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第384話 悪魔の脅威

「悪魔……だと?」



虚喰いの話題から一変、悪魔の存在に触れた様子のフカシギ。

戦った経験のあるゴウダイは直ちに反応する。



「ああ。空を覆い尽くす異形の者たち……それらが天津国を滅亡に追いやる姿が視えた」



時忍術を操る能面は、意図せずにその未来が視えるようだ。もっとも、その情報からして非常に限定的、断片的なのだが。

だが現在、イズミ一味であれば悪魔など脅威にはならないのではないだろうか。どういう訳かフカシギの言葉は、とても危機感を覚えているように感じられる。



「でも、あの時にやって来た悪魔は……アスモデウスだっけ? そいつ以外倒したし、新しくやって来た悪魔も邪鬼がすぐに片付けちゃったじゃない」


「アスモデウスについても、主ムリョウが始末を付けたようだが……」



今更危機ではない。ミナモもそう思ったからこその発言。フカシギもあの時の顛末を口にするが、今ひとつ確信が持てていないように見える。



「さ、さっすが……アイツ強かったのにね……」


「だが、今の俺たちなら問題はないだろう。ただ……空を覆い尽くすという言葉が気になるな。それほどの数が居るというのか?」



始末を付けたという言葉に改めて感心する彼女。

ゴウダイについても危機までとは言えないと感じているようだが、やはりその言葉の節々は気になるようだ。



「私の目に映ったものは今の発言通りだ」


「そうか……それにしても、今後も東国に脅威があることは把握したが……もう少し詳しくは分からないのか?」


「未来を視ることは難しい。起こりうる、最も可能性の高いものが僅かに見え隠れする程度でな。未来は……現在における些細な出来事で変化する、極めて不安定なものなのだ」



要は、能面の視える未来というのは確定ではなく、あくまで可能性の高い出来事止まりということ。そのまま行けば、このような未来になるだろう、という暫定的なものなのだろう。

ゴウダイもその辺りが理解出来たか、それ以上追及しない。



「すまないな。時忍術も……万能ではないのだ」


「やむを得まい。……だがフカシギ、ひとつだけ聞かせてくれ」



この流れで気になることと言えば……



「何故悪魔はこの世に現れ、世を滅ぼそうとするんだ?」


「正確には……主ムリョウを狙っているのだ」



ゴウダイの質問に答えるフカシギ。いつぞやの悪魔たちも、リュウシロウもそのような発言があったことからこれは事実か。その辺りの事情も説明する。



「報復……か。だとすると……フフ、この世はお前たちに巻き込まれたことになるな」


「返す言葉もない。全て……我々の責任だ」



言い訳もなく、ただ己の過失を認める。

しかし、能面は虚喰い打破の為に奔走していた。あらゆる手段を講じようとする姿勢の結果であり、そこを責めるのはあまりに無慈悲だろう。実際ゴウダイもフカシギを責め立てるような印象はない。


なお、地獄へ行こうとした目的はゴウガシャの話の通りなのだろう。もっとも、鬼の力を頼り地獄へ赴いたはいいが、そのあまりの力に恐怖し逃げ帰ったという結果となっているが。


引き続きフカシギは、かつてムリョウが東国人の知る地獄ではない、別の地獄へ訪れた話をする。つまり、能面が狙われる理由の切り口。



「な、なんでそんなところに?」


「主の力では、本当の地獄へ飛ぶことが出来なかったのだ。だが空間転移の術は生きていた……真の地獄から弾かれ、偽りの地獄へ放り出された……そんな経緯だ」



ミナモの質問の答え……それはムリョウの力では足りず、自身の意図する地獄へ飛ぶことが出来なかった。だが次元を飛び越えた力は維持、そのまま悪魔が蔓延る地獄へ意図せず落とされたということ。その後、亀裂から直接侵入したのだろう。


