表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/518

第43話 父の手

この戦闘中、タメノスケはほとんどニヤけ面だった。

つまりはそれだけ余裕があったという意味、また勝利を確信していたのである。



「フフ……さて、これでマドモアゼルは戦線離脱です。次はそこの白豚ですかな? 奇しくも、そして不名誉ながらも同じ風忍術使い同士です。多少は手を抜いてあげますよ?」


「……」



沈黙するトム。一向に歩を進める気配がない。



「おやおや、足でも震えているのですかね? それでは生まれたての子豚……いや、小鹿ではないですか。ははは、ははははは!」


「……フッ」



低俗なジョークを交えつつ煽るタメノスケだが、トムはまるで分かっていないと言いたげな面差しをしつつ鼻で笑う。



「ん? 何がおかしいのかね?」


「イヤイヤ、あなたイズミサンを調査済なのデスよね? その割には分かってイナイ。まあ調査と言ってもなずな町以降デショウから、仕方ナイのですがネ」


「?」



トムの言葉を聞き、イズミの居る方向を一瞥するタメノスケ。



「バカな……」



心から出た一言なのだろう。始めて彼から、怒り以外の気持ちが入った言葉が現れた。

何故なら、彼が一瞥した方向に居るイズミは膝を付き苦しんでいた筈なのに、今は立ち上がり朦朧とした視線でタメノスケを睨みつけているのだから。



「ま、まだ足りないようですね! はぁ!!」



イズミの頭を包む、空気の玉の円を描くラインが強調される。掛け直したのだろう。



「……」



意識を失いかけている様子のイズミだが、口をパクパクさせ何かを訴えている。

すると彼女の身体から狼煙が上がり、ガイト戦の時のような様相を示す。



「……てない」



身体から発する気の所為か、美しい円を描いていた空気の玉に凹凸が目立つようになる。



「…………終わってない」



声こそか細いものの、立ち上がる気は力そのものを示すかのような勢いだ。



「まだ……」



さらに気勢は上がる。彼女の誇りが、意地が……



「終わっていない!!!!!」



風忍術を凌駕する!



バチィ!!!!



最後は一気に気を放ったのだろう。突然の力の膨張に空気の玉は耐えられなかったようだ。弾けて消えてしまう。



「……」


「はぁ! はぁ! はぁ……! はぁ……はぁ……」



青ざめていた顔も、少しずつ赤みを帯び始める。酸素が体内に巡りつつあるのだろう。タメノスケは声も出ない。



「くっ……」



しかし、一定の時間酸欠状態であったには変わりなく、千鳥足でふらつき今にも倒れそうなイズミ。

そんな彼女を見て、彼は自分の優位を改めて認識したようだ。



「は、はは! 少々驚かされましたが……結局は同じことですよ!」



これまでとは違い、時を置かずイズミに遅い掛かるタメノスケ。今の出来事を目の当たりにして、さすがに心中穏やかとは言えないのだろう。



「念には念を入れて……!」


「!!」



新たな忍法でも使うのか、三度印を結びながら向かって来る。



「ま、また……だ……。忍術の波動と、あの妙な感じ……魔術の波動……?」


「ほほう、どうやら本当に気付いているようですね。鋭い方だ。……しかし! 知ったところで貴女には防げません!!」



するとタメノスケ、左手に火球を作り出しつつ右手で印を結ぶ。

そしてイズミに向けて火球を放ち、気を集中させ……



「終わりです! 風火煉術(ふうかれんじゅつ)……」



ー攻勢・フレイム荒嵐!!ー



彼が放った忍法が火玉を巻き込み、螺旋を描くように彼女に向かう。

風忍法である攻勢・荒嵐に火属性を混成させた、掟破りの忍術若しくは魔術と言えるだろう。



「う……く、くそ! 身体が……」



まだダメージの抜けないイズミ。回避行動を取ろうとするも、身体が上手く動かないようだ。



「イズミ――――! 避けろ――――!!」


「ク! 間に合わナイ!!」



咄嗟に叫ぶリュウシロウ。助太刀をしようとするも、印結びが間に合わない様子のトム。

だが風と火を混成させた極悪な攻撃は、非情にも彼女に進行し続ける。


イズミは、攻撃が自身に届く刹那に思う。



(ムリョウには手も足も出ず、ゴウダイにも勝て無かった。そしてまた負けるのか? ……力忍術は誰にも負けない……負けるのはボクが弱いからなんだ)



風と火が混じる、絶望的な攻撃が迫り来る。

もはや彼女は風前の灯と言えるだろう。



(世の中は広いって終わらせるのは簡単だ。ボクより強いヤツがたくさん居るだけの話なんだから……でも……そんなの認めない! 認めたくない!!)



重なる敗北に、彼女の自信は大きく揺らいでいる。

しかしこれまでの考えを、そう簡単に覆せる訳がない。



(もっと、もっと……そう、ガイトたちと戦った時のあの道を見た時のように……今の限界を突破するんだ!!)



かつてのように、イズミの身体から狼煙のような気が立ち上がる。



(あの時見えた道……それが見えた時、見えただけなのに、身体から力が沸き上がる感覚があった……)



あの時イズミは、毒に侵され朦朧とした意識の中で、夢か幻か道のようなものが見えた。

その後はどういう訳か毒も消え、ケイユンの攻撃に対しても余裕を持って対処していた。

何かの関わりがあると考える方が自然である。



(アレだ。あの道をもう一度……)



気はさらに高められ、狼煙が炎に様変わりする!



「ボクに見せろ!!!!!」



ゴォォォォォ!!



