第45話 二文字と継承
一部の人間は、特定の属性を持って生まれる。
それを自身に備わる気と紐付けすることで、その属性に見合った能力を発動することが出来るのだ。
火属性であれば火忍術として、雷属性であれば雷忍術として、自身の持つ属性の忍術を使用することが可能となる。
しかし火属性は火忍術、雷属性は雷忍術として終わる訳ではない。
一部の人間のさらに一部は、己の忍術を磨きに磨き上げ、鍛錬に次ぐ鍛錬を重ね、その先に進むことがあるのだ。
では具体的にどうなるのか?
ある者は道を進んだと言った。頭の中に文字が浮かんだと言った。そして飛躍的に能力が増したと言った。
苛烈な修行の果てに見えた道を進み、内に現れる文字を知ることで、忍は飛躍的な力を手に入れることが出来るのである。
もちろんそれは、属性によりけりとなる。
ある火忍術の使い手は、道を進むことで情炎忍術を覚えた。
ある雷忍術の使い手は、道を進むことで迅雷忍術を覚えた。
ある水忍術の使い手は、道を進むことで水鞠忍術を覚えた。
ある金忍術の使い手は、道を進むことで白金忍術を覚えた。
火や雷、水や金の一文字ではない、それぞれ情炎、迅雷、水鞠、白金という『二文字』であることから、そのように名付けられたのである。
しかし、それらの二文字を『どのようにして覚えた』のか、またその忍術の名付けの根拠などが疑問である。
道を進めば、降って沸いたかのように新たな忍術を覚えるような印象があるが、そうではない。
忍術は継承されるのである。
もっともこのように言うと、『親から子へ』または『身近な者による特定の行為』などが条件のように思える。
しかし実際は違う。
この世に居る全ての忍術使いは、自覚はないが同じ属性を持つ者同士で能力を共有しているのである。
もっと分かりやすく言えば、風忍術使いであれば『どの風忍術使いも極めれば到着地点は同じ』なのだ。
そこに勝ち負けという差があるのは、『練度の違い』なのである。
先人の忍たちが、試行錯誤の上で編み出した数々の忍術……その系譜を、現代の忍は辿っていると考えるといいだろう。
なお、ある二文字の忍術使いが、修練の果てに忍法を編み出したとする。
その場合は、その忍術使いが死亡した後で新たに生まれた同じ属性を持つ者が、編み出された忍法を継承出来るのだ。
もっとも、生まれた者の修行や努力の如何によって、編み出された忍法を使うにまで至らない可能性もある。
また、編み出した忍法が有用で無かった場合は、継承されても誰にも使われないために系譜から外れてしまう可能性もある。
そうして今現在様々な忍術があり、様々な忍法が使われている。
それはこれまで無数に編み出された忍法を取捨選択し、晴れて系譜として加えられた有用なものばかりなのである。
なお可能性は極めて低いが、忍は一生涯で『二度』道を辿ることがある。
その際は二文字ではなく『三文字』。道を二度辿った忍の使う忍術が三文字であったため、そう呼ばれている。
何故道が現れるのかは分かっていない。
何故継承が、これほど大きな規模でなされるのかも分かっていない。
ただある者は、この世に危機的な状況が迫っていることによる、人間の進化のひとつだと唱えている。
※※※
「と、まあこんな感じだ」
「へ~……」
「ヘー……」
「ぽーん……」
何でも知ってるリュウシロウ君、である。彼の状況的に、どうしても知識に偏らなければならないところがあるのかもしれない。
「もごもご……大した小僧じゃのう。そこまで正確に忍術を知る者は、使い手でもそうは居まいて」
「だろ? 弱っちい分知識でカバー…………って誰だよアンタは!?」
あまりに自然に居た年配の男性。
食事が並べられている座卓、その上座に座りリュウシロウの分を食べながら話し掛けてくる。
「……え? 昨日のじいちゃん?」
「……エ? フウマサン!?」
「昨日ぶりじゃの嬢ちゃん。で、久しぶりじゃのトム」
年配の男性は、昨日の晩にイズミとサスケの話で盛り上がった老人だ。トムも面識があるようだが?
