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第402話 無属性

『無属性』


それは属性を持たない、または既存の属性のいずれにも該当しない属性。

さらにもうひとつ……それは、『無にまつわる属性』。



(もしや……イズミは……? いや、ありえん……そのようなことが……)



イズミの謎に近付いたのか、真偽はともかくとして何らかの疑惑を抱いているような印象。



「……」


「?」



考える素振りから、能面越しでも明らかに彼女に視線を置いていることが分かる。なおイズミには自覚がないのだろうか? いささかきょとんとしたような面差しをする。



「!?」



急に彼女の険しい顔。ムリョウがいきなり火の玉や雷、さらには周囲に木々を茂らせその葉で攻撃を仕掛ける。

だが、いずれも最強の能面の攻撃にしては心もとない内容。いくつかは命中するのだが、まるで効果がない。



「信じられん……」


「??」



そこでまろび出たムリョウの一言。



「攻撃が届く間際、明らかに威力が弱まって……いや、ほぼ()()()されている……」


「……何を言ってるんだ……?」



攻撃を無効化? どういうことなのか。

なおイズミのこの反応、演技でないとするなら自覚がないことが伺える。



(つまりイズミは……他者の攻撃を無効化する力を持つ……? いや、邪鬼戦では明らかに苦戦していた様子があった。ならば私の攻撃でも問題はない筈だ……)



まだ答えには辿り着いていないか、探りながら思考を進めている様子のムリョウ。



(……そういえば邪鬼は術の類は使えん……イズミと同じく気勢のみの……)



ここでハッとした素振りを見せる。答えが出たか。



(……そうか! 対象は属性のある攻撃のみ……当たる間際に無属性へと変換するか! よって、着弾したところで命中したものは気のみ……だがイズミに対して気勢のみの攻撃は、よほどの手練れでなければ有効打とならん……そういうことか……)



つまり、イズミに対して属性を伴う攻撃は無属性へと強制的に変えられてしまい、命中したとしてもそれは属性との紐付けで使用した気のみということ。彼女は気勢のみで戦い続けた兵である。そのような相手に、多少の気でダメージは与えられないのだ。


だが、何故彼女にそのような能力があるのか疑問である。



(なるほど……サスケが自信を持つ訳だ。何をしたのかは分からんが、事実イズミに私の攻撃の大半が通用しない。以前から、妙に属性への耐性が高いと思ったが……力をさらに付け、よりそれが顕著となったか……!)



ムリョウは、他の自分自身にイズミを調査、観察などをしていたことから、成長の過程をよく知っている。その中で、以前から耐性があったことを把握しているようだ。


たしかにその見解通りである。


三文字に目覚め、最初に戦ったのはスザク。

当時の彼の実力は、イズミには及ばないにしても相当な火力を持っていた。だがそんなスザクの炎を掴んでは放り投げ、抱き抱え、灼熱を灯した攻撃を喰らったところで『なかなか』という感想だった。


そして次にゴクザ。

太陽を思わせるような光弾を放ち、ゴウダイ実家のある町を崩壊に導こうとしたものの、イズミの砕破鉄芯が触れた後に纏っていた炎が消えている。


その次は悪魔であるアスタロト。いや、正確には使い魔であるドラゴンか。

瞬時に木々を広範囲で炭化し、地面を赤く染め上げる炎をまともに喰らっても、『あちち』という感想で終わっている。ドラゴンも、そんな彼女を見て驚いていたのは記憶に新しい。


