句。本当に嬉しそうである。


その時だった。



「リュウシロウ!」


「んあ? イズミ?」



ここでイズミたちが到着する。

白丸とルーク、空弧を除くいつものメンバーである。



「やったな! まさかあんなのを倒すなんて思わなかったよ」


「へっへっへ、見てたか俺の勇姿。東国中アリーナだったからな。退屈しなかったろ?」


「危なかったじゃないか! ……ん?」



いつものやりとりをする二人。そこでイズミの目に映るものは……



「……」


「ムリョウ……なんだよな……?」



リュウシロウの傍らで、少し俯きながらも奥ゆかしげにするムリョウ。



「あ、ああ……」



彼女にはひどく迷惑を掛けた。さんざん振り回し、結局はこの最終決戦においてリュウシロウの力を借りるという結果に当然ながら思うところはあるのだ。



「……」



だから前に出る。皆を真っ直ぐ見つめながら。

そして何か意を決した雰囲気を見せるのだが……



「やめろ。誰も望んじゃいねえ」



リュウシロウがその()()()()()()()()()()

一体何をしようとしたのか。



「……こうでもしなければ……イズミたちには……いや、これでも……許されないと思ってる……」



よく見ると、ムリョウは膝を曲げてその手を地面に付こうとしているように見える。

土下座をしようとしたのか。



「誰も文句なんてねえよ。むしろ感謝してんじゃねえのか?」


「感……謝……?」



当たり前のように言うリュウシロウ。

彼女は面を上げ、皆を見渡す。すると……



「いやー! まさかムリョウさんがこれほどまでにキュートなお人だったとは!!」

「……よ、予想外も予想外だ……これはさすがに……見抜けん……」

「ひいいいいいいいい! また美少女!? あとなんで無駄に胸がデカいのよ!!」

「……なんとお美しい方……」



トムがニコニコと容姿を褒め、ゴウダイは夥しい汗を掻き見抜けなかったことを悔い、ミナモはいつも通り。アメリアは素直な所感を述べる……が、少し()()()()()()()


だがもう一人、肝心な者が残っている。



「ムリョウ……さすがに驚いたよ」


「サイゾウ……」



サイゾウがムリョウの間近に立つ。



「ようやく……終わったのかな?」


「ああ。お前にも……ひどく迷惑を掛けた……もちろんお前だけではない。皆になんと謝れば……」



コン



「!」



リュウシロウに、軽く頭を小突かれる彼女。



「だから謝る必要がねえんだっての。お前が居なけりゃこの面子は集まらなかった……そんで、強くなれもしなかっただろ」


「……」



結局、ムリョウが何をしなくとも、いずれ虚喰いにあらゆる世は喰われていた。

彼女が動いたことでイズミとリュウシロウ、そして他の仲間達は出会ったのである。そして彼はこの旅がなければ、おそらくすずしろ町でずっと過ごしていた……つまり虚喰いを倒す手立てが生まれなかったのである。



「そうだぞムリョウ。ボクたちを引き合わせてくれてありがとう……ボクの為に動いてくれてありがとう。おかげで、お前に肉薄するくらい強くなれたよ。……そして、父上を看取ってくれて……墓を守ってくれてありがとう」


「イズミ……」



屈託のない笑顔で感謝するイズミ。この面差しが眩しい。

皆も笑顔でムリョウを迎え入れているように見える。それを見ているリュウシロウも笑顔だ。


後は……



「そういうこった。ま、強くなったっつても今の俺ほどじゃねえけどな。へっへっへ」


「なんだと!? じゃあ今のボクの力を……その身に受けろ! 忍法!」


「はあ!? 馬鹿! やめろ! だから……お、おい! それの何処が忍……



メキッ



しめじっ!」



ただ力任せに殴られ顔が変形するリュウシロウ。



「……あ」



だが殴られている最中、それは視界に入る。


今、ムリョウのあらゆる負が氷解した。

神社の入口に植えられている、樹齢が長いと思われる満開の桜を背景にそれを見せる。


そんな素晴らしい桜ですらも、今の彼女の引き立て役にしかならないほどの……





とびっきりの笑顔を――――――――

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