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第324話 別れ

・・・・・・・・・



沈黙。

大海原に沈んだラセツ。

拳を高々に上げ、ルークは勝利の咆哮。


特に邪鬼たちは現実味が無いようだ。それほどラセツという男を、妖怪を、力という観点で信頼していたことが伺える。



「嘘やろ……? ラセツが負けたん……?」


「ま、まさか! ラセツですよ!? 何かの……冗談に決まってますよ」



大きな眼をくりくりとさせるシュテンに、間違いであると言い張るイバラキ。



「……何という……」


「ラセツの攻撃……ボクも耐え抜くのは難しいと思う。でも、そんなのと殴り合って打ち勝った」



言葉が出ないゴウダイ。

イズミは嬉しそうだ。自分に近い戦い方をするルークに共感出来るところがあるのだろう。さらに述べる。



「ルークは忍じゃないからよく分からないけど、もう三文字……ボクやミナモと同じくらい強いんじゃないかな……あ、そういやトムもだな!」


「ルークが……トムと同じ……くらい……」



イズミの発言にアメリアが反応する。イバラキと戦ったトムの力は凄まじかった。そんな彼とルークが同等と考える彼女の言葉に、アメリアは額から汗が流れる。


そしてここで、彼女の頭の中で何度もあの言葉が繰り返される。



―トムとタメ張るぜ?―



(リュウシロウ様のことは……その全てを信頼しています。ですが……あの一言だけはなかなか飲み込め無かった……でも事実だった……ルーク、貴方は東国で何が……?)



ようやくルークに対して、正当な評価を見い出せたアメリア。だがその理由、背景が気になる。



「ルーク!」



ここでノーランが駆け寄る。

だがルークは、無言で手を出し彼を止める素振り。



「どうした?」


「まだ終わってねえ」



『まだ終わっていない』。あれほどの攻撃を喰らい、まだラセツは立ち上がれるのか。しかし時を置かず、彼の言葉は事実となる。



「……」



海の中から、おもむろに立ち上がるラセツ。

そしてゆっくりと、ルークに向けてその足を踏み出す。



「あの攻撃で立ち上がるとは……」


「さすがラセツだな。……ん?」



剣呑な面差しをしつつ警戒するトム。味方を誇りに思っている素振りのヤシャだが、何か異変を感じ取っている様子。


まもなくルークとラセツが間近に迫るのだが……?



「……見事だ。ルーク」


「へへ、あんたもな。立ち上がって来ねーとマズいって思ったが……そんな心配は無用だったぜ」



外皮は全て剥がれ、筋骨隆々の肢体が露わになっているラセツ。その姿だけでも、彼の実力が垣間見えるほどである。



「うぬの強さ、儂の体に刻み込んだ。……この、たった今ですら荒削り……いずれその拳は能面にも届くだろう……」


「ありがとよ。俺も……あんたの拳に教えられたぜ。その男気にもな!」


「ふふ……そのように言われるのは困る。人間を手に掛けるなど出来なくなるではないか」


「なーに言ってんだよ。最初っから手ぇ出す気無かっただろーがよ。へへへ」



少年のような面差しで、ラセツと談笑をするルーク。だが……?



