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第424話 ダイヤモンド

沈黙が流れる。

何かを言わんとするルーク……だが、なかなか言い出せない様子。いや、勇気を振り絞っているといった方が適切か。



パサ……



「!」



この時何かが落ちる。

白丸の、枯れ果てた皮膚の一部が地面へ。身体が崩れかかってるようだ。もう彼女の命は幾ばくもない。


それは、確かにルークの視界に入った。

だが構わない。ようやく……言葉を紡ぐ。



「なあ……白丸ちゃん……」


「……」



話し掛けると同時に優しい顔。

時折視線をズラしたり……言いたいことがたくさんあるのか。



「全部……終わったら……俺の生まれた……アンナ=メリアを見せたいんだ。まだクソみたいな状況だけどよ……これから変わっていくあの国を……君に見て欲しい……」



彼の言いたいこと。それは未来のこと。

白丸と一緒に……いや、白丸を連れて行こうと考えているのだろう。もちろんそれだけじゃない。



「東国のことも……もっと教えて欲しいんだ。俺さ……こっちに来てから戦ってばかりでよ……綺麗な風景とかアンナ=メリアには無い、いいところとかさ……」


「……」



自身の命すら危うい状態なのに、照れくさそうに話すルーク。

今で終わらせない、終わらせる気などさらさらない。当たり前のように未来があるのだと、そう信じて疑っていない。



「……あんた……」



傍に居た空弧が思わず口にする。

そして俯く。悲しげな表情をしながら……それは叶わぬ願いなのだと表しているかのようだ。



「俺と……一緒に居てくれるかい? 東国を全部見た後に、アンナ=メリアも全部見た後……その後も、ずっと……俺と一緒に居て欲しいんだ……」


「……」



白丸、ただ堰を切ったように涙を流す。

そうしたい。でも出来ない。愛した男と一緒に居たい……そんなことは当然なのだ。だが……叶わない。


それは悲しみの涙。ルークもそんなことは分かっている筈である。


だが言わなければならない。彼女が消えてしまう前に……この言葉を。





「白丸……愛してるぜ……これからも……」





言った。

自分の気持ちを、ようやく正面から伝えられたルーク。


まだ少し顔を隠しているが、隙間から見えるその眼が大きく開く白丸。

先ほどの彼の言葉が、彼女が今持つ思い、感情の壁を壊す。



「う……うああ……うあああああああ……ん……」



力なく声を挙げて泣く。

その弱りきった手でルークに抱きつき、さらに泣く。



「あたしも……一緒に居たい……」


「ああ」



白丸のこの言葉で、ルークの身体が少しずつ輝き出す。

まずは琥珀色……柔らかな黄褐色が二人を包む。



「ルークと……二人でいろんなところに……行きたい……」


「ああ……」



次に緑や紫を主体に、色彩のグラデーションを示す。

琥珀色はそれにかき消され、今度は幻想的な様相を示す。



「貴方に、たくさん……見せてあげたい……」


「ああ……!」



次は光が反射したような、様々な色がところどころに現れる。

遊色効果か、美しい光沢が色彩のグラデーションを上書きする。



「西国で……いろんなもの……見たいな……」


「ああ!」



その次はルークから翡翠のような輝きが立ち上がる。

キラキラと輝いた若草のような……それが遊色効果を上塗りしていく。



「ずっと……ずっと……二人で……一緒……に……」


「ああ! 当たり前じゃねえか!!」



そして翡翠色はいつの間にか消え、今度は海を思わせるような青が二人を包む。


目を細め、もう言葉を紡ぐ力すらない様子の白丸。

先ほどよりも身体の崩れる速度は増し、ついにはその顔に亀裂のようなものが走る。


だが彼女も言わなければならない……今の気持ちを。


最後の最後に、これだけは言わなければならないのだ。





「ルーク……大好き……」


「ああ!! 俺も……大好き……だ……」




その言葉の後に、白丸の瞳が光を失い始める。身体の崩壊が始まり、その命を手放そうとするか。



「……!」



ルーク、白丸に口付け……それに気付いた彼女はただ涙。


永遠の別れの前に……そういう意味か。

ただ今は二人、見つめ合う。




※※※




一方でイズミたち。

迫り来るプレジデントに、もはや打つ手はない。

ただ構え、警戒し、攻撃を防ごうとするスタンス。これでは時間の問題でしかない。

救援に来たノーランたちも、骨の檻の向こうからでは攻めあぐねている……いや、もはやこの悪魔に対向する攻撃手段などない状態だ。



「クク……分かる……分かるぞ……どんどん儂の力が上がっているではないか!! これもデヴィルとの融合の賜物!!」



その言葉の通り、さらにその姿は巨大化し、既に成人男性の五人分以上の背丈となってしまっているプレジデント。



「この力……クク……サタン様と同格と言ってもいい……もう私を止められる者など居ない!! たとえ能面だとしても、たちどころに切り刻んでやるわ!!!」



恐怖を与える為か、その身体からは膨大な瘴気……さらに地面を腐らせるといった力の誇示をする。

なおこの男、悪魔を呼ぶ際は呼び捨てにしていた。サタンと呼ばれる者に対して敬称を付ける辺り、やはり心底悪魔に染まったか。それともアスモデウスの影響か。



「さ~て……まずはアメリアから……そしてトマス……その次は……ウヒヒ……だ~れ~に~し~よ~う~か~な~?」



血走った目をギョロギョロと不気味に動かし、品定めをするように各々へ視線を置く。

だがここで違和感。



「……」



