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第420話 戦いの狼煙

巨大な悪魔を前に、最も至近距離へ近付くルーク。

不安そうなアメリアだが、もうそれ以上何も言えない様子だ。だがもう一人、プレジデントに因縁がある者が居る。



「ルーク、私も君と……」


「駄目だ。トムさんもまるで力が残ってねぇ……死ぬぜ?」



トムである。彼と並ぼうとするのだが、手で差し止められてしまう。



「俺だけはみんなに力を分けてもらってるからな。どっちにしても俺が適任だぜ」


「しかし、一人で戦える相手では……」


「トムさんの手も、こんな野郎で汚していいものじゃねえ。なあ? 将来のプレジデントさんよ。アンタだって、馬鹿みてえにその手腕を振るわなきゃならねえんだ」



かつてトムは約束した。そして道においても彼女と約束した。自身がプレジデントとなり、西国を変えていくと。それはもちろんルークも知るところである。



「ルーク……」


「それに、この後クソみてぇな数のデヴィルがやって来るんだろ?」



実はもっと先を見据えていたルーク。言葉をさらに被せていく。



「俺ってよ……基本タイマンしか張れねえんだ。土魔術も、あんま広範囲には放てねーしな。でもトムさんやアメリアにはそういう武器がある」



そういえばルークは、ジュエルクロスで殴り合うという性質上、一度に複数の敵と戦うことに不向きである。土魔術もあるのだが、広範囲の敵を一網打尽という術は身に付けていない様子。



「イズミちゃんもサイゾウも、ゴウダイもミナモちゃんも……いい感じで敵を巻き込む術持ってら。それが無い俺って、やっぱこういう戦い向きなのな」


「君は……そこまで見越してたのか」


「たりめーだぜ。ムリョウは終わりとかなんだか抜かしてやがったが、そんなもんさらさら信じる気はねぇよ。きちんと後のことを考えて、俺は俺のやるべきこと……そう、このクソボケをぶっ飛ばすって役割を担うぜ」



彼は他の仲間たちの疲弊、そしてその後襲来する悪魔たちを考慮していたということ。そして自身の特性も鑑みた上でこの判断に至ったのである。だから立ち向かう。自身も決して万全とは言えない状況でも、そこには触れずプレジデントの前に出る。



「……」



それを、冷めた目で見つめているプレジデント。

そんなことも構わず、ルークが挑発をする。



「てなわけだ、プレジデントさんよ。俺が相手……」


「……貴様のような落ちこぼれに……」



彼の言葉は特に耳に入らないのか、まだ話半分の内にその大きな腕を振り上げる。



「用はない――――――――!!!!」



ドッ…………オォォ――――――――ン!!!



そして真下へ。虫けらを手で踏み潰すかのような所作。

砂煙が舞う中、振りかざした手を戻し、呆れたような面差し。



「貴様はただ儂にその力を啜られていればいい。クズが……意味も無く出しゃばるな」



おそらくこの者の中で、ルークの評価というのは彼が西国に居た時のままなのだろう。注視すべきはトムとアメリアのみ……よって歯牙にも掛けないのだが?



「へー……そのクズを倒せねーテメーは何なんだろうな? クズ以下……いや、クズに失礼だぜ」


「!」



足首が地面にめり込むも、両手を交差させ攻撃を受け防ぎきったようだ。プレジデントの面差しが僅かに変わる。


だがルーク、言葉とは裏腹に、誰にも見えないよう苦悶の表情。



(なんだよこの攻撃……ただの力任せのクセにとんでもねー衝撃だ。全力じゃねえ筈なのに、これじゃ先が思いやられるぜ……)



つまり効いてしまっている。だがそんな素振りはおくびにも出さない。



「何度も言うぜ? テメーの相手は俺だ。トムさんやアメリアに手ぇ出してーなら、俺を倒してからにしな」



そしてさらに挑発。トムとアメリアが狙われないよう、自身に標的を向かわせているか。



「……このようなクズが儂の一撃に耐えるとは……手を抜き過ぎたか」



だがプレジデントの目線はあくまでアメリア、そしてトム。まずはこの二人に絶望を味わわせてやりたいという気持ちが強いように伺える。



「ルーク! ボクたちも加勢する!」



ここでイズミたちが気勢を上げ、参戦しようとする。

だがルーク、これも手を差し出し止めようとする。



「な、なんでだ? 皆で戦えばいいじゃないか!」


「イズミちゃん……だけじゃねえ。サイゾウもゴウダイも、ミナモちゃんもまるで力が感じられねえ。生半可な気勢でコイツの攻撃喰らったらマジで死ぬぜ? ここはみんなから力をもらった俺が一番適任なんだよ」



