第41話 ごぎょう神社の現状
茶番もひとしお、目前にはタメノスケとその仲間が二十人程度……戦闘前に、イズミとトムの表情も固くなる。
なお茶番の最中、真っ先にボケそうなイズミだが……
「……リュウシロウ……だけが狙いじゃないよな?」
沈黙を保っていたのはそれなりの理由があったようだ。疑問をタメノスケに投げ掛けてみる彼女。
「ほう……これはこれは美しいマドモアゼル。その容姿に違わず聡明でいらっしゃる。このクズと白豚とは大きな違いだ。……そう、貴女方全員が目的なのですよ」
「ボクたち全員が? ……なるほど。先日のお礼参りと言ったところか……」
「この界隈、舐められると支障が出ますからね。貴女方の始末をさせていただきたく馳せ参じた訳ですが……どうやら始末するのはその白豚だけで良さそうです。貴女は……そうですね、スザク様への献上の品ということで……」
ニヤリと口ひげをさすりながら、紳士を気取る割に品のない辞遣いをする彼。
それにしても、リュウシロウとトムは不満そうだ。
「コイツが聡明……? やっぱこの西国かぶれ見る目が無えな……とことん利用されてポイ捨てされる未来しか見えねえよ」
「マッタクですね。我輩のコトを白豚と言う割には、ご自分ガ西国にカブレにかぶれている節操の無さも気にナリマス」
将棋の駒を裏返すほどに分かりやすく形相を変えるタメノスケ。『ブチッ』という音が聞こえそうだ。
「シャラ――――――――っプ!!!!! 黙らんかこのクソカスゴミ共がああああ――――!! 私はスザク様より信頼されているのだ!! そして西国にかぶれている訳ではない!! 心は西国! 見た目は東国というハイブリ――――っド且つ高貴なだけなのだ!!」
「……」
「……」
リュウシロウもトムも細目にし、完全に呆れている様子。
「ツマリはアレですね。西国の生活トカ様式トカに憧れを抱きツツも、西国人の見た目が好みじゃナイんデスネ」
「結局ただのかぶれじゃねえかよ。ま、あんな腐れ神社に出入りしているような奴だ。頭ん中も腐ってるに決まってるわな」
「アノ言葉遣いもちょっとオカシイんですよ。西国はソノ全てが同じ言語ジャなくて、地方によって異なるんデス。あの方、ゴチャマゼになってますよ? 西国をゼンブ一括りで考えてマスネ」
「つまりはかぶれでもあり、にわかでもある……ってことだな。ただのアホじゃねえか」
けちょんけちょん。
怒り心頭なのか、はたまた言い返せないだけなのか、タメノスケはこれまでにない規模で顔面を真っ赤に染める。
「ぶっ殺――――す!! 皆の者、一斉に掛かれェェェェ――――!!」
その指示と同時に、僧たちが一斉に襲い掛かってくる!
イズミとトムは身構え、臨戦態勢だ。
「っしゃー! お前らやっちまえ――――!」
「はぁ、リュウシロウ……」
「我輩タチ頼みジャないデスか……」
言外に『戦いは専門外』をアピールするリュウシロウ。二人はため息しか出ない。
「……!!」
「!!!」
「………!!」
「!! ……」
僧たちが一斉に、その手へあらゆる属性を灯らせる。
火、水、雷、風、土と、それらを表す様々な色で周囲が埋め尽くされる。
「こう見ると魔術も綺麗だな」
「デスネ。外で練り上げる分、過程も楽しめマス」
「言ってる場合かよ!?」
余裕のイズミとトム。しかし戦えないリュウシロウは溜まったものではない。身を低くし、ずりずりと後ずさりの最中だ。
相手は半数が二人に接近し、残り半数は後方で構える援護の姿勢だ。しかし……
ズドォォ!!!
「――――!!」
「次!」
炎を手に纏い、腹部を狙ってきた僧の初撃を半身で躱しつつ、右拳で遠慮なくみぞおちを殴打するイズミ。僧は声も上げずにその場でうつぶせに倒れる。
一方でトム、即座に印を結び……
「我輩、近距離戦は苦手なのデスヨ。ニンポー……」
ー攻勢・旋風!!ー
ゴォォ――――!!
「!!!!」
「――――!!」
「……!!」
近付こうとする僧たちを、風で一網打尽にする。回転させられながら空中に舞い上げられた僧たちは、平衡感覚を失ってしまったのか受け身も取れず地面に叩き付けられる。
完全にイズミとトムが優勢……と思いきや、
ーブリッツファイア!!-
ーウォータープレス!!-
ープラズマボール!!-
ーウインドショット!!-
ーロックブラスト!!-
後方で構えていた僧たちが、立て続けに術を放つ。
あらゆる属性が二人に襲い掛かろうとする……ものの、すでにイズミは印を結び次の攻撃モーションに入っている。
「忍法……」
ー強空拳・崩潰!!ー
ズドォォォーーーーーン!!
