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第364話 呪われても…

双方が印を結ぶ。どちらも先手を打ちたいか。

だが、技量に一日の長のあるゴウガシャが素早く術を放つ。



「忍法……」



―水幻二重人―



水忍術の三文字、霈虎狼。その場にゴウガシャが二人現れる。サイゾウも同じく、術で作ったタタリと二人……条件を同じにしたのだろう。



「早速か……でも攻撃は僕の方が早い! 忍法!!」



剛空拳(ごうくうけん)壊烈(かいれつ)!!―



「……忍法」



―黒手―



まずサイゾウが地面を割り、崩壊した岩盤がゴウガシャを襲う。それと同時にタタリが黒手を放ち、その足を亡者に掴ませ動きを止める。



「貴様はまだ我々を理解していない。忍法」



しかしゴウガシャ、既に次の印。サイゾウが一撃を放つ間に二度の攻撃……地力はやはり上であると言わざるを得ないだろう。



―壁斯楼―



自身の前にそびえたつ石の壁。それが、サイゾウが捲りあげた岩盤から身を守る。なお黒手ではゴウガシャを引きずり込むことが出来ず、まもなく霧散してしまう。



「雷霆忍術奥義……」



―雷天震綵花車―



そして、もう一人のゴウガシャがさらに術を発動。しかも雷霆忍術の奥義……サイゾウの面差しが険しいものになる。

極細の雷が無数に生えた光弾が間近に迫る……のだが?



「……」



なんと、タタリが彼を庇う。



カッ――――――――!!



すると身体を焦がし、あえなく消滅する。

もっとも術で生成された彼女、たちまちその姿を元に戻し再びゴウガシャを睨みつける。



「ふむ……どうせまた元に戻る。壁にしたか……それにしても、己の意思を持っているように見えるが……?」


「……」



もう一人の自身を消し、タタリを観察するゴウガシャ。あらゆる忍術を使いこなす能面であるにも関わらず、サイゾウの作り出したこの術に対する知識は無いようだ。完全にオリジナルだと考えていいだろう。



「わたし……は……」


「!」



ゴウガシャの質問に、だろうか? なんと、彼女が()()()()()()

だがたどたどしい。完全に自意識を保っているかと言われれば疑問符が付くだろう。



「……じぶんの……()()で……はなせます」


「ほう、亡者が話すとは……興味深い。何故サイゾウに付き従う? この男とは何の縁故もないだろう」


「わた……しは……じごくのもうじゃ……さいぞう……さまにしたがうことで……()()()()が……あたえられます……」



つまり、サイゾウと共に戦うことにより恩赦が与えられ、地獄での刑期が短くなるということなのだろう。



「あな……たに……うらみは……ありませんが……」



タタリは彼を守るように前に立ち、印を結びながら視線を逸らさない。



「そうか。恩赦を餌に亡者をこき使うか」


「人聞きが悪いね。別に僕がそれを決めたんじゃないし、その結果持ちつ持たれつならいいんじゃない? タタリは頼れる相棒だよ」



ゴウガシャの皮肉をさらりと受け流すサイゾウ。

小手調べと茶番はここまでか、双方先程よりも強い気勢を上げる。



「タタリ! 援護だ!」


「御意」



拳に気を灯し前に出る。ゴウガシャが印を結ぶ前に接近戦に持ち込む。

なおタタリ、同意の意思表示は明確に出来るようだ。



「はぁぁぁ――――――――!!」


「ふん……」



拳と蹴りの雨あられ。だが難なく対処する能面。しかし反撃に移らない……それが出来ないのかはたまた……



(どうした? 何故攻撃をしてこない……? 読まれているのか……)



その為、サイゾウも疑念に駆られる。二文字の力忍術の体術のみで、ゴウガシャを倒せる訳がない。

やがて準備が整ったのか、タタリが術を発動する。



―怨嗟の哀哭(あいこく)



するとサイゾウとゴウガシャの周囲に暗雲のようなものが立ち込める。外部からは、まるで雲に包まれたような様相。

その中で、聞くに堪えない泣き声のような何かがこだまする。



「……これほどの大技もこなせるか。大したものだ」


(効いていない……?)



