第24話 重要参考人
「何だありゃ?」
「何か物々しいな……」
「タクサン人が居ますネー」
「ぽぽん」
宿を求めて茶屋に向かった筈の一行は、どういう経緯か茂みに潜んで茶屋らしき建物を伺う。
そこには、どのように見ても一般人ではない武装した忍らしき者が十人ほど待機しており、どうにも行きづらい雰囲気だ。
そこへ、待機する者たちと似たような格好をしている人物が、リーダー格と思われる人物に接触する。
「本日も異常なしです!!」
「そうか、今日も収穫は無し……か」
報告を受けたリーダー、若しくは上席者と思わしき人物。
赤黒い髪、鋭く細い眼に黒い瞳、全身は褐色と黒でまとめられた忍服に腕章を付け、重装備感のある出で立ちだ。身長が目測で六尺を越える高身長、そしていわゆるいかつい感じで、一癖も二癖もありそうな印象である。
「これで三日……手掛かり無しか……」
「ゴウダイ様!」
「どうした?」
「なずな町へ聞き込みを行ったところ、気になる情報がございまして……」
いろいろと情報が欲しいイズミ一行。つい聞き耳を立ててしまう。
気が付けば、個別で任務を受けていたであろう者たちも帰還したようで、その場には二十人以上の忍が集まっている。
「言ってみろ」
「は! 昨日の深夜、すずしろ町方面への街道の途上で、大きな爆発音があったようで……」
「!!」
「それで町人が言うには爆発がした暫くの後、その方向から二人の男女がなずな町へ侵入したとのことです」
何となく身に覚えのある出来事。
「おい……」
糸目でイズミとトムに目配せをするリュウシロウ。
「状況からして、お前らじゃねえの……?」
「……」
「……」
イズミは目を点にしながら口をVの字にし、トムは鳴らない口笛を吹き出す。
「……クソやべえ……」
焦るリュウシロウ。この連中の目的は分からないが、関わりがあると判断され面倒事になる可能性が高い。
ゴウダイと呼ばれた男性は、手を顎に当て考える素振りを見せる。
「よし、その連中を重要参考人として取り扱う。今回の目的を参考人の発見、確保に切り替える」
「は!!」
「……しかし二人組の男女など、それこそその辺りの夫婦まで該当する。何か特徴はないか?」
「それでしたら問題ありません。男女共に非常に特徴的でして……」
「??」
「一人は西国人です。聞き込みによると、ゴウダイ様と同程度の身長で、一般的な金髪碧眼との事です。この辺りはまだ西国人が少ないので発見は容易かと」
トム真っ青。
「もう一人は……その……」
「む?」
「相当傷付いていたようですがそれはそれは美しい少女らしく、町人がこぞって『比類なし』と口を揃えていることから、一目で判断出来るものかと。あ、それと子だぬきも連れていたようです」
イズミ、アウト。
「……と、特徴という部分ではそれ以上無いな……分かった。では手筈通りに頼む」
「は!!」
一同沈黙。
間を置かず、リュウシロウが頭を抱えだす。
「終わった……」
「ま、まあ何だリュウシロウ。何とかなるって!」
「そ、ソ、そうデスヨ! 話せばオカヒジキですヨ!」
「だ――――!! 話せばワカメって言いたいんだろ!! 遠すぎるわ!! そもそもオカヒジキは海草ですらねえよ!! 『オカ』って書いてあんだろ!! んで『話せば分かる』だっての!! ボケの変化が魔球過ぎて捕り辛いわ!! ……あ」
「あ」
「ア」
ぶち切れた彼。その声量を自覚した頃には元の木阿弥。
「何者!?」
「ギャース!!」
大泣きでその場を離れようとするリュウシロウだが、当然彼の足では逃げられない。
それどころか狙い撃ちをされてしまうかもしれず、イズミは黙ってリュウシロウの足を握り動きを封じ込める。
「仕方ないな……」
「デスネ……」
「やめろ! 離せ!! 俺だけ逃げるんだよおおお!! ……ん? あの腕章……」
何かに気付いた往生際の悪いリュウシロウは放っておき、立ち上がり姿を見せるイズミとトム。
ゴウダイは細い眼を見開く。
「な!? ……貴様ら…………お、うおお……」
「?」
いきなり登場したイズミ一行を間近に見たゴウダイ。彼女を見て言葉を失う。
「う、美し……あ、い、いや! き、貴様ら……まさに特徴の通りじゃないか……言った傍から現れるとは何とも都合のいい……」
「すまない。聞き耳を立てていた」
「怪シイ者ではゴザイまセーン」
うっかり余計な一言を発しそうになったものの、一応は我慢した様子のゴウダイ。
なお『お前が一番怪しいんだよ!!!!!』と、リュウシロウが目で訴えているが無視するトム。
「捕えろ」
「ま、待て!!」
「話を聞イテ下サーイ!」
「おま……捕えろって、参考人じゃないのかよ! 任意だろ任……あ、待てよ……」
しかしゴウダイは、イズミたちの話を聞く気は無いようだ。即座に捕えるよう周囲に指示する。リュウシロウはまたしても何かを閃く。