「は? お前らこのジジイ知ってんの?」
ボカッ
リュウシロウの発言と同時に、小さな気の塊のようなものが彼の側頭部に直撃する。
「ってえ!! 何すんだコラ!」
「誰がジジイじゃい! この枯れたネギ坊主が! 年寄りは敬わんかい」
「か、枯れたネギ坊主……」
灰色の無造作ヘアー=枯れたネギ坊主。
「昨日の晩、父上の話を聞かせてくれたじいちゃんだ。また話したいと思ってたんだ……けど、なんでここに居るんだ?」
「ごぎょうの阿呆の一人が、空を飛んで行ったのを見掛けての。気になって、残り香にほいほい着いて行ったらここに来た訳じゃて」
「残り香って……じいちゃん何者なんだ?」
イズミを一瞥しつつ、少し申し訳無さそうな表情をするフウマ。
「本当は、通りすがりのお年寄りで終わるつもりだったんだがのう……ごぎょうの輩共が関わっているのではそうも行かん。すまんの、身分を明かさなんで。ワシは天津国忍一揆、華武羅番衆の一人、フウマじゃ」
「……道理で……さすがに番衆とは思わなかったけど」
昨日、別れ際にフウマを忍と気付いたイズミ。それなりに思うところがあったようだ。
彼女は続ける。
「で、めちゃめちゃ強いんだよな! ゴウダイが言ってたぞ! 『ご年配の同僚が居るが、その人こそ華武羅番衆の御目付け役、心技体揃う真の兵だ』って! じいちゃんのことだよな?」
「ほっほ、ゴウダイめ……年寄りを褒めても何も出んぞ。将来や才能という点では、ワシはあ奴の足元にも及ばんよ」
「二人共凄いんだな! ゴウダイと次会うのが楽しみだ!」
ニコニコとイズミと話すフウマ。彼女から何か感じるものがあるのか。
(このあけすけな感じ……本当にサスケそっくりじゃの。あ奴の娘との邂逅か……何か縁があるのかもしれんな)
感慨深い様子を見せるフウマ。ゆっくりとした動作で湯のみを持ち、そのまま茶をすする。
その姿を見たリュウシロウは、『なんて当たり前のように俺の茶飲んでんだよ』と心で突っ込んでいた。
次にトムが会話を始める。
「イヤハヤ……本当にお久しぶりデスネ」
「まったくじゃの。あれからもう二年以上か……腕は上がったようだのう」
「イエイエ、未だ一合目ニモ達してオリマセン。お師匠様にはダメ出しバカリされていた落第生デスし」
「フウカは厳しいからの。お前さんが去った後は、駄々をこねてえらい有様だった……」
時折会話に出るトムの師匠。フウマと関わりがある様子。
「トムもじいちゃんと知り合いなんだな」
ここで、トムとフウマの関係性に疑問を抱いたイズミが問い掛ける。
「そうデス。フウマさんは、我輩のお師匠サマのお兄さんなのデスヨ」
「へー……お師さんがじいちゃんの妹ってことは……強いんだな!」
「明確に、ドレだけの実力がアルのかは分かりません。ただ我輩、お師匠サマと出会った後、気付けば教えを乞うてイマシタ」
「トムが分からないほど強いのか……世の中広いな」
近頃立て続けに敗北を重ねているイズミ。世の中の広さを思い知る。
トムは話を切り替える。
「ソレデ、はこべら町にはドウいったご用件で?」
「本来は機密事項なんじゃが……ま、今さらお前さんに隠し立てする必要もあるまい。実はワシも、ゴウダイと同じく能面の者の捜索に駆り出されていての」
「じいちゃんもムリョウを?」
「ムリョウ……? そうか、嬢ちゃんはワシよりも詳しいか。で、ついこの間も能面の者を倒したんじゃが……」
「………………は?」
「はぁ??」
「…………ナント!?」
イズミ、リュウシロウ、トムが揃って目を見開く。さすがに驚きが隠せないようだ。
イズミが切り込む。
「ち、ちょっと待ってくれじいちゃん! 能面を倒したって……」
「先月の話になるかの。橋姫の能面をした黒尽くめの忍者服を着た女……だったか、声が完全におばちゃんだったから間違いないじゃろ」
「お、おばちゃん……」
「ジョカと名乗っておった。これがまた大した手練での……土忍術は使うわ毒忍術は使うわ……さらに金、獣、火、水忍術まで使いおる、常識外れな奴じゃて。そんで何とか倒しての……しかもおかしなことに、最後は消えおった」
三人に緊張が走る。元来の一人一忍術という常識を覆し複数を操る、そして最後は消えるという特徴が、まさにムリョウ一味に当てはまるからだ。
「間違いない……ムリョウの仲間だ……」
「シカモ、ガイトサンとケイユンサンよりも使う忍術が増えてマス。アノ二人より、実力は上なのではナイでしょうカ……?」
あらゆる忍術を使うムリョウ一味。その中でもフウマの言うジョカという能面は、イズミたちが戦ってきた能面たちの中でも使える忍術が最も多い。
しかしリュウシロウは何か疑問が浮かんだようで突っ込む。
「待てよ。その話が本当なら、なんでゴウダイは能面が複数居ることを知らなかったんだよ。同じ番衆だろ? 情報の共有がなされてねえって……おかしいだろ」
ただ、これまでそれらの情報はイズミたちしか知らず、現にゴウダイは能面の者が複数居ることすら知らなかった。
よって、フウマの話す内容には違和感があるのだが……
「そりゃそうじゃ。言っとらんもん」
「は? あっさり!? ……ちょ……言えよ!! 大事な情報じゃねえか!!」
「それがの……今悩んどるじゃよ……」
「悩むって……悩みどころあるのかよ」
これまで饒舌だったフウマだが、ここでついに言いごもる。伝えておくべきか否かについても悩んでいるのか。
「そのな……ここからが本題なんじゃが、能面を倒した後にさらに能面が現れての……」
「!!!」
似たようなシチュエーションを知るイズミが真っ先に反応する。
おもむろにキセルを取り出し、火皿にたばこの葉を入れ火を付けるフウマ。
「一瞥しただけで勝てんと悟ったわい。いや……人の身でアレをどうにかするなど到底出来ぬよ。深淵のような暗く深い、膨大過ぎる気……あ奴がその気になれば、東国も西国もひっくるめて十日あれば滅びるじゃろ。だからとても言えん。一揆ではどうにもならんからの」
「ソノ人がムリョウサンです。つい先日も現れ、我々を化かすヨウナ振る舞いをし去っていきましタ」
「あのような輩が、これまで日の目を見ず潜んでいたとは……ん? なんじゃい、トムもあ奴を知っておるのか」
「エエ……我輩の場合ハ、コチラで修行を積んで西国へ帰った後に何度カ……」
「そうか……西国にも現れておるのか……」
一度だけキセルふかし、フウマは言葉を続ける。
「……あの悪尉の能面は……」
「…………え?」




