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第388話 雷神の産声

・・・・・・・・・



・・・・・・



・・・



さらに、さらに深い所にまで落ちていくリュウシロウ。

そこは暗闇。それは認識出来ているのだが、なんとなくぼんやりとした、現実味のない感覚が蔓延している様子。



(さっきの女……誰……だっけ?)



いつの間にか姿を消した女性。それが誰だったのか、今もなお思い出そうとする。



(分からねぇ……でも笑ったら可愛いんだろうな。なんかもったいねぇよ)



気持ちが少し落ち着いたか、女性に対する所感も思う。だが、どうしても思い出せないようだ。

そんな中、遠巻きにふわりと景色が浮かぶ。



(……アレは……俺と……イズミ?)



すずな町の祭りでのあの一時。

イズミとリュウシロウが向かい合い。彼女は頬を桜色に染めている。



(そうだ……この後にイズミは消えたんだ。そこから……え? あれ?)



今となっては懐かしい景色。だがどういう訳か光景が変わる。


消えていくのはリュウシロウ。

そこには、いつの間にか彼と立場が入れ替わったように()()()()()()()



(そうなんだよ……この光景の二人は、イズミとサイゾウじゃなきゃダメだと思ってたんだ……そう……アイツはすげぇヤツだ。俺なんか……とても真似出来ねえことをやってのけた……だから……)



そう思う割には、今目前で繰り広げられる光景を直視出来ない彼。

だがそれも分かっている。どうして二人を真っ直ぐに見れないかなど分かり切っているのだ。



(はは……何頭の中でもカッコつけてんだよ俺は……そう……俺も……)





(イズミのことが好きだったんだ)





ようやく認めた。

いや、正確には自覚していた筈だが、無理矢理心に蓋をしていただけなのだ。

その結果リュウシロウはイズミから去ることとなった。


だが、その気持ちを認めたのと同時に、彼の面差しが大きく変わる。

少し後ろめたい、薄暗いようなものから、吹っ切れたような……いや、むしろ少しだけ笑顔ですらある。



(あの決断は、当時の俺が下したもんだ……だから今更とやかく言う気はねぇ。でも、俺のことを好きだと思ってくれていたイズミに対しては、絶対に筋を通さなくちゃいけねえ)


(アイツは俺が逃げたっていう認識はねえと思うけど、そういう問題じゃねえんだよ。一度好きになった女に対して、俺は成すべきことを成さなきゃならねえんだ!!)


(イズミやサイゾウだけじゃねえ。トムにだって白丸にだって、ゴウダイ、ミナモ、ルーク、アメリア……フウカ、ユヅキ、スズメ、カケス、鵲の皆、タメノスケ、テツ先生、エレンにアクセル、そしてノーラン……ウキョウにユウジンもだな。それにフウマのじいさん、キョウシロウ……ゴクザだってそうだぜ。そして……母ちゃんにだって……!!)


(青兄……赤姉……黒兄……親父……)





(ありがとよ……)





(もう逃げねえから……)





(自分からも、誰からも……俺は絶対に逃げねえ!!!)





(立ち向かってやるんだ……どんなことでもな!!!)





(もう……二度と……)





「自分には負けねぇよ――――――――――――――――!!!!」




そして最後にこう思う。




(……好き()()()ぜ……イズミ。サイゾウと仲良くな……)




――――――――――

――――――――

――――――




そして真っ暗な世界へ……いや、ここは……?



