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第30話 イズミの過去②

さらに一ヶ月後。



~イズミの住家前~



「はあ!!」


ズドォォォ!!



イズミが拳を繰り出す。そしてサイゾウがそれを受ける。

どうやら二人で修行中のようだ。



「うん! いい突きだ! ……イテテ」


「……」



彼は褒め言葉を並べるが、それには反応せず彼女は目を丸くしている。



「どうしたの?」


「うん……こんなにあっさり止められるなんて、サイゾウ君ってほんとにすごい忍なんだね」


「い、いやいやいや! 結構本気でやってるんだよ? イズミちゃんの方こそ、その齢ですごいよね。よっぽどサスケさんの指導が良かったんだね」


「うん! 父上はすっごい忍だったんだよ! 私の力忍術も父上直伝なの! それにね私、父上から力忍術の才能があるって言われてるんだ!」



自分が褒められるよりも、父であるサスケが褒められる方が喜びの大きいイズミ。心の底から尊敬しているのは明らかだ。

しかし彼女の考えは、少々世間と剥離していると言わざるを得ない。



(……力忍術の才能……か。人里離れたこの場所だからこそ通じる方便だよなぁ)



力忍術の使い手……それは世間において、忍術の才能が無いという烙印でしかない。決して町で声高に出来る事実ではないだろう。サイゾウ自身もその常識は把握している。

ただ一点、世間の力忍術と違うところがあるようだ。



(でもイズミちゃんの力忍術……とんでもない水準だ。今じゃ一般人がちょっとした肉体労働でしか使わないのに、戦闘用としてここまで高めるなんて驚きだよ。それに……なんだろ?)



世間の力忍術とイズミの力忍術の違うところは、世間がそれを補助的な役割として使用しているだけに対して、イズミの力忍術は戦闘に特化している上に練度が非常に高いという点だ。



(手合わせしている内に、妙に()()()()()()()……僕の気の練りが足りないのかな……)



と、いろいろと考えている内に……



「どうしたの? ボーっとしてたら……危ないよぉ!!」


「あわわわ!」



と言いつつ襲い掛かってくるイズミ。大慌てでそれを処理しようとするサイゾウ。



(これで『才能なし』……か。でもこの子は絶対強くなる)



彼はひたむきに修行する彼女を一瞥し、少し微笑んだ。



(僕も支えるよ。サスケさん……だけじゃないか。みんなと約束したしね)




