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第312話 白丸VSラセツ

場所は変わり、イズミとヤシャから離れた……いや、既に他の者たちの姿が見えなくなる程の距離まで移動しているルークたち。


いや、移動ではなく……



「……」



ラセツに顔を掴まれ、だらりと力なく宙吊りにされるルーク。

そこからごく近い距離で、白丸が攻めあぐねている様子。



(……ルークが……これほど容易く……まさかこんな所にまで投げ飛ばすとは、一体どんな膂力だ……)



戦いが始まったその後、彼はラセツに投げ飛ばされたようだ。皆が見えない距離までに。



「……儂と戦うには未熟。身の丈に合わぬそのぞんざいな振る舞い……代償はうぬの命で償ってもらおう」


「……!」



そう言うと、手に力を込めるラセツ。

ルークの頭部をすっぽりと収められるほどの大きな手。このままでは彼の頭部は確実に破壊されるだろう。白丸に焦燥感が生まれる。



「させん!!」



―攻勢・切颪!!―



「?」



今彼女の術が、目の前の筋骨隆々の邪鬼の手に命中した。だが何も感じていないのか、それとも何かが当たった程度にしか思っていないのか、不思議そうな面差し。



「ぬ? ……今、何かをしたのか白丸」


「……なんというふざけた身体だ。どいつもこいつも、妾の術を愚弄しおって……」



白丸は以前よりもずっと強化されている……にも関わらず、術が通用しない。ラセツの異常な耐久力を思い知る。



(やはり……アレを駆使せねばどうにもならぬか……)



彼女は、今や人間の記憶を取り戻し神通力も複数使用可能。そして、式神として仏神を召喚することも出来る。かつてベリアルを一撃でなぎ払ったその実力は、皆も認めるところだろう。

だが、それらを使うことに少し二の足を踏む。消耗が著しいのだと考えられる。



「うぬでは儂に勝てぬぞ? この無礼な男の命だけで許してやろう。今すぐここから消えることだな」


「頭が悪いのか貴様は。相変わらず、身体も頭の中身も筋肉しかないな。イズミとさほど変わらん」



ラセツの選択は『見逃す』だが、白丸は当然の如くそれを受け入れない。彼は少しだけ口角を上げる。



「ふん。いつぞやは我々に震え上がっていたうぬが……少しは成長したか」


「何百年前の話をしている。さあ、妾が相手をしてやろう。その男を離せ……片手では勝てぬぞ?」



居丈高にラセツを威圧する白丸。だが相手は何処吹く風……だが彼女の挑戦に乗る気なのか、砂浜にルークを雑に捨てる。



「……ルーク!」



その瞬間、白丸が彼に駆け寄る。ラセツに睨みを利かせながら。



「……」


(!! ……大丈夫だ。まだ息は整ってる……バカ……どうして……)



抱き寄せて即呼吸を確認。

すでに気絶しているようだが、息遣いに問題はない様子。彼女はあからさまにホッとしたようで、それを顎をこすりながら眺めているラセツがニヤリ。



「ほう? その軟弱者がうぬの男か。……クハハ……そのような箸にも棒にも掛からんくだらぬ男を選ぶとは……所詮は弱者の集まりか……」


「……」



この台詞を耳にし、目が据わる白丸。だがそのまま目が笑っていない状態で口角だけを吊り上げる。



「うつけ具合も度が過ぎれば笑えんぞ? この男がその気になれば貴様など……」


「クハハハハハ! 今儂に破れ、無様な醜態を晒しているその男は何だ? まだ本気ではないと? 負け惜しみにすらならんな!」


「ふん、能面に無様な負けっぷりを晒したのは何処のどいつだ? 雁首揃えて手も足も出んとは、邪鬼も程度が知れる」


「!!」



白丸は知っている。何故邪鬼が能面を狙うのか……今、その言葉を聞いたラセツが眉間に皺を寄せているのが、彼女の言葉が正しいことを示している。さらに白丸は続ける。



「クク……人間はどうか知らんが妖怪界隈では有名だぞ? 邪鬼ともあろう者が……人間に醜態を晒した挙句脅迫され、千年も引きこもっていたとな……はーっはっはっは! 何が最強だ! 笑わせる!!」