このように、戦いを経る度に属性への耐性が高まっていたのだ。そしてこの度、ムリョウの攻撃すらその属性を無効化してしまうまでに成長した……そう考えられる。


なお、今のムリョウの試すような攻撃を見て、仲間たちも気付くところがあったようだ。



「今ムリョウさん……無効化とおっしゃってました。たしかに着弾間際、みるみる勢いが消失した気がしますね」


「……そういえばスザクとの戦いでも、あの苛烈な炎を喰らっても平然としていたな……まさか……そんなことが……」



トムとゴウダイが話し合う。『無効化』という突拍子のない言葉をあしらえない辺り、彼らも思うところがあるのだろう。



「でもさ……もしそんなことが出来るなら出来るで、どうやってやったのさ……」


「ミナモさん」



ミナモの率直な疑問。これは誰しもが抱くだろう。

だがその答えは至極簡単なこと。忍であるなら、皆がやっていることなのである。

だからサイゾウはこう言う。





「なんで……イズミちゃんって、()()()()んだろうね」





『印』


それは忍が、自身の気と属性を紐付けする為の動作。

印を結びことでこれらが混ざり合い敵を穿つ矛、刃から守る盾などへと変化するのである。


だが力忍術は属性を伴わない、ただの気だけによるもの。印など必要はない。だが彼女はこれまで戦闘中ずっとそれを結び続けている。



「……印?」


「そう……力忍術は気のみの、忍術とは言えない忍術……本来は印なんて必要ないんだ。気勢を上げればそれだけで成立するもの……でもどういう訳か、イズミちゃんは昔からずっと術を使う前に印を結んでいる……」



この言いよう、彼はイズミの秘密を見抜いているか。



「儀式的なもの……なんじゃない?」


「それもある……いや、イズミちゃんからしたらそれでしかないんじゃないかな。気分が出るとか、力強くなれる気がするとか……そういうものなんだと思う」



少しずつ皆が察し始める。

だがその面差しは、『本当にそのようなことがありえるのか』といった印象。



「……ようやく、サスケさんの言葉の意味が分かったよ」



ここでついに出る答え。それは……



「貴様たちの想像の通りだ」



だがここでムリョウが口を挟む。目前のイズミを飛び越えて、サイゾウ以下仲間たちに言葉を投げ掛ける。



「ムリョウ……?」



彼が警戒するが、特に何かをしてくる気配はない。



「イズミ……どうやら貴様自身も理解していないようだな」


「?? さっきから一体何なんだ。理解? どういうことなんだ?」


「サスケが貴様に遺した力は、()()()()()()()()()ということだ」



彼女自身すら知らない自身の力。

ムリョウはその正体をはっきり捉えた様子。



「無属性は、属性が存在しないという意味に非ず……無属性という()()()()()()であるということ……」



無属性という属性? 意味が分からない。イズミの疑念を抱いた面差し。

だがその言葉に補足するかのようにサイゾウが口を開く。



「そう……イズミちゃんは、印を結び続けてずっと無属性を自身に紐付けしてたんだ。気だけじゃない……君のその力は、自身の気と無属性が共存しているんだよ」



無属性もまたひとつの属性であるという概念。これには誰も気付けなかった。()()()()()()()()()



「無属性っていう……属性?」



まだピンと来ないイズミ。

そんな彼女に対して、さらにムリョウが付け加える。



「そうだ。貴様の属性は『無』ではない。相手の属性を打ち消し、無力化する言わば無敵の属性。……受け継がれた三文字など、その力の上辺だけに過ぎんのだ」


「無力化……!? なんでボクにそんな力が……」



その言葉に疑問。この最強の能面との戦闘中の折に、これほど衝撃的な発現を聞けばまとまるものもまとまらないだろう。

ここでさらにサイゾウが口を開く。



「決まってるよそんなこと。だって君は……ずっと……サスケさんの教えを守り続けていたんだから……」



少し震える彼。この親子の関係をよく知るサイゾウだからこそ感極まるところもあるのだろう。



「その教えの通り、君はずっと印を結び続けて……無属性をその身体に宿し続けていたんだから……」


「……父……上……」



幼少期からずっと力忍術を高め続け、その都度印を結び続けていたイズミ。それは自身の身体に対し、十全に無属性を行き渡らせるに十分な時間だったのである。

実際、あのムリョウの攻撃ですら通用しない。それはサスケの指導の賜物、そして……もしかするとあの父はこの状況を予想していたのかもしれない。



娘とムリョウが拳を交える、今の状況を――――――――

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