時を置かずして、彼女たちは忍らしき者たちに囲まれた。
「参ったな……」
「とんだ回り道デスヨ」
イズミとトムはやれやれと言った様子。
「力ずくで突破するかな」
「オー、いいデスネ。いつデモ……」
二人が戦闘準備に入り掛けたその時、リュウシロウがパチパチと瞬きをする。アイコンタクトだ。
ー黙って従えー
「ん? 何でだ?」
ーいいから。後で説明するー
「……わ、分かった」
イズミは、素直にリュウシロウに従う。
トムはやや不満そうだが、彼女を見るとニヤリと笑いつつ視線をリュウシロウに移すので、釣られて見てみると……
「オ、おおぅ……ココに新たな妖怪ガ……」
油すましも真っ青のニタリ顔。トムどん引き。何か考えがあるようだ。
※※※
~茶屋の一室~
「やれやれだな」
「アノまま戦闘に入ってモ良かったノデスがね。ただ、あの赤黒い髪の方の実力ガ分からないのデ何とも言えないトコロもありマスけど」
結局、その場にあった茶屋の一室に一時軟禁という形になったようだ。現に襖の向こうには忍が数人配備されている様子で、時折報告や確認のやりとりが聞こえる。
「何言ってんだよ。こっちが従順だったからこそ軟禁で済んだんだぜ? で、協会の連中と一戦なんか交えてみろ、即座にお尋ね者だ」
「協会? なんだっけ……忍者雇用協会ってやつか?」
「あー……正確に言うとその上の組織になるかな」
「上? 協会が東国の仕事を牛耳っているんじゃないのか?」
「仕事に関してはな。実は忍者雇用協会ってのは下位組織で、その上に天津国忍一揆っつー大元の組織があるんだよ。んでアイツ腕章してたろ? あれはその辺の日銭稼ぎとか協会関係者じゃなくて、一揆に専従してるヤツ……つまり大元組織直属のお抱えだ」
三人と一匹は、六畳程度の部屋であるにも関わらず一畳に固まり、密談のように会話をしている。
「んで、当面はアイツらに従ってりゃいい。勝手に西へ連れてってくれるさ。折を見て、必要があれば逃げればいいだろ」
「どうしてソウ言い切れるんデス?」
「連中、西から来てるだろ。目的達成すりゃ西へ帰って当然じゃねえか。これで楽々快適が確約だ。最高だぜ」
イズミとトムが顔を見合わせる。よく理解出来ていないようだ。
「宿の確保が出来るってのは分かるが、そんな良い事尽くめか?」
「そうデスヨ。場合ニよっては野宿も考えラレタでしょうし、何かヒドイことをサレル可能性だってアリマス。捕まってカラでは、ナカナカ思うヨウニは行きませんヨ?」
「アイツらの仕事内容にもよるが、基本いいことしかねえな。宿については言うまでもねえけど、一応言っとく」
やはり顔を見合わせる二人。
「まず、アイツらだって野営なんてゴメンだろうし、一揆ってデカい組織からやって来てんだ。宿くらい融通効くだろ。
はこべら町までは、街道沿いに茶屋が点在してんだから利用していない訳がねえ。何せはこべらからは、ここまで四日掛かるんだからな。
んであの様子、そこそこ以上に重要な任務抱えてんだろ。武装した忍が二十人規模の時点でかなりキナ臭え。
となれば、体調管理は徹底しておかねえとな。山岳地帯とかならどうしようもねえけど、ここは街道で十分な宿がある訳で、使わねえのなら逆に理由を聞きたいぜ。
だからこの道中、寝泊まりする際は屋根付きは当たり前、畳の上でふかふかの布団は確定だ」
長い。
「で、でもボクたちが連中と同じように扱われる保障なんて……」
「ですデス」
突っ込みが入り、それに応えるようにリュウシロウは続ける。
「ゴウダイって言ったっけ? 立場からすると、あの連中の頭だろ。アイツは俺たちの事を『重要参考人』って言った。容疑者でも犯人でも罪人でもねえ、参考人だ。
頭がそう言ったんだ。そうそう手荒に扱えねえ。一揆は東国全体をまとめている立場だけあって、秩序はある程度重んじているだろうからな。下手な事すりゃ、世間に何吹聴されるか分かったもんじゃねえし。
もしならず者の集まりなら人気の無い街道、日没が近い、しかも人数で大幅に上回ってる時点で、すぐさま拷問か縛り上げるくらいするだろ。それがない時点で、一定の良識は備えてんだよ。
それに、今回はそこそこ以上に重要な任務をやってる訳だ。俺たちが情報源になるってんなら、喉から手が出るほど欲しいだろうよ。だから無茶な事は少なくとも道中はやって来ねえし、むしろ保護対象だ。
そんでこの宿泊はアイツらの判断だ。っつーことは俺たちに負担義務はねえ。だから宿泊代もタダ、メシもタダ、しかも道中は町まで護衛付き! これを楽々快適って言わず何て言うのかね君タチ!」
「……」
「……」
キレッキレのリュウシロウ。
二人は呆れを通り越して感心している模様。ぽん吉は、彼が通常運転で喜んでいるようだ。
「一体お前の頭の中はどうなっているんだ……」
「我輩たちトハ、見ている世界ガ違ウようデスネ……」
「ぽんぽん♪」




