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第44話 今は借り物

〜???〜



「う……うう……」



何処かの洞窟だろうか、湿り気の強い真っ暗な空間。



「……」



そこの片隅に、妖怪なのだろう人間より遥かに大きい狐が鎮座する。

身体を丸め、呻き声を上げる何かを包むような姿勢だ。



「あ、あ……う……」


「……もう起きな」



狐は、呻き声を上げる何かに声を掛ける。それはどうやら眠っているようだ。



「ムリョウ、もうそろそろ起きな」


「あ……う……空狐……」



眠っていたのはなんとムリョウ。悪夢にうなされていたようだ。

彼は狐の名を呼び、自分が目を覚ましたことを伝える。



「またいつもの夢かい?」


「ああ……」


「そうかい……」



決して楽観的な雰囲気ではない、そこはかとなく悲壮感が漂う。何か事情があるのだろう。



「だがまもなく、夢にうなされることも無くなる……」


「ああ……イズミって言ったっけ? でも本当に役に立つのかい?」


()()()()()()()()()が最重要だということは、既にお前も知っていることだ」



般若の能面によりやはり表情は分からず、今ひとつ感情が読みにくい。

しかし、声に僅かな高揚感があることから、ムリョウにとってイズミという存在は、良い意味で必要不可欠なのだろう。



「……ふぅ。何もかもをアンタが背負うことは無いんだよ?」


「ここまで時間を掛けておいて今更……む?」


「どうしたんだい?」



何かに気付いたムリョウ。



「フフ……噂をすれば何とやら、だ。イズミがやってくれたようだ」


「またアンタは……もうかれこれ五日は忍法を使いっ放しだよ」


「構わんさ。力尽きれば……また頼む」


()()()()()()ねぇ……」



二人にしか分からない会話。

ただ、ムリョウと空狐の間には固い絆があるようだ。



「まさかこの短期間で、一時的とは言え二文字を飛ばし三文字とは……フフフ」


「へぇ、大した嬢ちゃんだ。本当にあるかもねぇ」


「ああ。これで気兼ねなく西国に向かえる。……さあ、行くぞ」


「はいよ」




※※※




〜はこべら町 宿自室〜



「お〜い、イズミ〜」


「駄目デスヨ! イズミサン眠ってるんですカラ!」


「ぽぽん!」


「父上〜……」



何だか訳が分からない内にタメノスケをぶっ飛ばしたイズミ。

ダメージと疲労により戦闘後に倒れてしまったようで、リュウシロウとトムにはこべら町の宿まで運ばれて来たようだ。


彼女は寝言が続いている様子だが、表情が柔らかいことからポジティブな夢を見ているのだろう。



「ったく……最近よくぶっ倒れやがるなコイツ」


「そんなコト言ってはダメですよ。あんなスゴ技の後ですカラ、身体中の気が無くなっても不思議じゃアリマセン」


「ま、そうなんだけどさ。これまで見てきたけどよ、コイツにあそこまで膨大な気があったなんて微塵も分からなかったぜ」



この二人は、イズミにサスケが見えていた事実を知らない。言ってしまえば、『都合の良く突然パワーアップした』風にしか見えないのだ。



「アレが……力忍術の二文字なのデショウかね?」


「分からねえ。……二文字にしちゃ、異次元の破壊力だったけどな」


「シカシ、今のイズミサンからは何も感じマセン。他の忍術と、成長ノ過程が違うヨウナ気がシマス」


「で、二文字って何なんだ? 前からちょくちょく聞くけどさ……」



二人が話し込んでいると、突然イズミが目を開け質問を始める。



「ああ、起きたか。いきなり声掛けんなよ、驚くじゃねえか」


「大丈夫そうでヨカッタですよ。寝たママじゃ何ですし、お茶でもドウですか?」


「……」



起き上がることを促すトムだが、イズミは何も言わず動かない。



「ま、まだこのままでいいよ。ちょっと疲れてるし……」


「動けねえんだろ。頭のてっぺんからつま先まで痛えんだろ?」


「う」



おそらく図星。

実力以上のものを出せば、それに伴っていない身体に起こる現象は大抵決まっている。



「バカにするな! あの程度でボクが動けなくなる訳が……」



そう言うとイズミは立ち上がるが……



「へう!?」



全身に電気が走った……と言えば分かりやすいだろう。

立ち上がったと同時に、そのままリュウシロウの方向へ倒れ込む。



「お、おい! ちょ……」



がしっ



藁をも掴む思いだったのか、倒れた先に居たリュウシロウの頭を抱き抱えるイズミ。



「リ、リュウシロウ、すまな…………………………」



しかしその構図は、女性的には大いに問題があったようだ。

何故なら、リュウシロウの頭を抱き抱えているということは、胸部が思い切り彼の顔面に密着しているという意味だからだ。



