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第287話 束の間の幸せ

右腕が発光する。

巨大、それでいて無骨な金属質の鉄甲が発光源となり、眩い程に白く輝く。

そこから感じられるとてつもない気勢。否応なしにゲンゾウは警戒する。



《はん! 何をしようとしてんのかは……知らねーが、俺の城は絶対に崩せねぇんだよ!》



だが、自身の術に絶対的な信頼を置いているのか、その警戒心を誇りと自尊心で塗り潰す。



《……何発でも撃って来な!! 全部弾き返してやるからよぉ!!!》


「その必要は……ありません」



異様な雰囲気を漂わすアメリアの攻撃全てを、弾き返すと宣言。だが彼女から思わぬ言葉。



「一発……私がこの拳を振るえるのは、たったの一回だけです」


《……は、はぁ?》



なんと、一度しか攻撃が出来ないと自ら宣告。

あまりに意外な言葉だったのか、ゲンゾウも飲み込むのに暫く時間が掛かったようだ。



《マジで頭おかしいんじゃねーのか? たった一発で、俺の岩城(がんじょう)を崩せる訳がねーだろ。くだらねえ妄想もたいがいにしやがれ!!》


「どう思って下さっても結構です。事実、私は一度しか拳を振るえません。貴方がそれに耐えれば私の負けとなります」



拳に力を伴わせるだけで疲労してしまうのか、巨大な手甲が輝きを強める度に彼女の生命力が下がるような印象。



《ケッ! ……まあいいぜ。そのくだらねえ妄想に付き合った後……死ぬまで嬲ってやるよ……》



現在アメリアは力を溜めている最中。この時点で襲い掛かれば、難なくゲンゾウは勝てるのかもしれない。

だが彼の性格上それはしないだろう。完全に彼女を上回ったことをアメリア自身に認識させ、その上で痛め付けようとしている……そう考える方が、ゲンゾウという人物の自然な選択だ。



「はぁー…………はぁー……」



生気が拳に吸い取られているような気の流れ。

アメリア自身苦痛の面差しをしていることから、何らかの影響があるのは間違いない。



「アレで……ぶん殴るつもりか……? たしかにゲンゾウのサイズに見合った拳だけどよ、結局すぐ再生しちまうから意味がねえんじゃ……」


「……たしかにそうぢゃの……最早大きな拳で殴れば良いという話ではない。それに、元よりあの拳とてゲンゾウの術を穿てるかすらも分からん……凄まじい気を宿しとるようぢゃが、それでも……」



リュウシロウとフウカの見解では、例え巨大な拳で強大な力をぶつけたとしても、ゲンゾウの術は破壊出来ないようだ。



「じゃあ応援だよぉ!! 二人で()()巻いてないで声出せぇ!!」


「く、くだ……」



ここでスズメが割り込む。解析、分析が苦手そうな彼女。余計なことは考えず、ただ素直にアメリアを応援する。糸目になるリュウシロウ。



「だね。もうここまで来たら、アメリアさんの火力を信じるしかない」


「そうそう! リュウシロウ君もフウカちゃんも、そんなことやってないで応援応援!」



カケスもユヅキも、ただアメリアを信じるのみ。

リュウシロウもフウカも、少し困ったような笑顔になりつつ顔を見合わせ、彼女に檄を入れる。


疲労困憊のアメリアだが、その声が聞こえたのか少しだけ笑み。



(後ろからの応援の声……なんと心地いい……)



そう思った瞬間であった。



ズッ――――――――!!



「!?」



右拳に、手甲に、凄まじい勢いで気が流れる。これではアメリア自身が倒れてしまう恐れがあると考えられるが、疲労は明らかに増しているも気力充実といった面差し。


その様子を見ていたスザクが、青ざめた表情で立ち上がる。



「防……いや、避けろゲンゾォォォォ――――――――!!!!!!!」



その言葉にゲンゾウが反応をしようとする。

だが、いつでも余裕の素振りであったスザクが、剣幕を変えて指示を出したことに何やら疑問を抱いた様子。


そして、その疑問を抱いた僅かな時間が致命的となった。



「もう……遅いです!!!」



思い切り左足を前に踏み出し、渾身の力を込めてその巨大な手甲を突き出すアメリア。



「……受けなさい!!! 現人神を守護せし戦乙女の一撃!!!!!」





―ニーベルングの鉄拳!!!!―





《へ?》



それは一筋の光。

聖属性にさほど知見のないゲンゾウは、一体何が起きたのかが分からない。


ただ、起こった出来事はあまりに衝撃的なものだった。


アメリアの突き出した拳から、美しい直線を描く光が照らされる。

強力な攻撃においては、その余波で地面が捲り上がる、また木々をなぎ倒すなどが起こるのだが、今回に限ってそれらは起こらない。

何故なら、自身が消え去った衝撃を地面にも木々にも与えない。光はまるで、進む先に障害物など無かったかのように素通りの様相を示すのだが、光が通過した後には何も残らない。

抉られた地面は美しい弧を描き、光が触れた木々はその触れた部分がこれまた美しく削られている。その際地面も木々も、衝撃があったような印象はない。木の葉が揺れるが、それは自然に吹いた風のもの。


しかし、それらが通過した後で訪れる時間差の衝撃波が轟音と共に、今度は光が触れていない周囲の地面を捲り上げ、木々をなぎ倒す。

極太の光線模様の攻撃は、目前にある何かをありったけ消し去ったのである。


そんな、何ものの存在も許さないような攻撃だが……?



