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第275話 そこにあった悲劇

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「ただただ力を求める……拙僧は、そのようなスザク様に心酔した。自明のことだ……力さえあれば望むものが手に入る、望む何かを全て可能とするのだからな。人間を捨てる……これに迷いがあったが拙僧は決断した。一揆を殲滅し、西国を滅亡させられるのであれば、もう人間である必要はない」


「馬鹿な……」


「そしてこれよりは、純粋な東国人……その中でも強者だけが世を作り上げていくのだ! さすれば……もう悲し……いや、やめておこう」



ミサゴ……否、テッシュウは少しばかり過去を語ったようだ。ツミという名前だけは隠しながら。

だが、カケスは知っている。この中に居る者の中では、比較的テッシュウではなくミサゴという男を知っているのだ。



「ミ……いや、テッシュウさん。もしかして西国を憎むのは……以前お会いした時に一緒に居た女性が関係して……」


「……!」



カケスが全てを言い切る前に、テッシュウが襲い掛かる!



「それ以上はやめんかぁぁぁ――――――――!!」



―鉄錬拳!!―



コジロウのように両腕だけを悪魔化、さらに忍術で強化し殴り掛かる。



(!? 鉄球じゃない……!? 回復に力を費やしたか? となると、やはり負傷程度は大きい!! それなら……)



―空炎活!!―



術と同時に周囲が炎に包まれる。テッシュウの攻撃は、印を出した際の腕で上手くガード。そのまま格闘戦にもつれ込む。



「……ぬうりゃあああああああああ!!!!」


「はぁぁぁぁぁ――――――――!!」



夥しい数の拳が舞う。

攻撃中、テッシュウはまだ回復しきれていない顔面で不敵に笑う。



「ハハハ! 慎重ではないか! 悪魔の回復力を恐れたか!」


「そのとおりですよ! だからむしろ……少しずつ削らせてもらう!!」



周囲の炎がさらに強まる。周辺に居る雑兵は、たまらず大きく距離を取る。

火中で戦い続ける二人。ここでカケスは思う。



(強い……以前会った時は、一般的な金忍術の使い手という印象しかなかった。何がこうも貴方を……さっき俺が言い掛けた話と関係がある筈だ。そして異形という文言……もしかしてその女性は……)



テッシュウの力の根源を探る。

だが、既に概ね気付いている者がこの中に居た。



「……大体……今の話で見当が付いたぜ」



無論、リュウシロウだ。

だが、アメリアも思うところがあるようだ。



「リュウシロウ様の見解とは異なるのかもしれませんが……もしや異形というのは……アンナ=メリアから飛来した……」


「悪魔だな。俺もそう思ってる。だが、そいつらはムリョウたちや妖怪たちが必死になって殲滅してくれてた筈なんだよな。人間に気付かれないように……」



ここで彼はグッと唇を噛み締める。



「だが全部が全部、人間に気付かれないよう処理出来た訳じゃなかったんだよ。中には……出会っちまったヤツも居て……そいつは……」



それ以上は言葉が詰まってしまう。



「それを西国の仕業として憎むようになった……そういうことぢゃの。なんという悲劇か……」



フウカが、テッシュウの憎しみの根幹を口にする。

そして、一揆と西国の関係は最悪であるにも関わらず西国に仕掛けないどころか、民衆を慮り旅行者を受け入れているという半端な姿勢であることが、彼の一揆を憎む根幹となるのだろう。



「町に現れでもすれば騒がれるのでしょうが、旅人や数人が見掛けた程度では……」


「無理だろうな。妖怪と片付けられるのが関の山だ。『運が悪かった』……それだけでおしまいだろうよ……」


「……」



試験運用の悪魔は白丸が破り、西国はその後警戒したとのことだが、時期を見計らい悪魔を東国へ送り続けていたのはこれまでのとおりである。

そこについて、アメリアは思うところがあるのだろう。



「これも……私が見て見ぬ振りをした結果なのですね……私が……私がお父様を止めてさえいれば……!!」


「……」



悔しげな表情。だがリュウシロウ、そんな彼女を少し優しい目で見つめている。何かを考えているようだ。


一方でカケスとテッシュウ。

至近距離で拳と蹴りの応酬。お互いにダメージを受けているようだ。



「は、はあ……はあ……」


「……ふう……」



見た感じの印象は、どちらかと言うとテッシュウの方が消耗しているようだ。空炎活の影響が出ていると言えるだろう。

一方でカケスはこの術が自身を回復しているのか、それほど疲れた様子を見せていない。この術にそのような効果があるのだろうか?



