第32話 新たな目的
~街道沿いの茶屋~
時と場所は現在に戻る。
リュウシロウ、トム、ゴウダイ、ぽん吉の三人と一匹が、イズミの周りに集まっていた。
理由は……彼女から流れる一筋の涙。何事かと慌てた訳だ。
「な、何で泣いてんだよ!? おいトム! お前何かしたろ!」
「オー! ウェット衣(※)デース! 吾輩何にもシテませーん!」
※濡れ衣
「涙まで美し……ん、んふ! ゴホン、ゴホン!! お、お前たち! 騒ぐんじゃない! 彼女の美しい眠……んん! ゴホン!!」
「ぽぽぽーん!」
何とも情けない有様である。
騒いだからか、はたまた夢の終わりが訪れたのか、イズミは瞼を少し震わせ体動が目立ち始め、その後程なくして……
「…………何やってんだ?」
目を覚ましたイズミ。起きて早々に呆れ果てている。
「あ……」
「イ……」
「う……」
「ぽ……」
「ぽん吉! そこは『え』だろうがよ! 今すぐ声帯変えて来い!」
「ぽ――――ん!?」
リュウシロウの無茶な要求に、ぽん吉が叫ぶ。
そんな様子に日常を感じたのか、イズミは軽く笑みを浮かべた後に口を開く。
「皆、心配かけてごめん。……いろいろと思い出したよ」
「……」
神妙な趣きの彼女に何かを感じたのか、男性一同は沈黙し成り行きに身を任せる。
「長くなるけど……話せるだけ話すよ」
そう言うと、イズミは思い出せたものを紡ぐように、少しずつ語り始めた。
※※※
「なるホド……つまりイズミサンは記憶の一部が変わってイテ、その原因がサイゾウサンにあった……そういうコトですね」
「ああ。……でもトムはボクの事情を知らないから、こんな事言われても困るよな……」
「ノー! そんな事アリマセンよ! 貴女をまた深く知れて吾輩ラッキーボーイです」
トムは、イズミと出会ってからまだ日が浅く、実のところお互いを深くは知らない。
彼女の記憶の曖昧さを知る者は、この中ではリュウシロウとぽん吉のみなのだ。
「そうか。まさかイ、イズミがサスケ氏の息女だったとは……」
「……え?」
ここでゴウダイが一言。知ったような口ぶりにイズミは驚く。
なお噛みながらも、何気に彼女を名前で呼んでいる。ちょっと緊張したのか。
「父上を知ってるのか?」
「知っているも何も、俺もサイゾウとやらと同じく、その戦には参加しているからな。もっとも俺は前線だったが」
「そこに父上は居たのか!?」
「いや、サスケ氏とは配置が違ったのでな……詳しくは分からん。しかし、あの戦に参じた者ならその名を知らぬ奴は居ないだろう。それほどの兵だ」
「そうか……そうなんだ……」
サイゾウとの記憶だけではない。ゴウダイという当事者がその場に居ることで、父サスケの勇姿は実在のものだったのだと彼女は納得する。
「サイゾウには……」
「会っていない……いや、会っても分からんだろう。それに当時俺は十五で、戦線に入り浸りだったからな。元より年少組の動向まで把握するのは不可能だ」
「……」
つまりは手掛かりなし。もうそれ以上言葉が出ないイズミ。
「あのよ、イズミ」
ここで、リュウシロウが静かな口調で問い掛ける。
「今まで話を聞いた限り、空の亀裂どーこーは一切触れられてないよな?」
「そう言えば……そうだな。思い出せたのはサイゾウの事ばかりだ」
彼女が意識を消失したのは、
ー貴様は空に浮かぶ亀裂を見たことがあるか?ー
ムリョウのこの一言がきっかけである。しかし、これまでのイズミの話の中にその文言は一切無かった。
「つまり、だ」
意識を自分に集中して欲しいのか、強めの前置きをする。
「真相を知るためには、サイゾウって野郎の話も聞かなきゃならねえってことだな」
「??」
「今までの話はお前視点だ。お前と居た四年間でサイゾウ自身にも何かがあった訳で、それを聞かねえと話が繋がんねえだろ? そこにムリョウの言葉の意味が隠されてると思うんだよ」
「ボ、ボクもサイゾウと話をしたいと思ってる……! でも……」
