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第302話 謝罪

その後アメリアは話す。

リュウシロウと出会ったこと。

そして、仲間たちとごぎょう神社で激闘を繰り広げたこと。


ただし……



(申し訳ありませんルーク……ノーランのことは()()()()()()()()ですので、伏せさせていただきますね)



ノーランが生きている件については、何やらやりとりがあったのか伏せたようだ。

そして最後に、再びリュウシロウが地獄に落とされたということを付け加え、話を終える。



・・・・・・・・・



皆は静まり返る。

眠っているトム、そして西国人であるルーク以外は、皆カタカタと震えている。



「そ、そんな……リュウシロウが……地獄……に?」



ようやく口を開いたのはイズミ。

目の焦点が合わず、聞いた話を受け入れられないといった様子。


まもなく白丸が崩れる。



「……馬鹿な……」



呆然とし、一点を見つめているような素振り。

やがて俯き、力なく座り込む。



「リュウシロウ……」


「……」



ゴウダイ、表情こそ崩さないが力いっぱい拳を作る。

ミナモは手で口を押さえ、やはり信じられないといった印象。



「な、なんだよ! そんなにヤベーところなのか?」



ルークだけはよく理解していないようだ。

東国に来て暫く、亀裂の話は耳に及んでいるのだろうが、今ひとつ信じきれていないのだろう。何せ亀裂の中は地獄があり、そこには鬼が居るなどすぐに飲み込める訳がない。


と、ここでサイゾウが前に出る。



「アメリアさん」


「は、はい」



真顔の彼。アメリアを伺っているようだ。



「今の話……全て真実なんですよね?」


「はい……この目で見たことをそのまま伝えております。リュウシロウ様は、間違いなくスザク様の手により亀裂の中へ放り込まれてしまいました」



まだ彼女を見つめ続けるサイゾウ。いや、見つめるというよりもそれは疑惑の目。



「……随分と……平然としているんですね。まだ舌の根も乾いていない筈なのに……」



あまりにも平常心なアメリアを、不自然と思ったのだろう。

だが肝心の彼女はきょとんとした様子。だから思ったことをそのまま言ってしまう。



「ごぎょう神社でも、今のような喪失感に満たされていました。……ですが、何故なのですか?」


「何故って……亀裂に放り込まれるというのは、すなわち死……」


「何故イコールで死となるのですか?」


「それは……地獄の鬼には誰も勝てないし、ただでさえリュウシロウ君には戦闘力がないから……」



疑問をサイゾウにぶつけるも、やはり今ひとつ理解出来ないアメリア。

当たり前だろう。彼女にとってリュウシロウは現人神。そして心から信じる相手。



「リュウシロウ様はご存命です」



だからこそ言い切ってしまう。俯いていた皆が顔を上げる。



「……それは……希望的観測に過ぎない。貴方はまだ東国に来て日が浅いだけです。亀裂のことをもっと深く知れば、天津国の鬼伝説が事実であることを知れば……」


「地獄の鬼とやらがどれだけ恐ろしい存在なのかは分かりません。ですが、リュウシロウ様がその程度のことで亡くなられる訳がありませんし、今頃鬼たちを従えているのではないでしょうか?」


「へ……」



さも当然のような声質。

サイゾウは目が点になってしまう。



「先ほどの反応で、ここにおられる皆様にとっても、リュウシロウ様の存在がとても大きなものだと分かりました。……あの方はさしずめ、我々のような迷える子羊の行く道を指し示す光……鬼たちもそれに照らされることであの方を認め、剣となるのです」



そして断定。アメリアの瞳に一点の曇りもない。



「私には分かります。やがてリュウシロウ様は、とてつもない光となってこの世に舞い戻られます。それよりも、皆様が悲しみに暮れたままデヴィルたちにいいようにされ、あの方を悲しませるようなことがないよう精進しなければなりません」


