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第289話 達人の戦い

静寂。


達人と言われる者程、そしてそのような実力者同士の戦い程、決着は早いのかもしれない。

崇高にまで高めた技術、能力を極限まで研ぎ澄した至高とも言える攻撃は、僅かな隙や判断ミスで命取りとなるからだ。


今そこに倒れているのは……



「ふぅ……はぁ……」



フウカの、疲労を隠せない息遣い。

多量の汗をかき、時折それが目に入り片目を瞑ってしまう。


だが、彼女が倒れている訳ではない。



「馬鹿な……ハクフが……」



立ち上がり、僅かではあるがここへ来て初めて焦燥感の伺える面差しで言葉を吐露するスザク。

何故なら倒れているのはハクフ。仰向けになり、ピクリとも動かない。



「やった……のか?」



未だ信じられないのか、リュウシロウも半信半疑。

だが倒れているハクフ。胸の中心に、直径は小さいものの深い溝のような痕。確実に心臓に届いているような状態。フウカが何かしらの術、技で成したのだろう。

さらに半目を開けたまま動かず、呼吸はしているようだがまるで反応がない。つまり意識を失っているのである。

通常、心の臓に届くような攻撃であれば命に関わる。それでも呼吸をし、命を繋いでいるのは悪魔の力の影響と断定しても差し支えは無いだろう。



「……どうぢゃ? 儂……やるぢゃろ?」



リュウシロウたちの居る方向に振り向き、ウインクをしながら勝利宣言。ここで皆が湧く。



「やったぁ! フウカ凄いじゃん!!」

「いやはや……と、とんでもないお人だよ」

「て、てかさぁ、何が起きたのかさっぱりなんだけど……?」



大喜びのスズメ、そして納得した素振りのカケス。だがユヅキはこの戦いで何が起こったのか把握出来ていないようだ。



「お、俺も分からねえ。カケス、説明出来るか?」


「俺もかろうじて分かったって感じですけど……なんとか」



この中で、何とか戦いの流れが見えたカケスが説明をする。


フウカが印を結んだと同時にハクフが強襲。四つ足で踏みしめた地面が大きく抉れるような踏み込み。

たちまちフウカの間近に迫るが、彼女はまだこの時点で動いていない。ハクフは手刀を突こうとするが、彼女は先読みし頭部だけを左にズラす。

だがハクフ、それをさらに先読みし狙いを定めて突きを放つ……のだが、突きの方向がフウカの頭部に定まる前に何故かその突きだけが加速。

突きは彼女の首皮一枚を掠めて逸れ、勢い余り体が僅かに泳いだその隙を狙い、右手で何かを掴んでいるような素振りで、ハクフの胸の中心に打撃と思わしき攻撃を当てた。


このような説明がなされた。



「言われてもよく分からねえ……」

「な、なんか難しい戦いしてるなぁ……」

「ほんの一瞬でそれ全部やってたの? 凄いねフウカちゃん……」



リュウシロウはポカン。スズメもちんぷんかんぷん。ユヅキも感心しきっている様子。



「俺が見た限り……ですけどね。だけど、何故ハクフの狙いが定まって無かったのか……凄い加速だったのに……」


「儂の仕業ぢゃよ」



カケスは見えていたものの、ハクフの行動が分からないようだ。しかしその答えは当の本人からなされる。



「突きの軌道の途中に、風玉を置いただけぢゃ」


「いや、しかし……それなら加速どころか減速するんじゃないですか? それに、ハクフの攻撃を風玉で止められるとは思えない……」


「誰も止めとらん。風玉を突きの方向に回転させて、ハクフの腕に乗っけたんぢゃ。そんで寄って来たところを秘技、衝風波動掌でどかん! これでもう()()()()()()ぢゃ!」



全員『はぁ?』といった様子。



「じ、じゃあアレか。あのヤベー攻撃を狙って風玉に掠めさせた上に、ピンポイントで心臓目掛けてぶちかましたのかよ……」


「狙わんとそんなもん無理ぢゃろ。ふふふ……儂の実力思い知ったか!」



唖然とする一同。これがトムの師であり、フウマの妹であり、華武羅番衆の一人なのである。



(恐れ入ったぜ……ここまで異次元に強ぇとは。あのハクフを瞬殺とか、さすがはあのトムを育てたことはあるぜ)



