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第319話 二つの鬼の力

体が竦む。

現時点で二文字と、少し皆より遅れているゴウダイはもちろん……



「……」



三文字であるミナモすら震える。

シュテンだけが別格? いや、ヤシャの口振りではラセツが最強の筈。では何故このような状況となるのか。



「あんま時間あらへんで……」



と言いつつ、少し離れた距離であるにも関わらずその場でブンと手を振る。



ドッ――――――――……!!



「……え?」



地が割れる。

それが森を駆け抜け、最寄の山に衝突しても収まらない。その山が美しく割れるような、現実味のない光景が広がる。


このような力は見たことがない。これまでの戦いというのが何だったのかと思えるような、次元の違う残撃を目の当たりにしミナモは言葉を失う。



「は、外したやん……難しいわ……」



制御が出来ていない?

シュテンが苦悶の面差しとなる。力を上手く操れていないようだ。

だが、一度は放った攻撃……そして紛れもなく兵の一人……次は当ててくるだろう。



「ミナモ!!! 逃げろ!!!!」



それを察したかゴウダイが叫ぶ。



(なんだあの攻撃は……!? 守天炎環でも……間違いなく防げん!! そういう次元の話じゃない……あれが鬼の力……)



そう思いつつシュテンに視線を置く彼。それに気付いた様子の彼女。



「そうやに? これがウチの鬼の力……ちょっと特殊やけどな。ウチの場合はコレと……」



話している最中から足の色が変化する。元の色と黒が混じるような印象……ヤシャの腕と似たような状態となる。



「こうなると早いで? 赤鬼の残撃と……東国練り歩いとった鬼の力で、速度と力兼ね備えた完璧美少女の出来上がりや」


「……」



つまり、シュテンには二つの鬼の力があるということ。

鬼の存在を知るものは、鬼の力があるというだけで竦み上がる筈である。さらに、『赤鬼』というのは固有名詞か? もしそうなら無敵の鬼の中の、さらにネームドということになる。もはや誰にもどうにも出来る存在ではない。


しかし……



「だからどうしたのよ」


「……へ?」



臆さないミナモ。震えはいつの間にか消え、再び構える。



「……ふーん……ええ度胸やん? 他の三文字より下に見とったけど……訂正するわ。気勢だけっちゃうもんな……」


「御託はいいわよ。その鬼の力……とっとと見せなさい!」


「や、やめろミナモ! いくらお前でも……」



現在のシュテンの実力は分かるだろう。ゴウダイが止めるがそれでも引かない。



「逃げても意味ない……三文字ですら凌駕する力なら、この世界の何処に逃げても捕まるわ。戦って勝つことだけが突破口……そして、それが出来るのは三文字であるこの私!!」


「……」



やがて、ミナモの周囲に水が走る。

先程よりも、圧倒的に強い気勢を上げる。流れるような水が彼女を取り巻く。シュテンは少し笑っている様子。



「……ジブンが三文字の理由、なんか分かった気がするわ。たしか……心技体やったっけ? ぜーんぶ揃わんとなれへんのやんな? ……確かに揃っとるやん……ぬふふ……」


「はぁぁぁぁぁ!!! ……忍法!!」



ぬらりとシュテンが近付く。

ミナモは印を結び忍法の準備をする……のだが?



「……ん?」


「……んん?」



シュテンの様子がおかしい。

ゆっくりと歩いてこちらに向かって来るのだが、その足取りがどんどん重くなっている印象。二人は彼女を注視する。



「ぬふふ……ふふ……」



笑みを浮かべながらではあるが、膝から体が少しずつ下がり、やがて……



「ぬふん」



そのまま前のめりに倒れる。



「ふふ……()()()()や……」


「えええええええええ――――――――――――――――!?」



ミナモの目が飛び出る。ゴウダイは点になっている。




※※※




目を回して、そのまま気絶してしまったシュテン。今は何とか目を覚ましたようだが、全く動けない様子。

何故かミナモが、氷を作り出し彼女の額に乗せている。



「一体何なのよあんたは!?」



大々的に力を示したシュテンだが、結局持続したのは数十秒というところ。非実用的にも程がある。いちいち酒を飲まなければならないというのも手間だ。ミナモの突っ込みも致し方ない。