《……》



ゲンゾウの黒曜石模様の城だけは、焼けたような状態を示し白煙を上げつつも全身を残す。

その状況を見ていたその場に居る者全てが、一言も声を発することが出来ない。



「……はぁ、はぁ……」



聞こえるのはアメリアの息切れ。

まもなくその巨大な手甲も、朽ち果てた翼も、破損した鎧も消失。元の状態に戻る彼女。



「さすがですね……ゲンゾウ様。まさか……姿形を残しているなんて……ですが……」



そして、今にも倒れそうな足取りではあるが踵を返し、その場から去ろうとする。ということは?



「……この度は……私の勝利です。良い戦いでした」



その言葉と同時にゲンゾウの石王砂塵ノ岩城・廻は、吹いた風と共にサラサラとその姿を霧散していく。やがて自重に耐えられなくなったのか、足元から漆黒の粉塵を現しつつ砂の山へと変貌。

その山の頂点から真上に突き出すような手。ゲンゾウのものだろう。僅かにも動かない。悪魔の回復力、再生力を上回ったのだと考えられる。



「や……やりやがったぁぁぁ!! うおおおおお!!!」



リュウシロウの咆哮。

彼にも考えはこれまでの通り。そして比較的冷静な素振りをしていた。しかし、ひどく不安だったというのが本音なのだろう。


もう真っ直ぐに歩けないアメリアに、皆が駆け寄る。他の者も同じような疲労、ダメージがあるにも関わらず、一時それを忘れたかのようだ。それほどの大金星であると言えるだろう。



「ほんとに……本当にようやったのう!」

「何なんだアレ!? めちゃくちゃ凄い攻撃じゃん!!」

「震えましたよアメリアさん!!」

「やったねアメリアちゃん♪ ほらリュウシロウ君、約束のチュー……」



『お前が勝手に約束したんだろ!』という顔をするリュウシロウだが、今は笑顔で彼女を迎える。



「ありがとう……ございます。皆様の声、聞こえていました……」



ダメージと疲労か、著しく消耗しているアメリア。

だが今、皆と言葉を交わす彼女の端麗さは何ら損なわれていない。否、戦いの勝利によりますます輝いて見える。


そして、自陣で腰を下ろすアメリアなのだが……



「ちょっとリュウシロウ君、アメリアちゃんを地べたに座らせる気?」


「は、はあ?」



ユヅキの指摘に、『タメノスケとエレンとアクセルは地べただろうが』と思うリュウシロウ。だが言わない。



「す、すみませんリュウシロウ様! ……このままだと仰向けに倒れそうですので……その、さ、支えていただいても……よろしいでしょうか?」


「ん? へ? お、おう」



顔を真っ赤にするアメリア。目が左右に泳ぐ彼だが、自身も座り込み彼女の身体を支える。



「……」


「……っ!」



思わずリュウシロウを見つめるアメリア。もちろんリュウシロウは逸らす。



「リュウシロウ様……ありがとうございます。……貴方が居なければ……私は……私は……」


「い、いいってことよ。つーか、変わったのはお前が……その、頑張ったからだろ? これまで信じて来た人生を否定されるとか……普通なら絶対認めねえぜ。ましてやお前の境遇なら余計だ。


だけどよ……それをきちんと受け止めた。変わろうとした……そんで変わった……言うだけなら楽だが、それがどれだけ難しいことかって俺は知ってる。俺も……ここに居る皆のおかげで変われたんだからな……だから、その……」



彼も少し照れくさいのか、少し言い淀む。と言うより、アメリアがあまりに真っ直ぐ見つめてくるのが恥ずかしいようだ。

だがこれは、絶対彼女に言わなければならないこと。



「……ありがとよ……アメリア……」


「!!」



リュウシロウも赤くなり、頭をぽりぽりと掻く。

アメリアはうっすらと涙を浮かべ、まるで幻想の世界に居るような面差し。



(ああ……私がこんなに幸せでいいのでしょうか……? これからは虚像の神じゃない……リュウシロウ様……貴方を信じます……)



出血や傷はあるものの、傍目から見て火照ったような顔を見せる彼女。それをジロジロと眺めながらユヅキがニヤニヤしている。


何かと仰々しいアメリア。

今も何故か目を瞑り、両手を組み、そのままリュウシロウの間近に居るのだが、その絵面はどう見てもキスをせがむ年頃の乙女にしか見えない。


よって彼は首をあらゆる角度に振り、視線を泳がしているのであった。

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