両手を組み地面を叩き付けると、表層がめくれ上がり向かって来る全ての術の進行を阻害する。そしてさらにイズミは叫ぶ。
「トム!!」
「分かってマスで候! ……ニンポー!」
ー守勢・風波!!ー
めくり上げた土や石などをトムが生み出した風に乗せ、そのまま攻撃へと転じる。
それらが直撃し、バタバタと倒れる僧たち。
気が付けば総勢二十人程度が、軒並み倒れているといった有様だ。
「ナイスコンビネーションですネ! イズミサンと我輩の相性はバツグンですヨ!」
「ああ! ……だが……」
細い目を丸くして小首を傾げるイズミ。
「ドウしたんデスカ?」
「ちょっと弱すぎないか? 魔術ってこんなものなのか? なずな町の時も思ったんだけど……」
トムは顎に手を当てながら、何とも難しそうな顔をする。
「マズ、この方々が使った魔術は初級のモノで、ハッキリ言って戦闘力はアマリありません。モウ少し、人選をドウにか出来なかったのかという疑問はアリマスが……」
「居ねえんだよ」
突然、吐き捨てるように冷たく断言するリュウシロウ。
「居ナイ……って、ごぎょう神社と言えば、一揆と並ぶ東国最大勢力のヒトツですヨ?」
「人材育成に関してはまだ着手したてってことだ。俺が五年前にあの腐れ神社を出た辺りじゃ、まだ西国との関わりは感じられなかった」
「?? ソレもおかしいデスヨ。魔術使いの育成ドーコーは置いてオイテ、ソモソモあそこなら多くの忍を抱えてイテモおかしくはナイでしょう」
「お抱え? そんな連中元々居ねえ。どうしてごぎょう神社が最大勢力のひとつかって、それはあのクズ共三匹だけで、数年で築き上げたものなんだよ」
「ハイ……?」
よく理解出来ない様子のトム。
(先遣隊として東国に来た時は、ごぎょう神社の名前なんてかすりもしませんでした……となるとそれ以降の数年間で……? しかもたった三人で?)
たった五年で、東国最大勢力の天津国忍一揆に並ぶ力を持ったという事実に、トムは驚愕する。
しかし、本来たった三人の影響などたかが知れている……そう考えるのが普通だ。
「デタラメに強いってことか……」
ここでイズミが口を挟む。力を強く求める彼女だけに、即座に理解出来たようだ。
「ああ、ムカつくがその通りだ。俺が腐れ神社を出る前から、あのクズ共は一揆無視で妖怪討伐に勤しんでいたが……それが実った訳だ。決定的だったのは、それを咎めた一揆の中枢……つまり、番衆の一人をぶちのめしたことだな。だからあそこと腐れ神社の関係は最悪なんだよ」
「華武羅番衆……だと……?」
「ああ。そんな連中だ。兵隊が居なくても自分たちだけでやって行ける……筈なんだがな。くだらねえ野望の所為で、事情が変わっちまったようだ」
身内のことはあまり話したくなさそうなリュウシロウだが、事が事だけに苛立ちつつも説明をする。なおイズミ、リュウシロウのきょうだいが華武羅番衆を倒した事実を知り、目を見開いている。
「だから人選も何も今さら一から集めてる、そんでまだ魔術を普及している段階……となりゃ、雑兵共の実力なんてたかが知れてらあ」
目前の僧たちは強くないという結論を出したものの、彼は未だ浮かない面差し……理由はその視線の先にあるようだ。
「なあ、タメノスケ」
「その名を呼ぶなと言ったでしょう? ……まあクズとは言え、一応スザク様と同じ血が流れているだけのことはありますな。概ね合っていると言っておきましょう」
これまでのように怒り狂うことのないタメノスケ。
むしろ口ひげを触り、含み笑いすら浮かべているような印象だ。
リュウシロウは続ける。
「イズミたちの戦闘力を把握した上でこんな雑兵を宛がう。その上で本気で俺を攫おうとしている……この事から導き出される答えはひとつだ」
イズミは何かを把握したようで、リュウシロウと同じくタメノスケに目線を置き、身構えつつ口を開く。
「そうか……この男に、それだけの力があるって事か……」
「ご名答です」
先ほどのコミカルな雰囲気はどこへやら。
彼は身体から大きな狼煙を立ち上げ、あからさまに口角を釣り上げ下目遣いとなる。
「さあ、ショーを始めましょうか」