「あ、あかん……ミナモちゃん……もうちょい水……」


「どの口が言ってんの!?」



と言いつつ、指先からジャバジャバと水を出すミナモ。なんだかんだと優しい。



「がぼ……ぼがが……びゃっびゃ……ばぼびばばばば……ばぶばべべびんぼび……」


「飲んでから言いなさいよ!!」


「んぐごく……ぷっはー! ごめんなー、助かったわー! おおきんなー!」


「なんというデタラメな邪鬼だ……」



青筋がどんどん増えるミナモ。ゴウダイもため息混じりである。


なお、説明によると『力の使い過ぎ』。これに尽きるようだ。

邪鬼程の妖怪が、全てを投げ打っても数十秒のみの発揮。しかも、これでも鬼の力の片鱗ですらないとのこと。



「その力を、ちょびっとだけ持っとるだけに分かるんて。本家様はもっとえらいこっちゃやんって」


「ヤバ過ぎじゃん……でも結局さぁ、鬼って何なの? 亀裂の向こうに居るってことしか分かんないのよね」


「地獄で亡者共の管理しとるみたいやけど……後はよう分からん。それにしても……あーあ、やっぱ上手いこと扱えやんなぁ……能面どーしよ……」


「!」



どうやらシュテン、赤鬼の力を多少なりとも持っていることで、ある程度その力の本質が分かる模様。もっとも、その力が強力過ぎる為か漠然とした表現だが。

なおここで、ゴウダイは彼女の発言で気になるところがあったようだ。



「お前も能面を狙い続けるのか?」


「……んー……別にどうでもええ」


「……は?」


「ウチはなんもされとらへんでな。他の連中は能面に妙な術掛けられて、人間に危害加えられへんようになったんやけど」



どうやら彼女だけは能面の呪縛から免れている様子。最初から敵意を持っていなかったことから、元より人間に危害を加える気はないのだろう。



「ウチはな、美味い酒があったらそれでええんやに? それに人間ってええヤツ多いやん。アイツが殺した聞いて、もし能面がなんもせんだらウチがぶち殺しとったで」


「そ、そうか。……ああ、お前はその場に居合わせて無かったのか……」


「そゆこと。まあそれはええんやって」



シュテンは、美味い酒を作る人間が好きなようだ。だからこそ、ぶち殺すという発言の際はゆらりと怒り模様を示す。

なお彼女も気になったところがあるようだ。



「それよりもな、ジブンの方心配した方がええで?」


「……分かってる」



ゴウダイを一瞥し、少し鋭い眼差しを見せるシュテン。先程のふがいなさの指摘だろう。何か返答をするべく、彼が口を開こうとしたその時!



ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!



「ふえ!?」


「な、何あれ!?」


「アレは……風……?」



遠巻きに見えるのは、とてつもなく巨大な風の渦。時系列的に、トムがイバラキへ放った旋風衝だ。

だがそれは突如パッと消滅し、同じく遠巻きでイバラキの動きが静止している様子が伺える。

シュテンとミナモおっかなびっくり、ゴウダイは冷静に術の性質を確認しているようだ。



「な、なんなん!? あの攻撃も……ジブンらの仲間のヤツなん!?」


「ち、ちょっと待ってよ! 風忍術ってトムさんと白丸だけでしょ!? 白丸は逆の方向に居るし……トムさんなの……? でも……あの威力……」





「三文字に決まっているだろう」





即座に理解したゴウダイ。そう。トムがアメリアと和解したかどうかはさて置き、三文字に至ったことにすぐさま気付く。



(トム……やったな。やはりお前はとんでもない奴だ。フフ……俺も必ずその境地に至る。これは確定事項だ)



あくまでも前を向く彼。そこに、先を越されたという悲壮感はまるで見えない。



「シュテン……だったか?」


「んん?」


「今日は……お前に学ばせてもらったよ。ありがとう」


「ほへ?」



そう言うと、満足気にその場を後にしようとするゴウダイ。そこに待ってよとばかりにミナモが付いて行く。

なおシュテンは、彼の反応が意外過ぎたようだ。



(仲間がえらい強なって、焦るんかと思ったんやけど……笑っとるやん。ミナモちゃんも三文字やし、イズミってゆうたかな? アレも三文字やろ。そんで他の仲間もまた三文字になって……こんだけで相当焦りそうなもんやけどなぁ)



ここで彼の去り行く背中を一瞥する。



(……まるで縮こまっとらへん……今日の流れであんだけ堂々としとんのも珍しいで。ああいうんが……もっと上に行くんやろうなぁ……)





(東国の英雄かぁ。言われるだけあるやん? もう……能面一強の時代は終わりやな)

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