―…………ん―



「?」



―…………くん―



「……ん」



遠くから声が聞こえる。

だが心地よい声。朝寝坊をした時のことがふと過ぎる。


それはつまり……



「りゅー君!!!!!!!」


「うわああああああああああああああああああ!!」



飛び起きるリュウシロウ。

周囲は溶岩にごつごつした岩肌。つまり地獄である。



「よ、良かった……りゅー君……」


「え? 赤……姉……?」



目が覚めればそこは赤鬼の腕の中。

自身を抱き抱え、ぽろぽろと涙を流している姿がぼんやりとながら見える。



「俺……は……?」


「へへ……やりやがったな、リュウシロウ」



赤鬼の隣から、ヌっと黒鬼が現れる。



「黒兄……俺……」


「よく……戻って来たな……」



優しい黒鬼の顔が見える。徐々に意識がはっきりしてくる。


そう、リュウシロウは生きて戻ったのだ。

血液と吐瀉物まみれになり悶え苦しみ、死に掛けこそすれ生きてまた黒鬼たちと会うことが出来た現実に、ほろりと涙する。


だが何かおかしい。



「?? あ、あれ? 俺、血まみれじゃなかったっけ? 吐きまくった記憶があるんだけどさ……」



その言葉に、黒鬼がくいくいと親指である方向を指し示す。


そこには……



「あ、青兄!?」



そう、青鬼がそこで寝そべっているのである。ひどく疲れているようだ。

しかし青鬼ほどの者がここまで疲れるとは、一体何があったのか。



「落ち着いたお前をな、青が必死に治してたんだよ」


「……あ……」


「どんな傷だろうが一瞬で治しちまう青だが、おめーに鬼道を通したのは俺様だ。そりゃ苦労しただろうよ。俺様っつー超究極最強弩級の力に煽られながら、クソ貧弱なてめーの身体を上手く治すってのがどんだけめんどくせーかって話だからな」



だがそれだと、リュウシロウの身体など即座に吹き飛びそうだが?



「ま、俺は鬼道を通しただけで、おめーの苦痛は身体に無理が起こって起きたことに過ぎねえ。とは言え、その鬼道は俺様の特別製だ。治す際に俺様の鬼力が邪魔したんだろうな」


「……」



ごくりと息を呑んでしまうリュウシロウ。

心から生きてて良かったと思う場面なのだが、彼は真っ先に青鬼のところへ駆け付ける。



「青兄……」


「リ゛、リ゛ュヴジロ゛ウ゛……良がっだな゛ぁ゛……」



自分の心配よりもリュウシロウの心配。青鬼らしい。



「青兄……ありがとな……ほんとに……ありがとな!! 赤姉も……ありがとよ!! 赤姉が……ああしてくれたから……俺は決断出来たんだ」


「ありがとぉ♪ でもね、決断したのはりゅー君だからね? 頑張ったのもりゅー君……」



そう言いつつ、ギュッと抱きつき彼の頭をこねくりまわす赤鬼。

リュウシロウは照れくさそうだ。


そして……



「黒兄も……ほんとに……ありがとな……俺……黒兄が……皆が居なかったら……」


「あんなもんクソ以下の労力だっての。何かやった内には入らねえよ。それに、耐えたのはおめーだ」



黒鬼もリュウシロウへ近付き、その無造作な髪が置かれている頭をくしゃくしゃにする。



「へへ……いい顔になったじゃねぇか……よくやったな、リュウシロウ」


「あ、ああ……!!」



まるで、兄に褒められたような反応をする。

少し顔を紅潮させ、照れくささを見せているものの、とても幸せそうな素振りを見せる。


皆が笑顔となり、その後ほんの一時。


まもなく黒鬼が腕を組み、ニヤリとする。





「見せてみろ。おめーの力を」





ハッとなるリュウシロウ。そうである。何も無駄に死に掛けた訳ではない。

死のリスクを背負い、自身に力を執行する可能性を与えたのだ。



「……」



集中する。


物心付いてから、一度も自身の力を感じたことはなかった。


それは血の繋がりのあるきょうだい、スザクの手によりそのような事態となってしまったからなのはこれまでの通り。


それ以降、ずっとリュウシロウに力はなかった。


力の強い者を妬み、時に苦しんだ。


自身の持つ才能を認めても、結局力でねじ伏せられてしまった。


だが今は違う。


鬼たちに支えられ、彼は力を手にしたのだ。


幸せと、これまでの経緯を噛み締めるリュウシロウ。


これまで出会った来た全ての者たちの顔を思い浮かべたその時!




バリッ――――――――




「!!!!!!!」



金色を思わせる電撃が彼を取り囲む。

これまで抑えられてきた雷が、まるで喜ぶかのようにその身体をめまぐるしく駆け巡る。



「これが……俺の属性……」



彼はここでついに、自身の属性と邂逅したのだ。



「あ、ああ……」



くしゃくしゃの顔。

震えながらむせび泣く。


ずっと、ずっとずっと…………夢にまで描いてきたものが形となったのだ。



「……」



もう声にならない。

ただただリュウシロウは、自身から発せられる雷を見て涙する。

もっとも、まだ拙いのが現実。しかし、これからこの地獄において何をするかは、黒鬼の牙を見せる笑みである程度予想が付くだろう。


彼はついに……スタートラインに立ったのである。





なおこの時点ではまだ誰も知らない。一部の者も朧気にそう感じているだけに過ぎない。


これが現世において、未来永劫肩を並べる者なしとまで謳われ

世を消滅に導く諸悪の権化を打ち砕き、()()()()()()()()()を救う……





雷神の産声であることに――――――――

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