ビキビキと、額に血管を現すラセツ。余程触れられたくなかったか。



「……大人しく逃げ帰れば良かったものを……」



そしてゆっくりと動き出す。全身から異様な気を放つその様子は、明らかに憤怒が込められているであると言えよう。



(さて……これで()()()()()は妾だ。もう後には引けんな……攻守どれを取っても格上……全力を尽くすしかあるまい)



覚悟を決めた白丸。と、ここで柔らかな面差しとなりルークを見つめる。



(お前には……死んでほしくない。アソウギから妾を守ってくれた借り……今こそ熨斗を付けて返すからな)


「ふぅぅ……はぁぁぁ……」



その後視線をラセツに戻し、気勢を上げる。

にじり寄る恐ろしげな邪鬼は、それを見て感心しているようだ。



「……何があった……? たかが数百年で得られる力ではない。齢にまるで見合わぬではないか」


「勝手に考えていろ。貴様程度のものさしで、妾を測ろうなど笑止千万!」



やがてラセツが間近に迫る。白丸は一歩も引かない。その数秒後、お互いの手が届く辺りで……始まった。



「ぬぅぅぅぅ――――……!?」



その巨大な手を、白丸目掛けて放ったその刹那……



―猛勢・壊衝破!!―



ドォォォォ――――――――ン!!



既にラセツの横側へ回り込み、至近距離でその顔面に壊衝破を打ち込む。


だが……



「……何故……避けられる……?」



攻撃に対して言っている訳ではない。それよりも白丸の動きが気になった様子。つまり、術の効果はまるで無い。少し首を動かしただけで、顔に僅かに傷も付いていない。



「壊衝破でこれか……」



面差しこそ変わらないものの、落胆した様子が声で分かる。こうなると、彼女の攻撃手段は限られる。



「ふおおおおおおお!!」



ラセツ、今度はその巨体を生かしてあらゆる角度から攻撃。

だが当たらない。ヤシャには及ばないもののかなりの速度であるにも関わらず、白丸にはかすりもしない。



「……ふう……」



一見余裕そうに見える彼女。だがまだ戦いが始まってまもない現時点で、ひどく消耗しているようだ。



(以前より正確に心が読める……速度はベリアルと同等だが、威力が比ではない……当たれば身体が削がれるな……)



ラセツの攻撃の重圧が、白丸の体力を奪う。



(これ以上はまずい。出し惜しみをしている間に体力が削られる……ならば!)


「ぬ?」



少しラセツから距離を取り、大惠刀印を結ぶ。



「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時……」


「クハハハ! 姿を消す程度で儂から逃れられると思ったのか? なんという浅知恵……」


「マヌケが。貴様の時間はあの時で止まっているようだな! 刮目しろ!!」





顕現(けんげん)せよ!!!! 愛宕権現!!!」





白丸から現れた文字が形となる。馬に乗り、左手に柄の付いた旗を持ち、右手には剣を持つ巨大な仏神……愛宕権現、見参。



「……むう!! こ、これは……!!」


「終わりだラセツ……なぎ払え!!!!」



彼女の言葉と同時に、愛宕権現は剣を振りかぶり、真下に居るラセツ目掛けて振り下ろす。



ガシィ!!!



「……な!?」



しかしラセツ、なんとその剣を受け止める。

白丸はありえない光景に驚愕する。



「クハハ……ハハハハハハ!! 白丸……仏神をも操るようになっていたとはな!! 何処でどう得たか知らぬが……儂と戦う資格あり!!!!!」



バキィィィィィ!!!



それは歓喜。

異常な程の喜びを見せつつ、そのまま剣を握りつぶしてしまう。



「……ありえん……既にこの男……式神化しているとは言え仏神の力をも……いや、未だ妾の力が足りぬだけか……」



要は、愛宕権現の力を引き出せていないということだろう。ギリっと歯を食いしばり、足りない力に対して怒りを示す。



(これが、鬼の力を僅かでも得た者の力か……他の連中は無事か……)



改めて鬼の力を思い知る。

勝利したイズミは、この時間軸では戦闘中である。ではゴウダイは? アメリアは? 戦いの火蓋は切って落とされたばかりである。

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