「……今後……儂以外に……敗北を喫するなど……許さぬからな……」


「おっさん!?」


「……がふっ」



伝えたい一言を伝えながら、前のめりに倒れようとするラセツ。そして最後は多くの吐血を見せ地面に倒れようとする……が、ルークが抱きとめる。

重量感のある体を支えつつ彼は優しい笑みで言う。



「分かってるぜ……もう、誰にも負けねー……能面だろうがデヴィルだろうがな……」



ここでついに意識を失ったラセツ。苦悶と思いきや、何か憑き物が落ちたような……他の邪鬼たちと同様の面差しをしているのであった。



「……」



それを少しだけ離れた場所で見つめている白丸。

意識はしていないのだろう、両手を胸に当てながら涙目でルークの無事に安堵しているその姿はまるで……


その後、時は既に夕方。



「いやー、なんかええ出会いやったわー。なずなから真っ直ぐ南行った端っこの山におるで、また寄ってなー」


「その説明で分かると思ってんの!?」



シュテンが、気を失っているラセツを背負いながら別れを告げる。だがそのざっくりした説明にミナモが苦言。



「ま、お前らなら二山超えてもオレ様たちの居場所に気付くだろ」


「ですね。トムさんでも居れば、忍術でなずな町からでも把握されますよ」



だが手練れ揃いのイズミ一味。特に問題はないと断言する邪鬼たち。



「ああ! 寄るとかじゃなくて、普通に遊びに行くよ。でも酒は飲めないぞ?」


「お達者で。今後お会いスル時は、何もかもが解決しているとイイんですけどねぇ」


「お酒……必ずお届け致しますから!!!」



イズミもトムも、アメリアも別れの言葉を告げる。



「今度会う時は……今回のようには行かんぞ?」


「うう……なんでジブンそんなに自信満々なん? お置いてきぼりやのに、こんな燃えとるとか訳分からへんのやけど……」



妙にギラギラしているゴウダイ。ルークにも触発されたか。そんな彼が迫って来たことで、どん引きしてるシュテン。



「……う」


「お?」



そんなやりとりを間近でされた為か、ラセツが目を覚ました様子。



「む……シュテン。すまぬ……もう問題はない」


「別にええでー?」



彼女は遠慮するなと言った感じだが、ラセツはその背から有無を言わさず降りる。さすがに満身創痍、疲労困憊であったとしても、何となく嫌なのはよく分かるところだ。



「……もう起つのだな」


「ああ。無理すんなよラセツ」



ヤシャも少し困った笑顔をしつつ、彼の体を案じているようだ。

だがラセツ、どうしても言いたいことがあるのか前に出る。まずその視線の先はルーク。



「おっさん、達者でな! また戦ろうぜ!」


「ああ……次は地を舐めさせてやろう。それまでは負けるなよ?」


「へへ、分かってらあ!」



それと次に……白丸に視線を置く。



「白丸」


「む……?」



ラセツも、こういう発言はあまり慣れていないのかもしれない。



「素晴らしい男を見初めたな。……妖怪と人間が結ばれた例はいくらでもある。うぬは……なんだ……あまり臆することのないようにな」


「な――――――――――――――――!!??!!??」



想定外の一言に驚愕しつつ、みるみる顔が紅潮する彼女。



「き、き、き、貴様!! その風貌で一体何を言い出す!? 気でも触れたかぁ!!」


「ふふ……」



そう言うと、まだ笑っている自身の膝を無理に立たせ振り返り、そして歩き出す。

他の邪鬼たちもそれに付いていく。最後はシュテンが大きく手を振り……森の中へ消えて行った――――



「……気のいい連中だったな」


「デスネ。結果論になりますけど、この出会いを感謝しています。いろんな意味デネ♪」



イズミが遠目にそう言う。そしてアメリアに視線を置くトム。すると彼女がまた……



「ぶぅええええええ~~~~~~~ん!! ト、トムぅぅぅぅぅ!!」


「えっと、鼻水はやめようか……」



そんな優しいやりとりを見つつ、ゴウダイは拳を握り締める。



「俺に……足りないもの……か……」


「ゴウダイ君……」



心技体、その全てが最も揃っていると思われた彼だが、まだ三文字の境地に至らない。一体何が足りないのか。不安そうに見つめるミナモだが、まさか自身がキーパーソンであることはこの時点ではまだ知る由も無かった。



「……」


「……」



一方で白丸とルーク。妙に気まずい雰囲気。何せ、先ほどのラセツの一言は彼にも聞こえている。



「な、な、な、なんだルーク! 先程のラセツの世迷い事は気にするなよ!」


「わ、分かってるって白丸ちゃん! え、え、えへへへへへ……」



慌てて彼女の言葉を肯定するも、思い切り鼻の下が伸びているルーク。それに気付いた白丸、怪しげな気を放ち彼に飛び掛ろうとするが……頬を赤らめ、プイと横を向いてしまう。そんな可愛い仕草がモロに視界へ飛び込んだ彼の鼻の下は、無限に伸びていく。


束の間の平和がまた訪れる。


邪鬼との一戦は終わりを告げた。

だがイズミはさすがにそろそろ気になり始めたようだ。



(……サイゾウ……何処行ったのかな……?)




※※※




砂浜から少し離れた場所。



「……どうして……なのかな?」



サイゾウだ。何者かと話しているようだが、対面を見ると人ではない。

体毛があり、四足歩行の獣。巨体を持ち、東国における最強とまで呼ばれた妖怪……



「あたしもよく分からないさね。……ムリョウは……あれからずっと洞窟に引きこもってんだけど……」



なんと空弧である。サイゾウと話すその意図は?



「そこから出てこない、と。それにしても、どうしてボクを呼び出したんだい?」


「アンタが一番話が分かるからだよ。イズミに近い男だし、ある程度ムリョウのことを知ってるしね」


「だけど、その出来事っていうのは?」



どうやら空弧がサイゾウを呼び出したようだ。それに乗ったのは、呼び出すという行動が空弧のこれまでに無いものであるのと、イズミとヤシャの戦闘時に彼女の勝ちは揺るがないと安心してのことだろう。


なお空弧は、比較的冷静な彼をイズミ一味のブレーンとして判断したのだろう。ムリョウとの出会いも最も早く、一度は狙われている身……様々な観点から一味の中で最も話が通じやすいと判断したのだと考えられる。



「あそこから帰って来て……すぐに引きこもったのさ。あたしまで締め出すなんてこれまでに無かった……」


「……!」



これまでに無かった事が起こっているということ。サイゾウは直ちに勘付く。



「空弧を締め出すほどの出来事が、その不思議な世界であったってことか。もしかすると……ムリョウは……」


「話が早くて助かるよ。あたしの口からは言えないことが多いからねぇ。呼び出した上に事情も詳しく説明してないのに、話に乗ってきてくれてすまないね」


「構わないよ。……ムリョウがどう判断するかは分からないけど、今後会う時は……」





「また……敵になるのかもしれないな……」





意味深なサイゾウの一言。空弧の発言で察するところがあったのだろう。

空弧自身も彼の最後の発言に納得している様子で、獣の面ではあるものの少々気落ちしている印象だ。



「ああ。だから悪いね……おそらく、もうムリョウはアンタらの前に姿を現さない。いや、現すことになるんだろうけど……その時は……敵さね。それだけ伝えたかったんだよ」


「ありがとう、わざわざ」


「いいんだよ。この間の借りはアレだけじゃ返せてないし……ああ、そうだ」



『この間の借り』のフレーズで思い出したか、空弧はその目をある方向に向ける。そこは森であり見通しはまるで利かない。だが見えているようだ。



()()()()……随分と力を付けたじゃないか。……相まみえるかもしれないねぇ……」



最後にそう呟き、その場を後にする空弧。

サイゾウはその背を見つめながら、今後の展開を不安視する。



(……となると……配下の四人も敵だ。正念場……だな)



ムリョウだけではない。時を司るあの四人も敵……少し冷や汗をかくサイゾウ。まだあの者たちに勝てるビジョンが沸かないのだろう。だからさらに思う。



(リュウシロウ君……君ならどうする……? 君なら……何かとんでもない一手が思い付くんじゃないか……? いや……やめておこう。僕が君を頼るなんておこがましい)





(……君からイズミちゃんを奪った僕が……頼るなんて……)

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