精神的な攻撃か。だがこの能面には通用しない様子である。



「ひとつだけ言っておく」


「?」



その疑問を見透かしたようなゴウガシャの一言。



「私に精神攻撃が通用すると思わないことだ。文字通り……地獄を見て来たのだからな。貴様の術で作り出した贋物の地獄など、僅かにも肝に届きはせん」


「言ってくれるね……」


「一度アレを目にすれば、貴様も理解出来るだろう。一度……見てしまえば……この世の恐ろしいとされる何かは……その全てが生ぬるい……」



これまでにも、ゴウガシャは何か恐ろしげなものを見てきたような雰囲気を醸していた。地獄と関わりがありそうなことから、やはりこの能面が見たものは……



「さあ、もういいだろう。貴様の秘策とやらも私には通じないようだ。忍法……」


「させない!!」



印を結ぶゴウガシャに攻め込むサイゾウ。強力な術を放たれてしまえば、まだ大技を放ったばかりのタタリが未だ新たな印を結んでいることから対処することは難しいだろう。


拳と蹴りはもちろん、周囲の自然物も利用して徹底的に責める。彼自身、術を大きく警戒していることが伺える。相手は能面、しかもムリョウに近い存在……となれば、その強い警戒心も仕方がない。



バキッ――――!!



「ぐっ!?」



いきなりサイゾウの顎が跳ね上がる。

なんと突如ゴウガシャが膝蹴り。これまで反撃に転じていなかったのだが……?



「体術でも……貴様は私には勝てん。そこに力忍術があろうとて……な」



徹底的に打ち負かすつもりか。いきなりの反撃に彼は面食らう。



「この……!」


「ふん!!」



気勢を纏わせたサイゾウの一撃を片手で止める。

そして右腕を捻り、背面に回り彼に膝を付かせる。



「ぐああ!!」


「お得意の剛力忍術はどうした? 私に力負けしているようでは、主ムリョウを出し抜いたというのも疑わしいな」



分かっていての挑発だろう。能面同士は繋がっているのだから。だが異様な怪力にサイゾウは対処出来ない。



(これは……獣戦忍術!? そうか……力忍術に真っ向勝負出来るものを選んだか……相変わらずでたらめだよ)



まだ余裕があるか。苦悶の面差しではあるものの、何かを隠し持っている印象。



(……)



するとサイゾウ、何か覚悟を決めた眼差し。



(やるしか……ないな。そうじゃなきゃ……とても勝てやしない!)



それは決意。

ゴウガシャが捻る自身の腕を無視し、立ち上がりその背面に回る。ということは……?



ボキッ――――!!



「何!?」



意表を突かれたゴウガシャ。サイゾウに背後を許してしまう。

今のは明らかに彼の肩が折れた、若しくは外れてしまった音。残る腕でこの能面の首を絞める。



「タタリ!! 今だ!!」


「御意。忍法……」



―刻印―



術を放つと、ゴウガシャの胸に鎖のようなものが現れる。

そう、かつてイズミ一味が戦った邪鬼たちに刻まれたものと同じ……あれは呪忍術だったか。



「……貴様」


「よし! これで……形勢逆転だね。もうお前に勝ち目はないよ」


「……」



サイゾウの勝利宣言に沈黙。

それもその筈、呪縛を受けてしまえば今後彼を攻撃する際に、その鎖がゴウガシャを締め上げるだろうからだ。

もっとも、サイゾウは利き腕である右腕を犠牲にしている。顔を青ざめ苦痛に歪めているところを見ると、脱臼ではなく折れていると考えていいだろう。だが、その犠牲に見合う成果は得られたと言える。


だが、まだ彼はこのゴウガシャという悪尉の能面の恐ろしさを理解していない。



「そうか……刻印か。そう言えば、()()()()に施して久しいな……」


「……?」



この状況でほくそ笑む。『あの者共』とは?

ゴウガシャはさらに言葉を続ける。



「おっと、貴様には関係のない話だったな。……どうした? 攻めて来ないのか?」


「……」



余裕? 強がり? どちらとも言えない。

ただ、強がりにしてはあまりに自然な振る舞い。何か策あるのだろうか?

サイゾウは警戒する。術を既に施したことにより、考える時間程度はあるのだろう。



「ククク……私に呪い……か。()()()()()()()()()()()()()……今更そのような術で感じる痛痒など、苦痛などさして意味はない。それに……」



明らかに強がりではない。

声に高揚感があり、悔しさの欠片も感じられない。



「貴様もその亡者も……そして貴様が施した術すら、これからの私の動きに気付けぬだろう。……終わりだ」



印を結び、何やら怪しげな気配。周囲が異様な雰囲気に包まれる。もしや……

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