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第35話 風呂場の対談

時と場所は戻る。



「ソノ後東国に渡り、二年間イズミサンを捜索し続ケテ現在に至る訳デス。運が良かっタ。そのまま彼女が東の果てに住み続けてイタラとても……ん? リュウシロウサン?」



リュウシロウに事情を明かしたトムだが、聞いた後は一点を見つめ何かを考えているようだ。



(不気味なマスク……なるほど、そいつがムリョウで確定だな。ヤツなら西国まとめて手玉に取ることも出来なくないだろ。そんで少女はイズミのことか。ヤツの方からイズミに近付いてる以上、この話納得するしかねえ)



西国を抑える圧倒的な力、そして『マスク』、さらにイズミを探している……これらのキーワードから、リュウシロウは相手を能面の者の内、ムリョウと断定する。話の辻褄(つじつま)が合うからだ。



「あ、すまねえ。ちと考えごとだ。……まあ事情はよく分かったよ。でもよ、何でムリョウは西国に手出して来たんだ? それに、西国がどうやってイズミの存在を知ったのかも気になるぜ」



イズミに執着するだけでなく、西国にも手を出しているムリョウ。リュウシロウは単純にその理由が知りたいようだ。



「マズ祖国に手を出シテ来た件についてデスガ……警告を受けマシタ」


「警告?」


「実はコノ十年の間で、幾度も軍を率イテ東国を攻メル計画が上がり、実行しようとシテイタのデス。シカシ、その度にマスクマンが現れ軍を煙ニ巻き、出兵を頓挫(とんざ)サセテきましタ。直近の三年前デハ、軍を簡単に覆ウ程の爆発を空デ見せ、『これが最後だ』ト……」


「東国を攻めんな、と。だから西国はちまちま東国に人材をぶち込むような、まだるっこしい真似をしてやがんのか。んで力を見せただけか? それと、これまでどのくらい被害があったんだ?」


「驚異的な力を見せ付ケラレタダケです。そして、過去彼ノ者からの被害はアリマセン。アクマでも妨害のみデス。あと、イズミサンをどうやって把握したノカについては……スミマセン、我輩は関与しておらず分かりマセン」


「はあ???」



トムの説明に対する、彼の反応はごもっともである。

個人が、幾度となく国家に妨害を仕掛け結果死者なし。誰も殺さないことがささやかな忖度だったとしても、事が事だけに意味が無いのは明白だ。事実上の宣戦布告でしかない。


それに国家に喧嘩を売った時点で、その者の心境関係なく命を狙われるのは確実。ここまでのプレジデントの性質を考えれば、そこはほぼ間違いないだろう。そして命を取られる可能性がある以上、取られる可能性のある側としても相応の振る舞いをしようと考えるのが心理なのではないだろうか。


つまりムリョウがやっていることは、『自身は相手を傷付ける気はないが、相手はいくら自身の命を狙っても構わない』ということなのである。一体、どれほどの余裕があるのか。



野郎(ムリョウ)からすりゃ西国の連中なんざ殺す必要がない、殺す気がない、いつでも殺せるって辺りか……自分は絶対に負けないっていう前提でな。これまでずっと妨害だけに徹してた様子だしな。いや……()()()()()()()()()って可能性も……)


「ヨク分かりませんよね。デスガ、これが事実なのデス。信用してイタダケないかもしれマセンが……」



トム自身も、ムリョウの考えが推し量れていない。

リュウシロウは考えを巡らせた後、おもむろに口を開く。



「いや、信じるよ。思い当たる節が多すぎて反応に困るくらいだぜ」


「アリガトございマース! ……彼の者ハ脅威です。プレジデントもアアは言うものの、トテモ警戒していマス。シカシ、このままイズミサンを、西国に引き渡すナンテ真似はシタクありまセン。


……悔シイですが、アナタの言った通りデス。あんな年端もイカナイ女性を攫うなど……誰がデキルのですか!? 我輩の忍道に反します! 我輩は忍術ヲ通じ、東国の素晴ラシサを知りましタ。東国が西国に劣る? とんでもない! お互い対等、どちらが上どちらが下ナドはないノデス!!」



徐々にヒートアップするトム。



「むしろお互いがセッサタクマし、より国家として成長を続けていく事が最良なのです! 女性一人を攫って支配? バカバカしい!! ……マスクマンの意図は分かりませんガ、少なくとも東国へ攻め込まなければ特に何ヲしてくる訳でもありません。


つまり、それは話が通じるという事。東国との和平を徹底し、安寧秩序(あんねいちつじょ)を約束すればきっとマスクマンも分かってくれる筈ですし、イズミさんも西国へご足労いただくことはないでしょう……ただ、彼女が自ら西へ向かうのは想定外でしたが……」


