表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
407/518

第407話 滅びの足音

もう何も出来ない。

力を分けられたルークが何とか前に躍り出るが、警戒するままで何をすることも出来ない。


何もかもが……振り出しに戻ったのだから。



「……もう……抵抗する力は無さそうだな」


「……」



ムリョウの一言に何も言えない。

イズミは項垂れ、悔しげな面差しのままだ。



「……」



一度全員を一瞥し、ムリョウはスゥと空に上がる。

周辺の木々よりも高く上がった後、片手を空にかざす。



「もう、貴様は死に体……何も出来まい。他に対処が可能と言えそうなのはゴウダイだが、今はどうにもならんだろう。そもそも天駆ける鳳凰だとしても間に合わん。ルークは比較的力を残しているようだが、貴様の性質上これらへの対応は不可能だ」



ムリョウが懇々と説明をする。その口調はどことなく、皆に諦めて欲しいという気持ちがあるように思える。



「……あ、あれは一体!?」


「何……だと? いつの間に……」



ここでアメリアとゴウダイが何かに気付く。

他の者はそれに釣られて視線を映すのだが、そこにはとんでもない光景が広がっていた。



「……ほ、星……!?」


「いえ、違います……アレは……」



ミナモの『星』という一言。それに見間違えるようなものがあるのか。トムはそれが星ではないと見抜くが……では一体?



「……術……どの玉も属性を含んでる……それに……大きい! あんなのが落ちたら……」


「この世の終わりじゃねーか!!! なんだよアレは!!」



サイゾウがその謎の玉の分析をする。そして……ルークの決定的な一言。このようなものが東国の空の至るところにあり、それが落ちようとしている。

まさしくこれは、滅亡のカウントダウン。


しかし、そのようなものを一体いつ準備したというのか。



「……私は……虚喰いの討伐が不可能と気付いた時から、何もしていなかった訳ではない」



皆が一斉にその言葉に耳を傾ける。不安と焦りにまみれた面差しで。

だが一人、怒りを示す者が居る。



「あんた……()()()()()()()()()()()……こんなものを……」


「……」



これまで沈黙を保っていた空弧だ。



「……結局……あんたは最後の最後で……」



だが怒りは即座に収まり、どちらかと言うと失意の面差しへと変化する。



「あたしですら……信じられなくなってたんだね……」


「……」



ムリョウと空弧は一蓮托生という印象だった。だがこの行いは知らない……黙っていたのだろう。


ただ誰にも言わず、懇々と世を破滅に導くものを作り上げていたのだ。

たった一人で、信じられるべき友である空弧にすら何も言わず……



(どうしてムリョウは……ここまでしてみんなの命を奪おうとするんだ……? 分からない……そこだけが分からない……)



片膝を付きつつ思考するイズミ。

行動原理が……何故ムリョウがこれほどまでに徹底して、世を滅亡に導こうとしているのかが分からない。


そんな彼女の気持ちが少しでも分かったのだろうか……それはふと出ようとする一言。



「……許…………」



『許せ』という言葉を吐こうとしたか? だが踏み止まる。



「いや……先ほどもそうだったが……一体私は何を言っているのだろうな? 許せ? 違う……」



まもなく、空からとてつもない重圧が降り注ぐ。

いや、この場だけではない。東国の空のあらゆる場所からだ。



「死してなお……()()()()()()()。永遠に私を憎み続けて欲しい。……このような結末にしか至れなかった私を……」


「……?」



かろうじてイズミは空を見上げ、今もなおムリョウを視界に入れる。

だがまろび出た言葉の意味が分からない。


今その能面の中ではどのような面差しをしているのだろう。

それは誰にも分からない。例え空弧と言えど、その面を外さなければムリョウがどのような表情をしているのかは知る由もない。



「……さらばだ」



最後のそう言うと、かざした手を下へ。

すると、東国中の空から巨大な、各々が属性を灯した光弾が降り注ごうとしている。


そしてムリョウ、新たに光弾を作り出す。これには属性が灯っていない……つまりイズミへの対策。

これから各地で光弾の対応をしようにも到底間に合わない。その上、今目前にあるものに対応しなければならないことから、元よりそんな心配をしている場合ではない。



「あ、ああ……」



東国が滅びる。

それが徐々に現実味を帯びる。

イズミのその瞳に、絶望と恐怖が宿る――――――――




※※※




―すずしろ町―



すずしろ町では、光弾に気付いた民たちが逃げ惑う。



「な、なんだアレ!?」

「太陽!? 落ちてくるぞ!!」

「きゃあああああああああ!!」



町の場所的にも、これと言って手練れの居ないこの町は、ただただ民が怯えて混乱するのみ。一揆の者も少数居るようだが、まるで避難には従わない。思い思いに逃げようとしている状況だ。




