表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
417/518

第417話 一矢報いる

―西国―



ここは中枢。

プレジデントの部屋に一人……何者かが窓から外を見て苛立っているようだ。



(それにしても、まさか……アスモデウス様が敗北するとはな。いくら本体が無いとは言え、あれほど容易く……能面め……)



浅黒い肌で、中肉中背の男性。スーツを着用しており、一風紳士に見えなくもないが……中身は紛れもなく悪魔。



(まあ良い……残り一時間と言ったところか。そろそろ向かわねば……)



そう思いつつ、プレジデントの自室から扉を開けて外へ出る。

するとそこには三名……浅黒いもの、そうでないものと居るが、全員が時折怪しげな牙を見せている辺り悪魔なのだろう。



「経過はどうだ?」


「はっ。順調です。これほどの魔方陣でしたら七十二柱、全ての本体の召喚を行ったところで残り一時間程度だと思われます」


「予想通りだな。ああ、そう言えばアスモデウス様の本体どうした?」


「抜かりなく。既にトウゴク? と呼ばれる地へ転送済です」



ここでニヤリとする男性悪魔。



「仕事が早いな。クク……少々侮りが過ぎたようだが、どちらにしてもこれで終わりだ。ついでにトウゴクという地の人間の気も……啜らせていただくとしよう」


「アロケル様」


「……? どうした」



アロケル……この悪魔の名前か。



「この地……アンナ=メリアの人間は如何致しますか? もうかなりの数、僻地へ逃げ込んでおりますが……」


「もはやこの国は死に体だ、放っておけばいい。()()()()()()、その命を我々の為に費やしてくれたのだ……せめて後回しにしてやろう。それよりも能面だ……我々を愚弄したその罪は……重い」



やはりムリョウが目的か。

さらに西国の人間の命が費やされた……? やはりリュウシロウの読みは当たっていたか。


その後、アロケルは建物を出て見晴らしの良い場所へ訪れる。

だがその視線の先の多くは、草木一本生えていない赤茶色の土地ばかり……すでに土が死んでしまっていることを伺わせる。


なおそれらの様相は町によく見られたのだが、そういう町には大きな煙突のようなもの等、大規模な建物が確認出来る。何度も話に上がっている工廠なのだろうか? それとも……

そんな景色を、口角を上げつつ眺めているアロケル。


その時。



「……アロケル様。準備が整いました」


「む? クク、そうか……ならばもう私の命令など必要あるまい……」



準備? 何の準備なのか。

この広大に見える土地で何が行われるのか。だがその土地で何かをしている様子はない。

ただアロケルの傍には数人の悪魔らしき者がおり、この世のものとは異なる言語でぶつぶつと唱えている姿しか見えない。


だがそれこそが……この世における終わりの始まり。





「この世と地獄を繋げ……!! 残りの七十二柱、全ての本体と共に!!」





まるでその言葉に呼応したかのように、西国全体に大きな揺れ。

すると目の前の土地……いや、西国中が輝くような様相。



「人間というのは本当に愚かな生き物だ。工場? まんまと騙されおって……」



その輝きは時間を置くと収まりを見せるのだが、未だ輝き続ける場所……それは線上に輝いており、その途上にはなんと町。


その線を全て辿ると、星型の何かの図形のように見える。しかも極めて広大。

そう……()()()である。つまりプレジデントは、紙や部屋などに作るような小規模なものでなく、それこそ西国中に魔方陣を描いていたのである。

よくよく考えれば、プレジデントが悪魔に乗っ取られてからある程度経過している。その時間は十分にあったのだろう。よって、いくつかは線上から逃れているが、既存の町を出来るだけ巻き込むように魔方陣を描いたのだと考えられる。