父同様、サイゾウの情報も得たい辺り、彼女自身これから何をしたいのか、何をすべきなのかは定まっている筈なのだが、個人的な感情が根底にあるため自分から提案し辛いのだろう。
「かー! らしくねえな! いつもみたいに『行くぞコラ!』でいいじゃねーかよ。ムリョウをぶっ倒すんだろ? 真相知りたいんだろ? 分からないままじゃイヤなんだろ? じゃあサイゾウの面拝みに行くしかねえだろ」
パァっと表情が明るくなるイズミ。
さらにトムとぽん吉が追随する。
「ソーですよイズミサン! 我々は仲間なんデスから、そんなウォーターツーンなこと言わないでクダサーイ」
「ぽぽぽん! ぽぽーんぽん! ぽんぽんぽん! ぽっぽっぽっぽっぽ! ぽおおおーん!」
「水臭いって言えばいいだろ!! ってかツーンはそもそも西国語じゃねえよ!! あとぽん吉! お前何かもう普通にしゃべれるだろ!!」
「あはは! 二人共……ありがとう」
トムとハイタッチをし、ぽん吉を抱っこするイズミ。
記憶を取り戻したことで、内心自分がこれまでと変わってしまったかもしれないなどの不安感があったのかもしれない。
支えてくれる仲間が居る……それを改めて感じた彼女であった。
だが、引き続きリュウシロウは思案する。
(実のところ、まだまだ分からねえところが多いんだよな。コイツ視点じゃ分からねえけど、まあ多分サイゾウを傷付けたのも、イズミもひっくるめて追跡していたのもムリョウだろ。後半あんな何処からともなくワープするような奴の追跡に、どうやって気付いたのかは謎だが……)
「よーし! リュウシロウも……あれ?」
(そもそも何で四年も見つけられなかったんだ? あの野郎は『苦労する訳だ』なんて台詞ぶちかましてくれてたけどよ……サイゾウが西から来たってんなら、ムリョウの野郎も西から調べるに決まってるよな)
「リュウシロウ?」
(となりゃ、いずれ東の里には行き着く筈だ。チョウジやらあの辺りの連中使えばそんなに難しいことじゃねえだろ。何せ、アホみたいに式神召喚出来るんだしな。対象を見えなくする忍法なんて存在しねえし……いや、忍法……以外……なら?)
「おーい、リュウシロウ~」
(少なくとも呪忍術じゃそんな事は出来ねえ。イズミに、呪忍術のいずれかの忍法を使ったのはサイゾウで間違いってところだけは分かったが、やっぱコイツを問い詰めねえとな。それをすりゃおそらく、ムリョウがイズミを付け狙う理由にも繋がる筈だ。イズミの呪いの掛かり方もちょっと気になるしな……)
「リュウシロウ!!!」
「ぎゃ――――す!!」
聞いた話はあくまでもイズミ視点。そこから分かる情報は限られている。
そんな中リュウシロウは、推測を交えて自分なりに解釈、考察をする……が、いつものようにイズミに至近距離で怒鳴られ遮られてしまう。
「何すんだよ!!」
「相変わらず人の話を聞かないヤツだな!」
「お前なんていっつも分かったフリしてるだけだろうが!」
「分かったフリとは何だ!! ボクはご覧のとおり頭脳派……」
「だから見た目詐欺だって言っただろうがよ! それっぽい割にすっからかんじゃねえかよ!!」
「誰がすっからかんだ!! お前は頭でっかちだし、突っ込みはくどいし、考え込んでばっかだし、少しは若者らしく猪突猛進に勤しめ!!」
「猪突猛進は勤しむものじゃねえよ! どっちかっつーとついうっかりの産物だよ!! んで突っ込みがくどいって……言わすなよ!!!!! 胸の容量も少ねえけど頭の容量も少ねえな!!」
言い過ぎ。
「ブチッ!」
「口で言うヤツ初めて見たよ!!??」
ズドッ!
「えのきっ!!」
「イヤー、ようやく日常が戻ってキタ感じがシマスねー、ぽんキチサン」
「むう……麗しい彼女の印象が……い、いや……これはこれでアリ……なのかもしれないな。豪快に殴る彼女も……うむ、良い……」
「ぽん……」
リュウシロウの顔面が凹になった辺り、トムはニコニコとその光景を眺める。
ゴウダイは長い独り言モードに突入。
仲良きことは美しきかな。ぽん吉はいつものようにため息を付くのであった。