「あ、あ、あ……」



だがまともに動けないイズミ。みるみる顔が紅潮し始めるのだが、



「立ち上がろうとしなくていいっての。ま、宿はもう一晩頼んである。今日はもう休もうぜ」



リュウシロウは何事も無いかのような反応。未だ二人は密着したままだ。



「な……!? り、りゅうしろう!! 何か言うことは無いのか――――!!」


「??」



どうやらリュウシロウ、よく理解していない。それが余計にイズミの怒りに火を注ぐ。

トムが彼ににじり寄り耳打ちをし始める。



「リュウシロウサン……ドウしてソンナに切れ者なのに、デリカシーはゼロなんデスカ……?」


「ん? あ? ……あー…………あ~~~…………」



少しずつ理解した様子だが、何故か徐々にトーンダウンするリュウシロウ。



「すまん」



そして申し訳程度の謝罪。



「何でどんどん気持ちが下がっているんだお前は――――!!!!」


「いや、失敬失敬。無さ過ぎて女ってこと忘れて……」



ブチッ



ドゴッ



「なめこっ!!」




※※※




その晩。



「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」


「……」

「……」



ぽん吉と一緒になって、目の前にある食事をただひたすら食べ散らかすイズミ。



「ほらぽん吉、唐揚げだ」


「ぽーん♪」



気を多量に放出した所為か、食欲旺盛のようである。

リュウシロウとトムは目が点だ。



「ま、動けるようになったし、アホみたいに食べるし……明日は大丈夫そうだな」


「で、デスネ。見た目麗しい女性がコノような食べ方をスルのは、いささかショックな光景と言わザルを得ませんガ……」


「リュウシロウ! おかわりだ!」



糸目で呆れつつ、リュウシロウはイズミにご飯をよそう。

茶碗の数倍の背丈はあろうかという、いわゆる昔盛りだ。



「で、話は戻りマスガ、イズミサンはお父さんの手助けでアアなったと……」


「ああ。頭の中にいろんな忍法が流れ込んで来て、その中で一番すごい技を貸してくれたんだ」



『貸してくれた』という言い回し。未だ自分のモノには出来ていないと、イズミ自身理解している様子。



「眉唾モンだが、その後で、あんな異次元忍法出しちまえば納得するしかないわな……」


「だろう? 父上は凄いんだ! ……だから、タメノスケに勝ったのはボクの力じゃない」



猜疑心の強いリュウシロウも納得している。

ただ父を誇りに思いつつも、自分の力だけでは負けていた事実を理解している彼女は少し浮かない顔だ。

しかしそんな暗い面差しも、すぐに明るいものとなる。



「でもこれで目標が出来たよ。これまでは最強とか漠然とした気持ちしかなかったけど、きちんと目指す場所が見えた。後は突き進むだけだ! 父上にも言われたしな!」


「ぽぽーん!」


「かなり険しそうだけどな。へっへっへ」


「もう、リュウシロウサン茶化さない。ソノ意気ですよイズミサン!」



和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気で箸を進める一行。

イズミは明確な目標が出来てやる気十分、沈んだ気持ちも解消されたようだ。


そして話は変わる。



「で、二文字って何なんだ? もぐもぐ……さっきはうやむやになったけど……」


「そうだな……まだ言わなくていいって思ってたんだが、大丈夫そうだ」


「何が大丈夫なんだ?」


「力忍術にも二文字以上があるって意味だ。以前忍術の歴史を話したろ? あの時、教えたところで力忍術に二文字以上が無えってなったら……ま、まあアレだもんな」



以前、リュウシロウはイズミに対して忍術の発祥や属性などを語っていたが、二文字については触れていない。

それは忍術として歴史の浅い力忍術の発展性を鑑みた、彼なりの気遣いだったようだ。決してはっきりとは言わないが。



「女性の扱いはダメダメなのに、ソウイウ気遣いは出来るんデスネ……」


「気遣いじゃねえし! き、気違いだよ!」


「字面は似てるけど言う分には分からないぞ!?」



珍しく突っ込まれるほどには焦っているリュウシロウ。

だがまもなく、気を取り直したいのかコホンと咳払いをして真顔になる。



「じゃ、始めるか」


「我輩も聞きたいデス。ある程度はお師匠様カラ聞いてマスけど、何分ざっくりダッタもので……」



皆改めてお茶を汲み、リュウシロウのありがたい言葉を聞く準備は万端だ。



「ああ、後ついでに継承の話もしておく」


「継承?」


「忍術を知る上での必須項目のひとつだ。特にお前はな。ま、聞いてりゃ分かるよ……」

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