「そんなに気勢を上げて……死ぬ気ですか? 気は、大きくすれば良いというものではありませんよ?」



イズミの燃え尽きること必至の気勢に、何かを感じ取った様子で決して平静な声色ではないタメノスケ。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」



境地に至りたいのか、がむしゃらに気勢を上げるイズミ。もう後のことは考えていない。


しかし……



(ダメだ! あの時のような感覚にならない! でも毒なんて無いし、あんな状態になればそれこそすぐに負けてしまう! 何故だ!? 全力になるだけでは無理なのか!?)



気を全身から放つだけで、特に彼女の様子は変わらない。焦燥感に駆られているのか、とにかくデタラメな印象だ。



「は、はは! 何をするのかと思えば! 無駄に気を消費しているだけじゃないですか! 笑わせる!」



何事も無さそうで、内心は安堵しているように見えるタメノスケ。改めて勝利を確信し、詰まりながらもイズミをせせら笑う。


彼が放った術はまもなく着弾する。そして、状況的にも回避は間に合わない。



「くそ! 嫌だ! 力忍術は最強なんだ! 誰にも負けないんだぁ!」



気勢を上げながら、駄々をこねる子どものように泣きじゃくるイズミ。

しかしそれは自分が傷付く、倒されるという事実に対するものではなく、力忍術敗北に対する拒否である。



「ははははは!! 無様ですなぁ!! 貴女は私よりも弱い! そして力忍術など、凡人でも扱える低俗な忍術! ははははははは!!」


「笑うな……笑うなあぁぁぁ!!」



万感胸に迫るイズミ。


目の前の男が許せない。


何がなんでも倒したい。


明日どうなってもいい。


今日を勝てればそれでいい。



彼女の全ての感情が、『強くなりたい』に集約されたその時だった。






ーまったく……何でこんなにじゃじゃ馬になっちまったんだか……ー






「え?」



突如声が聞こえる。

リュウシロウも、トムも、ぽん吉も、タメノスケも気が付いていない様子から、イズミにしか聞こえていないようだ。



ー……一発だけだぞ? 後は自力でここまで来いー



彼女だけに響く声が終わったと同時に、その右手にそっと何かが触れる。



「……だ、誰だ……?」



『誰』という表現をするイズミ。

それもその筈、『誰か』の手が彼女の右手に触れているのだから。


もっとも、イズミにはその手の持ち主がすぐに分かったようだ。



「あ……ああ……」



悲しみではない、悔しさでもない、その涙は喜びの涙。

上腕から体幹側は見切れている上に、かなり透過しているが傷だらけのごつごつしたたくましい手。



「ち……父上……!!!」



ーよそ見すんな。腰を入れろ、右手を引け、気を集中させろ。いつも通りでいいんだー



「はい!!」



声と手の主は……なんと、今は亡きイズミの父サスケ。

慣れた感じで指導し、彼女もそれに対して礼儀正しく返事をする。



「何をぶつぶつ言っているんですかね? 自身の、力忍術の弱さに絶望し、狂ってしまったのですか? ははは! はーっはっはっは!」


「……はぁぁぁー……」



客観的に見れば、イズミがやっていることはただの独り言である。

タメノスケはその様子を見て嘲笑するが、彼女はもはや意にも介さない。


ただ集中する。



(何だろ……? 頭に何かが流れ込んでくる……)



もうイズミには蔑みも嘲笑も何も聞こえない。



(身体の中も……熱い。焦がされるみたいだけど……何だか心地良い……)



これまでの悲痛な面差しは何処かへ、涙を伝わせながら微笑む。



(そっか……これが父上の忍術、本当の力忍術なんだ……)



迫り来る攻撃などなんのその。

自分の右手に添えられている父の手を最後に一瞥し、彼女は放つ!!



「忍法!!!!」



発せられた気が全て右手に集約される。

炎のようだった気は纏まりを見せ、完全にコントロール下に置かれている印象だ。

イズミの言葉と同時に、タメノスケの方向へ繰り出された右拳から放たれるは……





壮烈拳技(そうれつけんぎ)砕破鉄芯(さいはてっしん)!!ー





「……………………ほへ?」



素っ頓狂な声を上げるタメノスケ。

当然である。何せ目の前には、自分の背丈の数倍はあろうかという拳があるのだから。



「な、ナ、な、ナ……なンでスかアれ?」


「し、し、し、し、し、知らねえよ……」



トムとリュウシロウも大口を開けたまま、思考も行動も停止する。


その巨大な拳は、タメノスケ目掛けて凄まじい速度で突き進む。

なお彼が放った技は拳に当たったようだが、あっさりと掻き消されてしまったようだ。



「わ! わ! わ! わわわわわわ!? 来るな!! 来るなあああああああああぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!!」



拳が自分に向かって来ると気付くや否や、背を向けて走り出すタメノスケ。

だが、迫り来る拳はどんどんと速度を上げ、やがて……



ドガァァァァァァ!!!



当たる……と言うより、撥ねられたと言った方が適切か。



「うぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァ――――!!!!!!」



実のところ彼の当たった場所は拳で言えば小指、しかもスレスレのところだった。

だがそれでも山道を低空飛行し、さらにははこべら町も超え、遥か彼方にまで吹き飛ばされてしまったようだ。


なお拳は止まらない。


進行方向の木々を薙ぎ倒し、崖を貫通し山を削る。

威力はまるで衰えない。

障害となるものは軒並み破壊し、我が道を進んでいく。


そのまま町へ向かえば大変な結果をもたらしていただろう。

しかし幸いにもここは山道の途中、巨大な拳は消えることなく空を走り続け、最後は何処へと飛び去って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