「ふん……術で利を得て勝ったつもりか? 悪魔の力はこの程度ではないぞ!!」


「……ふう、分かってますよ。空炎活で貴方の力を削ぐのは難しそうだが、回復を止める程度には役立っている……今はそれで十分です」



じっとりと汗をかき、再び構えるカケス。

テッシュウを見据え、一挙一動を見逃さない。



「せぇぇぇやぁぁぁ――――――――!!」



そして、またしてもテッシュウから仕掛ける。

無数の連打を浴びせようとするのだが、カケスはしっかりと見ているようだ。攻撃の多くを弾き、織り交ぜられる強力な攻撃は回避するというスタンス。


だが彼の真骨頂はそれではない。



「むう……カケスめ、いぶし銀の戦いをするのう……」


「うんうん! さっすがカケス!」



フウカ、ぽろりと言葉がまろび出る。スズメも反応する辺り、その意味を分かっているようだ。



「どういうことだ?」


「カケスの防御、それ自体が攻撃になっておる。受けの瞬間、僅かな隙間を使って打撃を放っとるんぢゃよ。しかも気を纏った立派な攻撃……テッシュウの腕が持たんぞ」



戦いそのものは分からないリュウシロウの疑問にフウカが答える。

その言葉のとおり、徐々にテッシュウの顔が歪み始める。



「ぐ……小癪な……」



ついに攻撃の手が緩まる。もちろんカケスはそれを見逃さない。



「破ぁ!!」


「ぬう!?」



今度は拳に炎を纏わせたカケスが連打。

もっともただの連打ではない。手の形を多く作り、さらには攻撃を途中で止めたり緩急を付け、当てたい攻撃を確実に当てていく。



「ぐ!? がはっ!?」



当たる場所の多くは急所。悪魔の力があるとは言え、体の形状は人間である為急所は変わらない。よって、地味な印象が見受けられるが着実にダメージを蓄積していくテッシュウ。

しかも、彼を底なし沼に嵌めるのはそれだけでなかった。



(まずい……ここまで的確に当ててくるとは……それに……回復をしようにも空炎活が邪魔立てを……! この構図を見越しておったか!!)



打撃だけでは悪魔を穿てない。

よってカケスは、攻撃の術でテッシュウを迎撃するのではなく、その後を見越して自身に有利な場を作る方を優先したのである。


カケスは思う。



(悪魔の力……確かに恐ろしいものだ。だけど、あの時の能面に比べれば……能面の力に比べればそこまで脅威じゃない……)



かつて、不動の能面ゴクザに操られていたことを思い出しているのだろう。



(何も出来なかった……戦うどころか、抗うことさえ……その所為で、スズメを泣かせてしまったな……)



何も出来ず、意識のある中、能面の思惑通りに動いていた自分を情けなく思っているのだ。



(……本当はリュウシロウさんたちに付いて行きたかったけど……あの時の俺が居ても、足を引っ張るだけだ)


(だから……あの後に死ぬような思いをして修行を重ねた。……一緒に付いて来てくれたスズメには感謝しているよ……)


(今なら……力になれると思ってる。でも思っているだけじゃダメだ! 結果をここで示さないと! 集落も、鵲も救ったリュウシロウさんの恩義に報いる為にも!!!)



カケス、ここでこれまでにない必死さの見える面差し。



「テッシュウ……思い通りにはさせない。貴方は東国を想っているわけじゃない……その心は、私利私欲にまみれたただの独りよがりであることを知れ!!」


「……く……生意気な!!!!」



啖呵を切り、盛大に炎を上げる彼。

テッシュウもそれに応じたのか、黒い気を膨大に示す。


決着の時は近い。

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