※※※




さらに数ヶ月。



「はい、どうぞ」


「わぁ! 美味しそう!」



ある日の晩、並べられた食事はサイゾウが担当したようで、以前のような無残な状況にはなっていない様子。

イズミは早速並べられた食事に手を付ける。



「私が作るよりずっとおいしい……ぐす」


「いやいや! イズミちゃんの作るごはんも……その、何て言うか個性的と言うか、後引く味と言うか……他にはない感じだから!」


「ほんとに? ……うふふ、ありがとう!」



微妙な言い回しであったが、彼女はポジティブに捉えたようだ。

猛烈な勢いで箸を進ませ、食べ終わるその寸前にイズミは言う。



「ごはん食べたらまた修行しよ!」


「え……? もう時間も遅…………いや」



修行に対して積極的なのは良いことだとしても、根を詰め過ぎるのも……とでも考えたのだろう。

サイゾウは、時間を気にした素振りを見せるが言い留まり少し悩むが……



「うん、分かった。頑張ろうか」



笑みを見せ、彼女の願いを聞き入れた。

ただ一点、これまでイズミと住んでいて気になるところが……いや、絶対に譲れない何かがあるようで突如鬼気迫る面差しへと変化する。



「でもイズミちゃん」


「な、何? 急にどうしたの?」



ジッと彼女を見つめるサイゾウ。ほんの少しだけ間を置いて切り出す。



「……お風呂はきちんと入ってね?」


「……」



その瞬間、イズミは目を逸らしつつ口をVの字にするのであった。




※※※




サイゾウがイズミと出会って一年後。



「凄いな……手付かずの大自然って感じだね」


「うん! ここは私のお気に入りなんだよ?」



ある日の夕方、たまの休息なのかサイゾウはイズミに連れられ、付近を散策しているようだ。


訪れた場所は住家からさらに東。

まずは鬱蒼とした森が行く手を阻むが、土地勘を持つ彼女は慣れた感じで獣道を通り、一時間ほど歩くと広く開けた崖の上に到着。

その崖上から見える景色は、当面はやはり森ばかりなのだが、目線をさらに奥へ向けると広大な海が現れ、多くの者はそのコントラストに思わず嘆息してしまうだろう。



「……」



目の前にはお気に入りの景色……の筈なのだが、イズミの表情は浮かない。



「ねえ、サイゾウ君」


「ん?」



サイゾウを呼んだと同時に、彼女の目が幾ばくか泳ぐ。そこには強い覚悟が感じられる。



「サイゾウ君は……父上のことを知ってるんだよね?」


「うん……」


「父上ってどんな人だった……?」



サイゾウと出会って一年。実のところ、これまで彼からサスケの事については触れなかった。

父を亡くしたイズミの気持ちを察し、彼女の方から切り出してくるのを待っていたのだろう。

現にイズミ自身、彼が自分の父と友人関係であると知りつつも何も聞かず、気が付けば一年という歳月が流れているのだ。



「……」



サイゾウの面差しが大きく変化する。空気がピリリと張り詰め、強張ったような印象。

彼から『ついにこの時が来たか』という覚悟が感じられる。



「……いろんな意味で……強い人だったね。本当に凄い忍だった……今でもお手本だよ」


「そうなんだ」



少しばかり笑顔を見せるイズミ。

最初の発言から父を褒められ、少しだけ緊張がほぐれたようだ。



「豪快で、よく笑って、ちょっとうっかりしているところもあるけれど、本当に気持ちのいい人だった。他の皆からも好かれていたよ」


「うん……」



イズミに配慮しているのか、心地よい言葉を並べるサイゾウ。もっとも、淀みなく述べていることから本心なのだろう。

しかし肝心の彼女。見せていた笑顔が少しずつ強張り始め、膝に震えが見られる。

さらに拳を握り締め、下唇をぎゅっと噛んだ後、恐る恐るサイゾウに問い掛ける。



「……父上は……何があって……こんなことに……なったの?」


「!!」



『こんなこと』と言い換えるあたり、現実を否応なしに突きつけられる『死』という言葉を直接口に出来ないのだろう。

その気持ちが分かるサイゾウ。しかし、覚悟を決めたイズミに言わないという選択肢はなく、時を置かず経緯を話し出す。



「……今から五年くらい前かな。ほとけのざ町の北にある村に、妖怪たちの大規模な襲来があったんだ」


「……」


「ほとけのざ町からは番所や当時滞在していた忍はすべて、最も近いすずな町からも応援が駆けつけるくらいの大きな戦いになった」


「…………」


「妖怪は、西へ行けば行くほど気性が荒いものが多くて……小規模な小競り合いなら毎日のようにあったけど、それほど大規模な戦いはこの近年無かった」


「………………」


「僕も当時……今のイズミちゃんくらいの齢で借り出されて、比較的妖怪たちの少ない場所を任されてたんだ」



イズミは俯き、黙って聞いている様子。

サイゾウは時折彼女を一瞥しながら、言葉を選びつつ慎重に話しを進める。



「でも、妖怪たちも馬鹿じゃない。手薄と思われていた場所に、突如として大群が押し寄せて来たんだ。手練もそこそこ居たし、索敵も慎重に行われていた筈なんだけど、かなり高位の妖怪が術を使ったようで察知出来なかった」


「……」


「前線はたちまち崩壊したよ。死者も凄くて、後方に居た僕たち年少の忍も時間の問題と思われたけど……そこにサスケさんが現れたんだ」


「!! ……父上……が?」



サスケという単語で、俯き沈黙を保っていたイズミがようやく頭を上げる。



「そこからが凄かった。並居る大妖を蹴散らし時間を稼いで、年少の忍や民衆を逃がした……でも……」


「父上……う、ぐす……ひっく……」



サイゾウの『でも』から続く言葉……彼女からすれば想像に難くない。自然と雫が地面にポタポタと落ち始める。



「援軍が来た時には……もう遅かった。僕もすぐに掛け付けたけど……」


「う、うあああぁぁ……ああああ……」



むせび泣くイズミ。

たぬ右衛門から又聞きのような形で知った父の死。何処か現実的ではない、本当は何処かで生きていると微かな希望があったのかもしれない。

しかしサイゾウの言葉により父の死がより現実的に、より真実味を帯びてしまった。もう、受け止めざるを得ないのだ。



「イズミちゃん……ごめんね」


「……え?」



唐突な謝罪。驚きのためか、イズミは泣き止みサイゾウを注視する。



「自惚れてる訳じゃないけど、今の僕なら最悪の事態は免れたと思う。あの頃にもっと頑張っていたら、今ほどじゃなくても……サスケ……さん……を……」


「サイゾウ……君?」


「まも、守れた……あ、ああ……何で僕は……強……ぐな゛れ゛だ筈゛な゛の゛に゛……」



堰を切った涙腺。怒りを滲ませながら、顔をくしゃくしゃにして号泣するサイゾウ。

しかし過ぎた時間は戻らない。取り返せない。



「ぐっ……ううう……サスケ……さん…………え?」



膝から崩れ落ちる彼を、イズミが横から抱きしめ寄り添う。

顔を上げたサイゾウの間近で、雫を頬に伝わせるイズミが少しだけ笑みを浮かべ、真っ直ぐその目を見つめる。



「サイゾウ君にそれだけ尊敬される父上って、ほんとに凄かったんだね。誇りに思うよ」



本音としては、死して尊敬されるよりも、軽蔑されてでも生きていて欲しい……それが置き去りにされた者の心理だろう。

しかしイズミは言わない。サイゾウの気持ちを汲み取り、さらに責任の所在など最初から彼には無いという前提。



「今度は後悔しないように頑張ろうね。私はこれから後悔しないように……これから……も、頑張……るから……」


「……」



サイゾウは何も言わず、さらにイズミを抱き寄せる。

彼女を自身の胸に置き、優しく頭を撫でる。自身の身体をサイゾウに預け、俯いたまま彼女はかろうじて言葉を搾り出す。



「……今……だけは……泣いて……いい……?」


「うん……」

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