―なずな町―



ここでもすずしろ町と似たような状況である。



「た、助けてぇぇ――――!!」

「早く!! 町の外へ逃げるんだ!!」

「お母さぁぁぁ――――ん!!」



落ちてくれば無事では済まない。それをかなりの遠巻きからでも認識させられる。中にはその場にへたり込み、嗚咽する者も少なくない。




―はこべら町―



東国人のみでなく、西国人も少なくないはこべら町も、光弾に気付き避難を始めている。しかし、他の二町よりも比較的秩序が保たれているようだ。



「……よし、お前たちは建物にまだ民がおらんかを確認じゃ! その後急いで……可能な限り町から離れよ!!」


「はっ!」



理由はこの者……なんと元華武羅番衆が一人フウマ。

老体にムチを打ち、はこべら町に残る民たちを避難誘導する。彼が民たちの心の支えとなっているようだ。



「ぬう……この折にあのバカモン……何処まで買い出しに行っとるのやら……坊主……お主なら……どうする?」




―ごぎょう町―



「スズメ!! 進んでるかい!?」


「大丈夫だよぉ! 半分くらいは避難してる!」



ごぎょう町においては、神社の関係により未だその地に残るカケスとスズメが避難誘導に当たる。さらに他の鵲メンバーも呼び寄せたようで、長蛇の列の前には見慣れた顔が確認出来る。



(なんてことに……フウカさんもユヅキさんも、それにアメリアさんも……大丈夫かな……)



(リュウシロウさん……貴方が居てくれれば……)



不安そうなカケス。無理も無いだろう。これから落ちようとする光弾の壮大さを見てしまえば……




―せり町―



「ひいいいいいい!!」

「でかい玉が落ちてくるぞ!!!」

「逃げろ……逃げろ――――!!!」


「落ち着いてください!! まだ猶予はあります!! 出来るだけ子ども、老人、女性、男性の順で、このまま真っ直ぐ町の外へ逃げて下さい!!」



ここでも当然混乱状態。

だがしきりに声を挙げ、一揆の者たちと避難誘導に当たる者が居る。



「ふう……ま、参ったなぁ……買い出しでこんな場面に遭遇するなんて……」



なんと、その場にたまたま居合わせたテツ。

避難誘導だけではない。術を使い、町中を捜索。逃げ遅れた民が居ないかのチェックを怠らない。



(僕もリュウシロウ君くらい頭が良ければ……ねぇ……)




―すずな町―



「民の避難状況は!」


「はっ! 既に七割方……」


「では兵たちに伝えよ! 人海戦術において町中の民すべてを避難させた後、民を護衛しつつ北へ避難!! 遠巻きへの攻撃が可能な者は、退避しつつ光弾に対し攻撃を仕掛けよ! 無理と判断すれば直ちに逃げるのだ!!」



声を荒げるは……天津国忍一揆頭領、キョウシロウ。

兵たちへ指示を出し、未だ彼は本拠に残る。



「頭領! ……そろそろ町を離れる算段を……」


「馬鹿者。余がこの折に逃げてどうする。全ての民の避難が終えてからに決まっておろう?」



そう言い放ち、まだ居座る彼。もうその面差しに、能面に怯えていたかつての面影など僅かにもない。


その後ボソリ……



「……この東国の危機……余が出来るのはここまでか……リュウシロウ、貴様ならどうするのだ? 我がダチよ……早く地獄から還って来い……」



―ほとけのざ町―



「あのようなものが落ちれば……この町……いや、町を含めた周辺が消えてなくなるぞ!!」


「あ、ああ分かってるぜ! 今のところみんな逃げてるし、近付きそうな船は全部追っ払ったよ!」


「……とりあえず町の人は……ほとんど逃がした……」



未だほとけのざ町で要件中だったノーランに、エレンとアクセルが奮闘する。

応戦も考えたようだが、最早火力の次元が異なると考えたか、他の者たちと同じく避難誘導に入っているようだ。


空を見上げノーランは思う。



(私にこれを対処する力はない。だがルーク……お前なら……気持ちで跳ね除けてしまうのかもしれないな。それにリュウシロウ君。記憶の無かった私をここまで導いてくれた君だ……あれ以来姿を見せていないが、何故か期待……してしまうな)




※※※

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