これなら最初から亀裂へ飛び込むという選択肢もあったのだろうが、亀裂の先には何があるか一切分からない……それが二の足を踏ませていたのかもしれない。



「悪魔共は直ちに主へ襲い掛かった。だが主は多くの悪魔を始末し、多くの傷を背負いながらも現世へ戻った……その時の恨みを買ったのだ」


「そこもムリョウらしいわね。そんなよく分かんない敵……え? 傷? ムリョウが?」



ムリョウが多くの負傷をした……この一言で緊張感が走る。



「これまでお前たちの前に現れた悪魔共は、()()()()()()()()()姿()……およそ、本当の実力の一割にも満たぬだろう。……だから脅威なのだ……」


「……ッ」



それが、徒党を成して現世に攻め込んで来る……考えるだけでも恐ろしい。



「だがゴウダイ……お前は既に主と並ぶ力を手に入れている。そして、他の仲間も追いついてくるだろう……足早にな」


「任せておけ。どのような巨悪が来ようと、必ず守ってみせるさ」


「そうか……」



フカシギの身体は、既にその半分が朽ち果てている。

今のゴウダイの一言に安心したようだ。



「それを聞いて……安心した」


「アンタは……死ぬ訳じゃ……ないんでしょ?」


「ああ。ミナモ……お前の術も素晴らしかった……私には無かった発想だ……本当にお前たちは……強いのだな……」



死ぬ訳ではない。だがその朽ち果てる様子はやはり哀愁を漂わせる。ミナモに対しても一定の評価を抱いていたフカシギ……それを口にし、さらに崩壊が加速する。



「すまない……ただ我々は……誰もが……安心して暮らせる世に……したかったのだ……」


「分かっている。多くは繋がった……お前たちの目的もその背景も……そして、その志も……今はただ、託してくれればいいさ……」



フカシギの身体の力が抜けたような印象。心から安堵しているような雰囲気を醸す。



「惜しむべくは……お前たち二人のように……我々にも……()()()()()()()()()()()()……全てを押し付けるような結果にならずに……済んだのかも……しれないな……」


「フカシギ……」


「さらばだ……ゴウダイ、ミナモ。そして、ありがとう……」



そう言った後、その身体の全てを灰にしたフカシギ。

最後の言葉は、まるで長年連れ添った仲間同士に声を掛けるような……そんな印象であった。


朽ち果てたまもなく、その心が何処かに吸い込まれていく最中にフカシギは思う。



(……最後の相手が……あの二人で良かった。我々にはあまりに欠けたものが多過ぎた……主も気付けばいいのだが……)



意識を共有しているとはいえ、能面は個々でその思惑は異なる。今感じたその思いは、果たしてムリョウに届くのか……


なお他にも気になることがあるようだ。



(だが……何故悪魔の未来が視えた……? まもなく世は……虚喰いにその全てを喰われてしまう筈……悪魔共など、それに比べれば矮小な存在だ……だが視えた……)



フカシギの思考の通り、虚喰いに全てを喰われてしまえば未来など存在しない。だが悪魔が東国に攻め込むという未来が実際に視えてしまっている。


それはつまり?



(そうか……まさかこの折に気付いてしまうとはな……灯滅せんとして光を増す、か。虚喰いは……ああ、()()()()()()()()()()()()……()()()()……)





(……伝えたい、が……叶わぬか。かつてこれほど……幸せな気持ちになったことがあっただろうか? お前たちと出会うまで……()()()()()()()()()()()だ。他の皆はまだ長らく待たねばならぬがな……)






(……主……()()()()()()()。その幸せ……いの一番に享受するといい……フフフ……)





※※※




「終わったな……いや、これからか。さあ、行こうミナモ」


「うん……でも、フカシギは死なないって言ってたけど……実際どうなのかな?」



フカシギを見送った二人。ミナモは思うところがあるようだが。



「嘘を付いているようには見えん。俺たちはただ能面たちが、そして今この世に居る皆が安心出来るように尽くす……いや、必ず成すだけだ」


「そうだね! あ、その前に……えへへ♪」



そう言うと、ゴウダイは踵を返しその場を後にしようとするのだが……?



「……? どうしたミナモ」


「ん~♪」



ミナモ、彼の傍に寄り目を閉じ、少し上を向いて何かを待つ。



「ああ、そういえば今日は太陽が眩しいな。だがそれなら上ではなく下を……」


「ん――――――――!!!!」



ゴウダイのこの反応に、額にいくつかの青筋が現れる彼女。なおも姿勢はそのまま。



「熱があるのか? ……いや、鳳凰がそんな真似をする筈が……」


「ここはチューする場面でしょ!?!?!? 鈍い通り越して朴念仁だよゴウダイ君!?」



『あ』という面差しの彼。みるみるその面差しを赤くする。

もちろんミナモも赤い。ここは気付いて欲しかっただろう。



「……」


「……」



沈黙。



「……も、物事には段階というものがある。まずは、うむ、文通から……」


「関係が後退してるじゃないのよ!! バカ――――――――――――――――――――――――!!!!!」

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