そう。ルーク以外はもう……

よって加勢は不要。それどころか彼はこう提案する。



「みんなにゃ休息が必要だ。ここは俺が何とかする……だから一旦町に戻ってくれ!」


「そんなこと出来るか!! 力を合わせて戦えば……」


「だから合わせる力が無くなっちまってんだろ!! ……俺なら大丈夫だぜ。いつものように怒涛の逆転劇で決めてやっからよ……」



強がる。

もっとも、既に皆はそれに気付いているような雰囲気。彼もまた、譲渡を受けたとはいえ疲弊しているのだ。


そんなやりとりをしている間に、プレジデントが動いている。

背中の部分の肉が動き、何かを引きちぎるような音を立てて……なんと骨が飛び出す。



「な、何よアレ……背骨……?」


「クク……逃がすと思っているのか?」



気持ち悪いのだろう。ミナモが青ざめながらその様相を指差す。

プレジデントはこちらの思惑通りにさせないつもりか、何かをしでかす雰囲気である。


さらに緊張が走る中、その骨格が全方位に広がり檻のような様相を示す。

上部から見ると円形模様。やがてその骨は背中から外れ、鳥かごのようにも見える。



「封じ込められた……? 面妖な技を……」


「こんなもの!!」



忍術にはない術……いや、技か。見慣れない特殊技能の正体を見破ろうとするゴウダイ。一方でイズミ、破壊しようと拳を振り上げるものの……



「硬い……いや、なんだこれは!?」



拳が骨に当たった際に違和感。

それもそうだろう。彼女の力を持ってしても軽くヒビが入るだけ。しかもそのヒビですらたちどころに修復されてしまう。

なおイズミが破壊出来ないということは……



「今の状態だとは言え、イズミちゃんが壊せないとなると……」


「完全に閉じ込められた……?」



速やかにサイゾウが状況を整理。その答えを示すようにミナモから言葉がまろび出る。



「ハーッハッハッハッハッハァ!! これで何処にも逃げられな~い。イヒヒヒヒ……」



舌なめずりをしながら、醜悪な笑みを浮かべるプレジデント。

そして、この場に居る全員を屠る準備が出来たのか、身に纏う瘴気が安定したような……散乱している力がまとまるようなイメージ。



「……!? 地面が……」


「こ、これは!!」



トムとアメリアの目線が地面へ。

プレジデントの力が安定を見せたと同時に、徐々に地面が腐って行く。

そしてその様相は何処かで見たことがある。錆色の地面に枯れる木々、そして瘴気の残滓が辺りに撒き散らされ辺りの風景が霞み掛かる。



「……あ、あ……」


「……ッ!!」



震えるアメリア。歯ぎしりをするトム。

そう……この光景はまさに西国の町々。これで全てを察する。

あの光景を作り出したのは工場による汚染ではない。工場とは名ばかりの、人々の生気を啜りこの世に現れた悪魔たちの仕業だったのだと。



「……」



もう言葉が出ない二人。

許せない。目の前の悪魔が許せない。その命を賭してでもこの者を討つ……これまでの覚悟に加え、別の覚悟が上乗せされた時、すでにこの男は動いていた。



「テメーは……ぶっ殺す!!!!!!」



―ジュエルクロス・サファイア!!―



気勢を上げ、ジュエルクロスを纏うルーク……だが?



「……チッ!」



舌打ち。何故なら、纏われているのはサファイアではなくトパーズ。二段階も落ちてしまっている。彼自身、やはり相当力を失っているのだろう。


プレジデントはそんなルークに一瞥もくれず、トムとアメリア……特にアメリアに執着しているようで、実の娘に向けるようなものではない嫌らしい視線を置く。



「さあデヴィル……しかも爵位持ちの力、存分にその身で受けるがいい。なあに……力を啜るだけだ。アメリアのものは……さぞ美味いのだろうなぁ……フヒヒ……」



ギリっと歯を鳴らす彼女。

やはり自分が、やはりこの手で……そう考えているのか、まともに気勢も発せない状態であるにも関わらずプレジデントへ向かって行こうとする。



「……やめろっての。俺がやるって言ってんだろうが」


「ですが貴方も……その鎧では……」


「それでもお前らよりマシだっつーの。いいからよ……信じてくれ……」



さらに気勢を上げるルーク。

だがジュエルクロスは、トパーズとエメラルドを行ったり来たりという不安定な状態。


それでも関係はない。


東国滅亡の危機はまだ続く。それを打破する為に、まずはこの悪魔を確実に葬らなければどうにもならない。


必ず勝たなければならない……負けは許されない。


敗北は、イコールで全滅。


リュウシロウがムリョウに対応している今、彼には期待出来ないのだ。


さらに、まだ皆は知らないが、この戦いこそがこれから起こる悪魔たちとの最終決戦の狼煙となるのである。


それを最初に上げるのは……ルーク。

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