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第361話 サイゾウの過去④

サイゾウは走る。

衣類の色が変わるほど汗をかき、ひどく焦燥感に駆られているような面差し。

サスケの手配により、ほとけのざ町の南側を受け持っていたようだが、現在向かう先は北側……一体何があったのか。



「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」



息継ぎもほどほど、とにかく今は前に進みたい……そんな印象。

海岸近くの美しい景色など知ったことではない。ただただ街道を走り、妖怪との戦いに赴こうとする忍たちをどんどん追い抜かし前へ行く。


時折声を掛けられるが耳に入らない。

もっとも、声を掛ける忍たちの面差しも浮かない。中には涙を流している者も居る。それはおそらく最悪の事態――――――――



「サスケ……さん……」



足が止まるサイゾウ。

その視線の先には人だかり……と、その周囲には夥しい数の妖怪の死体。多くは粉砕されており、原型を留めていない。血の海と言ってもいいだろう。


彼がふらふらとした足取りで近付くと、そこに居た者たちが場を空ける。既に彼とサスケが師弟関係のような間柄であることは多くの者に知られていたようだ。


そして、空かれた場……その地面には、



サスケが横たわる。



「サ、サスケさん!? サスケさん!! 目を覚ましてよ!!」



返答はない。サイゾウの声だけが周辺にこだまする。

動きはない。呼吸もない。身体も既に冷たい……つまりそれは……



「そ…………んな……………………」



面差しは青ざめ、眼球が揺れる。手も振るえ、口が渇く。



「あ……ああ……」





「うあああああ――――――――――――――――!!!!」




※※※




その晩、サスケの亡骸は荼毘に付され、手短な葬儀が行われたようだ。

だが、それでも戦いは続くのである。殺気立った妖怪は待ってくれない。

事情を知る者も多いのだろう。多くの忍の足取りは重く、悔しさが滲み出ている。


サスケの死によって、多くの忍の士気が下がったようだ。

よって、下手をすると妖怪の勢いに飲み込まれてしまう……これからは、そこが懸念されると言えるだろう。


だがそうなることはなかった。

並み居る屈強な妖怪たちの大多数を屠ったサスケ。むしろ大きな……いや、決定的なダメージを受けたのは妖怪側だったようで、明らかにその勢いを失くしていたのである。


これまでは、そもそもの数が多かった為に自然と妖怪が連携しているような状態であったようだが、現在それは見られない。散開している、単体で襲ってくるなど、いくら強力な妖怪とは言え、まとまった実力のある忍によりあえなく討伐されるという流れが目立っているのだ。



(サスケ……さん……)



前線には赴かず、後方で項垂れているサイゾウ。

ここは戦場であり、気が抜けたような振る舞いをする彼、そしてまだ子どもの齢であることから、すぐさま引き下がらせられるのが本来あるべき姿だろう。

だが誰も何も言わない。そっとしておく。彼の前を通過する忍は、悲痛な面差しをしつつサイゾウを一瞥していくだけ。



(イズミ……さんは……どうなるんですか? ……お母さんも居ない……そして……お父さんである……貴方も……居なくなってしまった……)