結論を言えば、リュウシロウの考察は正しかったのだ。

線上にある全ての町は、おそらく人間を糧にするためなのだろう。工場という名の、悪魔の施設を使って。



「クク……フハハハハ!! さあ出でよ!! 地獄の支配者たち!!」



おぞましい叫び声、若しくは歓喜の声を上げながら、黒塗りの風景と共に悪魔らしき何かが夥しい数立ち上る。


それはたちまち西国の空を黒で染め上げる。その様相から、遠い郊外へ既に避難している西国の住民たちの目にも映る。



「なん……だ……アレ……?」

「何なの!? 空が……真っ黒に……」

「は、早く隠れるんだ!!」

「デヴィル……なのか……?」

「怖いよぉ……」

「うあああああああ!?」



中枢からいくつかの山を越えた先……それでも、その空の異様さはよく分かる。

その黒は徐々に広がりを見せ、やがて自身の身にも降りかかる……そう思われた。



「……? なんだ?」

「向こうに行くぞ……? 助かったのか?」

「海に向かってないか?」



その漆黒は、西国の民が見ている場所とは真逆の方向へ進んで行く。

だがその方向は海……つまりその先にあるのは……



「……おかしい……」



一方でアロケル。

この絶望的な様相を見て何か怪訝な面差し。気になることでもあるのか。



「少なすぎる……数分もあれば、このような地の空……たちまち地獄色に染まる筈だが……?」



本来であれば、もっと多くの悪魔が召喚されていたということか。

では何故そのような状況に陥ったのか……彼は周囲を見渡す。特に魔方陣に注視している様子。



「……? あれは……?」



アロケルの目線の先。

それは魔方陣の外側になるのだが、その一部が消えかかってることに気付く。

もっとも、どのように消えているかはこの距離では分からない。



「ふん……時間を掛け過ぎたか。それにしても……おい、貴様」


「は……は! 如何されま……しょへっ!?」



なんとアロケル。近くに居た雑兵と思わしき悪魔の首を刎ねる。



「使えんヤツは要らん。魔方陣の維持管理は徹底しろとあれほど言った筈だ」



ザンッ――――!!



さらに、その周囲に居た数体の悪魔の首もなぎ払う。



「クズが……ああ、貴様はいい。私は……使える者は好きなんだ……クク……」



先ほど、アスモデウスの本体を送ったと思わしき悪魔には良い顔をするアロケル。その悪魔は青ざめつつ、お辞儀をする。



「まあ……構わんだろう。このまま召喚を継続しろ。時間は予想よりも大きく掛かるが、結局は時間の問題だ」


「は……はっ、かしこまり……ました」




※※※




ここは中枢から遠く離れた場所。

下草程度しか見当たらない、だだっ広い極めて広大な土地。見通す果ては地平線……東国にはない光景である。


だがよくよく見てみると、とある部分が線上に大きく抉れている。

そして、その末端辺りで寝そべる一人の男性……



「はあ……はあ……これ、間に合ったのか~?」



それはなんと、プレジデントの目論見をある程度看破し、一人中枢を出たアドルフ。



「空が黒くなってら……チッ、やっぱ俺の思った通りじゃね~か……」



空が黒い……つまり悪魔たちが召喚されたタイミング。

それを見て、少し悔しげな面差しを見せる彼だが?



「へへ……でもあの様子じゃ、魔方陣はちゃ~んと機能してね~みたいだな」



まさかアドルフ、魔方陣が十全にその能力を発揮出来ないよう、描かれた一部を消したか。

彼は怪しげな空を見つめたまま思う。



(そりゃ能面も見つけられね~筈だ……まさかアンナ=メリア全体に魔方陣描いてんだからな)



そう。西国という国の土地そのものに描くことで、逆に発見が出来なかったのだろう。あまりにも大き過ぎるのだ。

よって、彼の行動は窮鼠猫を咬む程度の行いであることが否めない。だがアロケルの発言からすると、目に見えて効果があったと言えるだろう。



「……」



アドルフは真顔……と言うより、少し歯がゆさが見えるような印象。



「ちょっとは……役に立てたのか? 俺も……東国に行きて~けどアンナ=メリアはほっとけね~し……今はハーマンさんと俺しかしねぇからな。後はルーク……任せたぜ……」



渦中の東国へ自身が赴けないことを悔しく思うか。


だが彼は知らない。


この一手が……少しでも悪魔たちの召喚を遅らせたことが、絶体絶命の危機で()()()()()()()()()()()()()()()となることに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