イズミだ。プレジデントを見ずに、別の方向を見たまま動きを止めている。



「なんだぁ? 随分と余裕ではないか、この度の主役……ん?」



その視線に釣られたか、一緒にその方向を見てしまう。

不思議な光景……となれば、他の者たちもその視線を動かさずにはいられない。



「なんだ……? アレ……」



イズミが一言。

この状況で、別の何かに気を取られるなどもってのほか……だが、そうさせてしまう力がその方向にあるのだ。

そしてプレジデントすら、その様相に思わず言葉を発してしまう。



「……? 何だ……?」





()()の……気勢……?」




※※※




「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……」



空弧が口を開けたまま、奮えつつその場にしゃがみ込んでいる。

この大妖をここまで震え上がらせる何かが起きている……?



「あ、ありえ……ありえ……あり、あり……」



『ありえない』とでも言いたいのか。

いや、今目の前で起きていることは……ありえないと言っていいだろう。



「……? え? ……あ、あれ……?」



青い光だった筈。

だがそれは気が付けば()()()()()へと変化しており、今ルークからの口付けを受けた白丸に大きな変化が起こっているのだ。



「ど、どう……して……!?」



彼女自身がひどく驚いている。そう、白丸は命を手放す間際だった筈だ。


しかし虹色の光に包まれた彼女は、みるみる()()姿()()()()()()()

いつもの美しい髪にその面差し、肌の艶から張りまで全てが従来通り……否、今の白丸はかつてない程の美しさを醸している。



「……嘘だろ……う? 白丸はもう……生命そのものが底を付いていたんだよ!?」



思わず空弧が口を開く。その謎を知りたいのだろう。



「内に秘める気が少なくなった……強く疲労している……そんな話じゃないんだよ! 生命力ってのはそう簡単に戻るものじゃないさね!! ルーク……一体……一体あんたは何を……」



命は、気や疲れとは違う。

失われた生命力というのはこの世において術等により、また第三者の手で戻せるものではないのである。



「つまり、あんたのやってることは……()()なんだよ!? ど、どうしてそんな……ことが……」



驚愕と通り越している空弧を後目に、虹色の輝きの中から少しだけ顔を覗かせるルーク。



「ルー……ク……」


「へへ……元の白丸ちゃんだ。もう大丈夫だな!」



一体何をしたのか……いや、そもそも彼自身が何かをしたという自覚がない雰囲気である。



「ち、ちょっとルーク!! あんた、一体何をやってんだい!?」


「ん? 空弧じゃねーか。居たのかよ」


「……へ!? い、今気付いたのかい……ってどうでもいいよそんなこと!! 一体何やったんだい! 白状しな!!」



顔をかりかりと掻きながら何かを考えている素振り……だが、どうも答えが出なさそうである。実際ルークの一言は……



「知らねーや。()()()()()()()()()()()()()()()()()


「こ、こ、こ、細かい!?」



ここで白丸を見つめる彼。



「こうして白丸ちゃんが元気になったんだぜ? そんなくだらねーこと聞くなんざ野暮だぜ、野暮」


「や、や、や、や、野暮!?」



そのまま、へなへなとまた地面に顎を置く空弧。自身の常識にはない何かをやった……それだけしか分からない上に、肝心のルークがこの反応……もうその謎を追求する気持ちも消えたようだ。



「!?」



そしてさらに何かに気付く空弧。



(……腐った地面が……また……)



プレジデントにより腐ってしまった地面。

それがルークを発端として、徐々に()()()()()()()()()()()


草、花、木が……まだ寒さを残している今の時期であるにも関わらず、青々と茂り始める、さわさわと音を鳴らし喜んでいる。この二人を祝福しているかのように。



「さ、白丸ちゃん。さっさと終わらせてデートでもしようぜ!」


「うん!」



虹色に包まれる笑顔の二人。

空狐の位置から、白丸の姿はかろうじて見えるが発光源のルークはその満面の笑顔が僅かに伺えるだけで身体全体は見えない。


一体彼はどうなっているのか。

既に腹部の傷を痛めている様子はない。いや、それどころか燃え上がる力を自身の身体に抑え込めていないように見える。



「あ、あれは……?」



だが空弧、伊達に大妖ではない。とてつもない眩さを放つルークの姿を僅か捉えたようだ。



「……ああ、そうかいそうかい……ルーク、()()があんたの……究極の力なんだねぇ……」



そしてニヤリとし、そのまま伏せる。至極納得したような印象。

ルークの究極の力とは?



「たしか西国は、宝石に言葉を込めてたねぇ……青石なら『誠実』、翠玉なら『幸福』。それなら、今のあんたたちにぴったりだよ……うふふ……」



もう空弧はその場から動かない。

まるで安心したかのよう。まるで……そう、ルークの勝利を微塵も疑っていないように見える。


ではその宝石とは?


白丸も空弧も、心から安心させてしまうその究極の力とは?


そしてそれには、一体どんな言葉が込められているのか……



「さあ、軽く捻ってやらあ。見せてやるぜ……俺の……最っ高の力を、拳をな!!」





そう。





その宝石に込められた意味……それは……





「ジュエルクロス……」










()()()()』――――――――――










「…………ダイヤモンド……!!」

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