これでイズミは天涯孤独の身。サスケが亡くなったことも大きな衝撃だったのだろうが、彼女の今後についても気掛かりで仕方がない。

サスケと出会う前は人を見下した印象のあったサイゾウだが、心も鍛えられたのかすっかり他人を思う気持ちが培われたようだ。



「……」



ぼろぼろと雫を地面に落とす彼。

サスケとの日々はとても素敵なものだったのだろう。だがそれはもう帰って来ない。

いつか三人で、東の果てで一緒に修行をすることも視野に入ったいたのだと考えられる……が、それはもう敵わない。



「……! そうだ……」



何んらかの意思を固めたか。光の失った瞳にぼんやりと光が灯される。



「サスケさん……僕に何処まで出来るかは分かりませんけど……」



そう言いつつ立ち上がる。その視線は……東の果て。



「……僕が……貴方の夢を……!!」





十歳という齢を考えれば、異常とも言える気勢を放ち決意する。


その後彼は、以前自身を担当していた忍に話を付け、この戦いから身を引く。

元より子どもであり、志願制の上に後方支援のみが与えられる仕事。さらには現時点で人間側が優勢である……ことの事から、身を引くことに何の咎めもないのだ。


そこから三年間……サイゾウは東国の歴史から姿を消す。




※※※




―???―



とある洞窟。

何者かが薄暗いそこを、内部に向かって真っ直ぐ歩いていく。

行き着いた先には……



「おかえり。 ん? ムリョウ、どうしたんだい?」



なんと空弧。そして帰って来た者はムリョウ。

能面によりその面差しは分からないのだが、大妖ならではの感覚、そして関係が深いだけに分かるところがあるのだろう。



「サスケが死んだ」


「!」



遠方に居る他人の気勢も把握出来るのか、サスケの死亡を断定するムリョウ。

以前より話は聞いていたのだろう、空弧も驚いた様子を見せる。



「あたしから見てもなかなか面白い男だったんだけどねぇ……そうかい。死んじまったかい……」


「……」



明らかに落胆した様子のムリョウ。空弧もまた、サスケという人物には惹かれていたのだろう。非常にがっかりした雰囲気だ。



「アンタが介入してりゃあねぇ……」


「間に合わなかった。()()()()()は聞いている……惜しい男を亡くしたな……」



ムリョウもまた、サスケに対して悪い気持ちは無かったのだろう。酒を一緒に飲むことは敵わなかったようだ。



「……それにしても、これからどうすんだい?」


「娘が居ると聞いた。その者に期待するしかあるまい……しかし……」



悩む素振りを見せる。どうやらイズミの居場所までは把握していないようだ。サスケも意識はしていなかったのだろうが、自信の住家までは教えていなかったのだろう。



「そうだねぇ……しらみつぶしに探すには、ちょいと天津国は広いねぇ」


「……」



思案するムリョウ。何も情報がない現状……となれば、やることはひとつ。



「サスケと関係が深かった者が居る筈だ。その者から話を聞けばいい」


「それもなかなか面倒だよ?」


「それしかあるまい? 姿を変えて情報収集をする。他の者にも指示しておく」



他の者……つまり、他の能面ということだろう。

だが聞き込みをしたところで、皆が素直に情報提供してくれるとは限らない。相手が怪しければ、口をつぐんでしまう可能性もあるのだ。



「だけどさ、そいつが素直に話すとは限らないよ?」


「こちらも悠長に構えている場合ではないのだ。……吐かなければ……無理やり吐かせればいい」



だから空弧はそこを指摘するのだが、無理矢理吐かせるという答え。ムリョウも追い詰められているようだ。それもまた、虚喰いの動きが影響しているのだろう。



「イズミって娘だっけ? サスケが居ない今、これから成長するのかねぇ……アンタ、先は見たのかい?」


「やはり無理だった。漠然とした東国の先は見れるがな……まあそれも、手掛かり程度でしかないが」



ここで少し沈黙。この言葉を言って良いものか、ムリョウ自身が悩んでいるように見える。



「……成長するかどうかは分からん。それはやむを得んだろう。……それよりも、イズミには協力を願う以上多くを語らなければならん。サスケにも語る筈だったが……このような結末となってしまった」


「肝心なことを隠し通すのは難しいよ? それに、下手をすると()()()()()()()()()なんて信じられないだろうしね……」


「ああ。幼い時分は誤魔化せるだろうが……いずれ疑念は抱く。しかし、全てを知られるのはやはり危険過ぎる。何せサスケの娘だ。きっと私を全力で救おうとするだろう。よって……話した上でイズミが力を付けなければ……」



グッと手を握り、少しだけ震わせる。やりきれない何かを感じているような印象。



「……始末せねば……なるまい。……なんという……理不尽なのだろう……な……」

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