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第359話 サイゾウの過去②

前線から少し下がった場所。

負傷者が一時的に下がる所なのか、複数の者が地べたに座り苦痛に顔を歪めている。


そんな中で……



「……ったく……ガキがあんな所でウロついてんじゃねぇぞ?」


「す、すみません……」



サスケに助けられ、浮かない面差しのサイゾウ。だが彼は、目の前の体躯の良い中年男性を眺めながら思う。



(この人がサスケさん……力忍術の使い手って聞いたけど、なんで実体のない煙の妖怪を倒せるんだ……? たった一撃で吹き飛んだし……何者なんだ……?)



力忍術と言えば、世間においては忍でない一般人も使用出来るという凡術扱い。しかしそうであるにも関わらず、凄まじい戦闘力を示すこの大男を目の当たりにしこんがらがっている模様。



「サスケさん大変だ!!」


「んあ? どうした?」



サイゾウがいろいろと悩んでいる最中、他の忍がサスケに駆け寄る。



「今度は水虎(すいこ)が出たみたいなんだ!」


「は、はあ? 水神の眷属じゃねえか……なんでそんなもんが……」


(水虎!?)



強い妖怪なのか、サスケと共に驚きの表情となる。



(なんか変だ……水虎なんてそうそう人前に姿を見せる妖怪じゃない。かれこれ何回も支援には来てるけど、どんどん活性化してるような……いや、活性化と言うより……)


「なーんか殺気立ってやがるな……しゃあねぇ。ぶちのめしに行くか」



サイゾウの思考を辿ったかのようにサスケが所感を口にする。

東国は西へ行けば行くほど妖怪が殺気立つ。それは、そこから遥か西にある西国から飛来する悪魔に備えて、いや……どちらかと言うと怯えてとのこと。まだ彼らはそれを知らない。




※※※




「うおらぁぁ――――――――!!!!」



ドォォ――――ン!!



「……」



その後、サスケの拳により体に穴が開き、時を置かず霧散する水虎。

茂みの中に隠れているサイゾウ。目が点。



(嘘……これが力忍術? 獣戦忍術並……いや、それ以上の力があるんじゃないか!?)



単に殴るだけ。

それでも強力な妖怪をあっという間に倒してしまうその強さに、これまでの常識が覆される気持ちになっているのかもしれない。



(一般人も力忍術を習得して、意外と結果を出してるって聞いたことはあるけど……この人のそれは次元が違うよ……)


「おい」



呆然と眺めながら思案するサイゾウに声が掛けられる。



「……え?」


「付いて来んなって言っただろ。死にてぇのか」


「あ……その……」



それ以上は何も言わず、彼の襟首を持ちひょいと持ち上げるサスケ。



「何かあったらどーすんだ馬鹿。自分の持ち場から離れんな」


「すみま……せん。で、でも……」


「……ったく。そんなに戦いてぇのか。これだから何も知らねぇヤツは……」



今の発言に、あからさまにカチンと来たような面差しをするサイゾウ。



「ぼ、僕は戦えます! 呪忍術が使えますし……」


「のろい? あー……あのちまちました術か」


「ちまちま……」



希少な呪忍術を袖にされ、それ以上言葉が出ない。

この大男からすれば属性などまさに『どうでもいい』……そんな気概が見られる。



「分かってねぇなぁ。お前も男だろ? 男ならやっぱ……」



ここでパンと自身の二の腕を叩くサスケ。



「コイツで勝負よォ!!!」


「……」



持論以外なにものでもない。

だがその強さはもはや保障のレベル。やはり沈黙しか選択肢がないサイゾウ。

ただその視線は、サスケという人物への興味が感じられる印象。



「ほい」



ズンッ――――!!