「……ぷっ」



リュウシロウを心配するどころか、皆に檄を飛ばす彼女。まさに今悲観に暮れていたイズミが吹き出す。



「な、何がおかしいのですか!」


「ごめんごめん。アメリアの言う通りだよ。よーく考えたら、リュウシロウが地獄に落ちたくらいで死ぬ訳ないよな。アイツ、あんなに弱いのに殺しても死ななそうだし」



あまりにもアメリアが当然のように言い放つ、そしてイズミの言葉により場の空気が大きく良い方向に傾いたようだ。



「それもそうだな……何せあのリュウシロウだ。妾を言葉だけで射止めた手練れ中の手練れ……鬼如きに破れるなどあってはならん」


「たしかに、あのリュウシロウのことだ。口八丁で上手く鬼をまるめ込めるかもしれん」


「そういやリュウシロウだったよね……上手く行けば鬼を仲間に出来るとか……なーんて……」



白丸、ゴウダイ、ミナモの三人も少しだけ顔が綻ぶ。

サイゾウの言うとおり、あくまでも希望的観測に過ぎない。

だがそこはリュウシロウ。何かを期待させてくれるのである。だからこそ、最悪とも言える雰囲気が立ち直りを見せる。


だが、その空気を良しとしない……否、アメリアという人物を否定する者がまだこの場に居る。



「騙されてはいけませんよ」



皆がその声がする方へ顔を向ける。



「トム!! 気が付いたんだな!」


「ご迷惑をお掛けしました……朧気に、サイゾウさんにお世話になったこと……覚えていますよ。本当に……ありがとうございます」


「トムさんはまだ倒れていい人じゃない。まだまだ頑張ってもらわなくちゃね」



トムがようやく目覚める。イズミは大きく喜び、彼のお礼を素直に受け取るサイゾウ。


しかし、その歓喜の雰囲気も束の間。

トムが強くアメリアを睨み付ける。



「……君の目的は何だ? 私たちを惑わしてどうするつもりだ」


「……」



敵意をむき出しにする彼。アメリアは無表情のまま何も言わない。



「トム……! 彼女は我々に情報を……」


「ゴウダイさんは、まだ彼女の薄っぺらさを知らないだけです。自身の保身の為であれば、どのようなことでもするでしょう」



ゴウダイが諌めるが、納得するどころかさらに被せてくるトム。

そんな中、アメリアがトムの傍らまで近付き、腰を下ろす。



「……近付かないでくれないか? ああ、ちなみに西国には戻らない」



極めて冷たい口調で言い放つ。なお、以前は西国に戻ると言ったようだが……? プレジデントがアスモデウスとなり、東国へやって来たからだろう。返る理由が無くなったのである。



「構いません」


「?」



だがアメリア、あれだけトムを引き戻したかった印象だったが、あっさりと承諾。



「……」



その後、何も言わず彼を見つめ続ける。



「何だ……? また身勝手な哀れみか?」


「……とても長い時間を要しました。貴方の気持ちに気付くまでに……」


「はは。その言い方だと、まるで本当に私の気持ちに気付いたみたいじゃないか。……何も分かっちゃいないのに」



黙って首を振るアメリア。



「いえ、大切な者を失う気持ち……まだ半分ではありますが理解したつもりです」


「……」



今の言葉に、明らかに苛立った様子のトム。



「これ以上の言葉は不用ですね。トマス、私はもう決めたのです」


「……? ふん、また一方的な……」


「お父様……いえ、プレジデントは私が討ちます」





「……な……に……?」



姿勢を一切崩さず、トムから僅かにも視線を外さず、力強い言葉で言ってのけたアメリア。



「リュウシロウ様との出会いが……私を大きく変えました。今私がやるべき事はこの手でプレジデントを討ち、アンナ=メリアに蔓延る悲しみを私が全て背負うことです」


「そ、そんなことを……君が出来る訳が……」


「もう決めました。……だからこそ……分かります。ほんの少しだけ……ではありますが……やっと……やっと、貴方の気持ちが理解出来たと思っているのです」



真っ直ぐトムを見つめ、ツーと涙を流すアメリア。しかし視線は外さない。ずっと彼の目を見て話す。



「う……」


「トマス……今こそ貴方に……心から謝りたい……あの時、私の判断でシェリーさんは生き長らえた筈……その判断をせず、見て見ぬ振りをしたこと……本当に……本当に……」





「ごめんなさい……」



眼が大きく開くトム。明らかに伝わっている。

これまでアメリアがどんな言葉を投げ掛けても袖にしていた彼だが、今の言葉はしっかりと受け止めているのが分かる。



「だ、だから……今更……」


「分かっています。もう失われたものは戻って来ない……だから……せめて私がプレジデントを討ち、これから失われるかもしれない命を……この手で救ってみせます。それが私の生きる理由です」


「……あ……う……」



真摯に向き合うアメリアに、今度はトムが目を逸らす。彼も理解している。全てが彼女の責任ではないことを。だからこそ、ここまで覚悟を決めたアメリアに対して何も言えない。


だが、これまで募った恨みつらみが直ちに消える訳ではない。



「く、口だけなら何とでも言える!! 君はいつもそうなんだ!! 君が……その程度の人間だということくらい、私は知っているんだ!!!」



言い返す言葉が無かったのかもしれない。

ただ感情的に言葉を並べただけ。だがそれもアメリアは理解しているようで、この言葉に対して何か思う様子もないようだ。ただ、悲しげな視線。


もっとも、この者だけは今の言葉がとても気に入らなかったようだ。



「ほ~う? トム……お主、アメリアを何処まで分かって言っとるんぢゃ? 真摯に向き合おうとする人間を一方的に罵るとは……随分と偉くなったのう」


「……………………………………………………え?」



トムの首が、ギギギと声のする方向へ動く。

珍しく焦燥感溢れる彼。夥しい汗をかく。それもその筈、相手は自身の……


師匠なのだから。



「お、お、お、お、お、お、お師匠様ぁぁぁぁ――――――――!?!?!?」

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