「なあトム」


「は、はい?」


「こっちの言葉が流暢(りゅうちょう)過ぎるぜ? 素が出てんじゃねえの? ……前からちょくちょくあるから気を付けろよ」



ニヤニヤと指摘するリュウシロウ。僅かの間で、見る見るトムの顔が赤くなる。



(そっか、西国に嗅ぎ付けられる恐れがあってもトムがイズミを捜したのは、ムリョウとの話し合いも視野に入ってたんだな。何せ野郎さえ説き伏せりゃ、いろんなモンがクリア出来るしな。あんなとんでもねえヤツと対話か……頭が下がるぜ)



二年間トムはイズミを捜し続けていたが、それは逆に言えば西国にイズミ確保の機会を与えてしまうことに繋がる。トム自身監視されている可能性もあるからだ。

しかしそれでも彼がイズミに会おうとしたのは、ムリョウの存在が大きかったのだろう。

なお特に脅威とも思っていないのか、トムのこれまでの話の中で西国からの追っ手の可能性には触れない。


一方でトムは顔を赤くしたまま、焦り極まっている。



「わ、ワタシノ東国語モインターナショナルデスネー! バイリンガルオブアメージングでゴザルヨ!!」


「だからって意味不明な言葉並べるんじゃねえよ! その台詞じゃ西国語も怪しい感じになるだろうが! ……ったく、お前さんがいいヤツで助かるよ」



変わってしまった空気も柔らかになった辺り……



「リュウシロウサン、この通りです」


「ど、どうしたんだよ」



突然湯船から立ち上がり、リュウシロウに頭を下げるトム。



「確かに我輩ハ西国の回し者デス。しかし、決してイズミサンを攫うような真似はイタシマセン。売り渡ス真似もシマセン。デスノデ、この旅にご同行サセテいただけマセンか?」


「おう、よろしく頼むぜ! お前さんが居ればめちゃめちゃ助かるからな!」


「アリガトウゴザイ……あれ? 随分アッサリですね……そんな簡単に信用シテいただいていいのデショウか? あ、いえ! 信用してイタダケルのは嬉しいのデスケド……」



リュウシロウは特に迷いもなく言葉にする。



「お前さんはイズミを助けてくれたからな」


「え、演技トカ芝居カモしれませんヨ!?」


「それは無えな」



きっぱり。



「理由はいくつかある。なずな町での戦闘絡みだ」


「??」


「奴らは魔術を使ってきている時点で、西国の息が掛かってるって予想出来るだろ? じゃあ何で、お前さんがそんな味方になり得る相手と戦う必要があるんだ? それにその場にイズミも居た訳だし、トムが敵なら連中に加担する場面だよな。場所は路地裏、絶好のチャンスだ」


「ソレハ……一芝居打ったダケかも……」


「一芝居? ヤツらは真っ先に俺を狙ってきている上、イズミは後から登場しているんだぜ? イズミが必ず来る保証もないのに、いちいち俺から狙うなんて煩わしい真似しないだろ。つまり連中は『イズミを知らない』。よってお前さん絡みの関わりはなく、一芝居なんて打てる間柄じゃねえ。


まあ西国も一枚岩じゃ無えだろうから連中を知らなかった、関わりが無かった、だから倒したって言えばそこまでだ。だがよ、さっきの言い方じゃプレジデントって野郎はイズミの確保が最優先事項って感じだ。


極秘任務って可能性もあるが、最優先事項の最重要人物を目の前にしてんだ。そんなこと言ってる場合じゃねえし、身分を明かすなりすりゃいいだけだろ。あえて面倒な手順を踏む必要が無え」


「あ……お……」


「そんで極めつけがコレ。さっき俺が問い詰め始めた時、お前さんはシラを切り続けず、良心の呵責に苛まされて俺に真相を話してくれた。それによ、お前道中でイズミの過去とか力忍術について、根掘り葉掘り聞かなかったろ?


目標の情報は、達成はもちろん報告する上でも必須だ。そこを放棄した時点で、お前はもうプレジデントのクソみたいな命令をつっぱねて、イズミに寄り添ってくれてんだよ。……これ以上お前さんがいいヤツであることの証明……要るか?」



トム、沈黙。



「だからよ。よろしく頼むぜ! 知ってると思うが、イズミはじゃじゃ馬だから気を付けろよ!」


「よ、よろしく……お願いシマース……」



風呂場において、男同士のがっちり握手……ではあるが、トムはリュウシロウを真っ直ぐ見つめながら恐々と考える。



(……たったあれだけの情報から、最後はきちんと根拠をもって私を敵じゃないと結論付けました……信じていただけたのはいいんですけど、恐ろしい人です……)



未だ風呂場。それでもトムは、リュウシロウに対して身震いが止まらないのであった。

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