「ひっ!?」



会話をしている内にも妖怪が襲い掛かってくる……ものの、ブンと左手を振り回すだけで爆破四散させてしまう。



「あはは……」



もうサイゾウは笑うしかない。力忍術に対する認識が大幅に変わった今日という日であった。




※※※




その日の晩――――


交替となり後方へ下がり、休息を取る。

だがいつもと違うのは……



「サイゾウってのか! まだガキンチョのクセしてこんなところまでご苦労なこった!」


「がきんちょじゃありませんよ……」


「お前、十歳なんざガキもガキ、クソガキじゃねえか」



何故そこに『クソ』が入るのか……おそらくサスケは何も考えていないのだろう。

なお、今の発言で何かを思い出したようで、少々遠巻きに何かを見るような視線。



「……イズミのヤツ……元気にしてるかなぁ」


「イズ……ミ……さん? 奥さんですか?」


「馬鹿野郎。娘だよ娘! 目に入れても痛く……いや、痛ぇけどよ。痛くねえ娘だ」



『娘』というキーワードに驚くサイゾウ。意外だった様子。



「む、娘さんが居たんですね……てことは、故郷には奥さんと娘さんが……」


「母ちゃんは死んじまったよ」


「え……!? す、すみません……」



迂闊な発言だったと俯く彼だが……サスケは歯を見せニカっと笑う。



「ガキがそんなもん気にしてんじゃねぇっつーの」


「で、でも……」



利発なサイゾウ。年齢不相応に気遣いが出来るようである。



「まったく……最初から思ったが、お前はほんとおりこうさんだな。今から堅っ苦しい生き方してちゃ、年食ってからハゲるぜ?」


「……」



『この人、考えたこと口まで直通だな』と思う彼だが、糸目にして黙っている。

とここでサスケ、にやにやしながらサイゾウをジロジロを見つめている。



「な、なんですか……?」


「んーそうだな……お前はどうも戦いたいみてえだし、丁度いいぜ。俺と暫く居ろ。どーせ、支援がつまんねえとか思ってんだろ? それも大切なことなんだが、その前にガキンチョのクセにコリコリに固まったお前の頭ん中ほぐし倒してやるよ」





「…………………………はい?」



思ったことが直通なだけでなく、思い立ったが吉日の思考。なお『決定』のようで、すぐさまサイゾウを連れて来た忍に話を付けるサスケ。

彼はただその流れを、ポカンと口を開けながら見ているのであった。




※※※




翌日。



「おいおい、なんだよそりゃ。ちんたらやってんじゃねえぞ?」


「僕だって頑張ってるんですよ!!!!」



額に青筋を立て、必死に印を結び目前の妖怪に対応するサイゾウ。相手は巨大な鼠のようだ。

そのすぐ後ろでサスケがヤジを飛ばす。彼は非常に不愉快な様子。



「遅ぇよ。印はキュっとやって即ドーンだろ」


「分かりませんって!?」



フィーリング指導。もちろん分かる訳がない。彼の額の青筋が増える。

そう言いつつも、相手の攻撃を躱しつつ術を発動。



―嘆きの共鳴!!―



その術の発動と共に鼠が苦しむ。その場をじたばたとし、時折身体をくねらせもがき苦しむ。



「へー……面白ぇ術だな」



手を顎にやり、感心しているサスケ。そしてサイゾウはさらに印を結び……



―黒手!!―



足元から亡者の手。それが鼠を暗闇を引きずり込んでいく。鼠は必死に抗おうと手足を動かすが、無情にも暗がりへ押しやられ最後には断末魔を上げて消える。



「ふー、ふー……」



彼自身にも、いくつかの引っかき傷が見られる。苦戦したようだ。



「お前筋がいいな、その齢でそこまでやれるヤツは見たことがねぇよ」


「……え? そ、そうですか? えへへ……」



顔が綻ぶサイゾウ。強者に認められた感があるのだろう。

だがサスケ、やはり彼の常識からはいささか外れているようで、今まさに想定外の言動をする。



「だからよ、お前も力忍術身に付けりゃ、もっと強くなるぜ?」


「なんでですか!? そこは『呪忍術の精進を怠るなよ』とか、そういう言葉が出るでしょ!? と言うより、属性を持ってる人間が力忍術を身に付けても、日常でしか使いませんって!」



力忍術至上主義。

サイゾウ、いろいろと突っ込む。たしかに力忍術は人並みの気勢があれば使える代物。実際、忍の大多数は真似事以上に力忍術を使えるのはこれまでの通りである。


ただし、気勢を使うことからそこに属性を紐付けてしまえばそれは属性を持つ忍術となる。そして属性は単純に威力がプラスアルファとなる、またその属性ならではの攻撃が可能、特殊な攻撃を繰り出すことが出来る、そして忍術によっては力忍術のように力を引き上げるものもあるのもこれまでの通り。

よって、属性を持つ者であればわざわざ力忍術を使用する理由がないのである。



「分かってねえなぁ。力忍術ってのは属性が無いってのは知ってるな?」


「そ、そんなの当たり前じゃないですか」


「だから最強なんだよ」



だが、まだ持論は続く。


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