リュウシロウも脱帽のようだ。

フウカは皆に背を向け、腕を組みつつハクフの様子を確認している。その姿はまさに強者の佇まいである……


ように見えた。



(……紙一重ぢゃの。あの獣娘の攻撃……ほとんど見えんかった。経験則で誤魔化せたが、長丁場となれば勝てんかったろう……東国では無敵と自負しておったがまだまだ……修行をやり直さんといかん……)



内心では、かろうじての勝利だとするフウカ。たしかに戦いが終わった後、強く疲労をしていたのは先程のとおりだ。

もし何らかのミスが僅かにもあった場合、喉元を切り裂かれ地に伏せていたのは彼女だったのだろう。実はギリギリの戦いだったのである。


しかし、この場でそんな実情を見抜いている者が居る。



(……際どい勝負だったが、流れが味方したか……)



スザクだ。

実は、非常に際どい戦いであったことを理解している。



(実力を出し切ればハクフの勝ちは揺るがんだろうが……これが結果、仕方あるまい。それにしてもあ奴ら……なんとおめでたい連中だ)


「ククク……」



結果は五連敗。

ごぎょう側の完敗でこの勝負は終わったのだが、どういう訳かスザクの意味深な笑い。何かを企んでいるのは間違いない。


それに、現時点でスザクと……そして、兵に紛れていると思われる七魔連がまだ残っているのである。

しかもリュウシロウ陣営に戦える者はほとんど残っていない。強いて言うならフウカだが、彼女もかなり消耗している。


そして、未だ援軍が来る様子はない。ごぎょう最強の敵であるスザクを残す以上、今もなお窮地であるには変わりないのだ。


現に……



パチパチパチ



「……? スザク……!」



拍手をしながらリュウシロウ達に近寄るスザク。いまだ余裕の面差しだ。



「おめでとう。まさかこちらの五連敗だとはな。思わぬ援軍……雑魚と考えたが、なかなかどうして……ククククク」



リュウシロウ一同を軽く一瞥する彼。そう言いつつも、皆を軽視している表情であることから、その言葉がまるで本心でないのは明白。



「……さあ、お望み通り出て来てやったぞ? 私の首を所望なのだろう? 遠慮なく持って行くがいい。……ただし……」





「出来るものならな」



一陣の風が吹く。

しかしそれは自然のものではなく、スザクが一呼吸置いた際に、彼に向かって吹いたもの。

ごく僅かな静寂の後、とてつもない勢いでスザクの身体から漆黒の気が立ち上がる。



「……な、なんと……」

「め、めちゃくちゃな気勢……じゃんかぁ……」

「これが……ごぎょうの主の……力か……」

「ふざけた気の量ね……」



皆が身構える。

だが既に傷だらけに加え疲労が蓄積している四人に、戦う力があるのかどうかは疑問である。

だが全員リュウシロウの前に立ち、戦う姿勢を崩さない。



「……クク」



だがスザク、ここで発した気を消し僅かに笑う。



「内に残る気、そしてその表情で明白だ。貴様らでは私には勝てん。そもそもからして、貴様ら全員が五体満足であったとしても、私一人には勝てんのだ。他の者を倒せる実力があったとしてもな。


……悪いことは言わん。リュウシロウを直ちに引き渡せ。……そうだな、貴様らは援軍とやらに伝えろ。『ごぎょうのスザクと戦うのは無謀」だとな……ハハハハ!!」


「……?」



余裕に余裕を被せているつもりなのか、リュウシロウを引き渡せば皆を見逃すという言葉。だがその態度に違和感。



(……間違いねえ。コイツ……)



そんなスザクに、リュウシロウが何かを確信したその時だった。



「ぐが!?」



最後尾に居る彼の首を、腕で絞める者……



「……フフフ、隙だらけじゃあ~りませんか……リュウシロウ君……」


「お、お前!? タメノスケ!?」

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