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第23話 肉親

〜ごぎょう町 神社〜



はこべら町から、さらに西に位置するごぎょう町。東国の中で、最大規模となるすずな町に次ぐ規模の町である。

すずしろ、なずなと比較しても、町の端から端まで住居、商業地区、工場ときちんと区画整理がなされている。

建物も、一般家屋以外は二階建て以上が点在しており、大きな発展を遂げていると言えるだろう。


そんなごぎょう町においても、他の町と同じく外れに神社が設置されており、同敷地内には管理者所有のものと思われる広大な屋敷が建てられている。

その庭で、何者かが二人話し込んでいるようだ。



「で、逃した訳か」



一人は、身長はおおよそ六尺と東国人にしては高めで痩せ型、鋭い眼に赤い瞳に燃えるような深紅の髪を特徴としている男性。

もっとも、外見こそ熱さを感じるものの発する言葉に緩急がなく、むしろ極めて冷たい印象があると言っていいだろう。



「も、申し訳ありませんスザク様……」



もう一人は僧の見た目で、リュウシロウを襲った者たちに酷似している。スザクに対し(へりくだ)っているようで、力関係は彼の方が上と判断出来る。



ドゥ!!



「ぐあああ!」



スザクから突如炎の弾が放たれ、直撃した僧は吹き飛ばされる。



「あが……が……」



一撃で満身創痍の僧。息も絶え絶えだ。



「片付けろ」


「は!」



まもなく、何処から現れたのか倒れた僧と同じような見た目の者が複数現れる。倒れた僧をまるでゴミのような扱いで何処かへ連れて行った。



「……? ゲンゾウか」


「気付くの早いよ兄上」



現れたのは、スザクよりは低めの身長であるものの筋肉質で体躯が大きく、土色の髪と褐色の目で眼の大きい男性。

笑みを浮かべており、一見人当たりの良い印象があるが……



「優しいね兄上は。あんな役立たず燃やしちゃえばいいのに」


「兵には限りがあるのでな。あんなゴミでも的くらいには使えるだろう」



慈悲のない会話。口ぶりからすると兄弟と伺えるが、どのような環境で育てばこのような残酷さを持つことが出来るのか。



「そんで、リュウシロウは見つかったの?」


「……気付いていたか」


「あったり前だよ。兄上、ずっとせかせか動いてたしね」



ゲンゾウはスザクに近付き、少し声量を下げて話を続ける。



「一族の所業を知っている。だから始末する。……簡単な構図だね。でも誰も動いてなさそうで変に思ってたから、もしかして水面下で兄上が……ってね」


「だが、発見だけで二年も費やした。ヤツが吹聴していなければいいが、今のところ民衆に噂や動きは見られない。下手に動き回って発見されることを恐れたか、自分の身の安全を優先し潜んでいたようだ。……ヤツが臆病なのが幸いしたな」


「そんな勇気ないでしょ。だいじょぶだいじょぶ。一族きっての才能なしだし、もう時間の問題だね」


()()()()……か、ククク……」



物騒な話を繰り広げる二人。リュウシロウに追っ手を放ったのはスザク……これは確定事項だ。ゲンゾウの『才能なし』という言葉に対し、スザクは意味深な含み笑いをする。


さらに二人は会話を続ける。



「そう言えばハクフはどうした?」


「姉上? ああ、今すずな町まで買物に行ってるよ。あっちの方がオシャレな物いっぱい! ……なんだってさ」


「今すぐ連れ戻せ! 馬鹿が……よりにもよってすずな町だと? ……まあいい。何にせよ、今は魔術を広く普及する足がかりを得た重要な時期だ。我々の身内が下手な事をすれば、今後に影響してくるぞ」


「あ~……そうだね。姉上頭悪いからなぁ……分かった、行ってくるよ」



そう言うとゲンゾウは踵を返し、敷地外に向けて駆け出す。

彼の姿が見えなくなった頃、スザクは腕を組み目下の町並みを細目で眺める。



「忍術は、誰もが使える魔術の普及により自然と淘汰されるだろう。何せ、魔術さえ覚えてしまえば生活だけは可能なのだからな。忍術を持つのは我々だけでいいのだ。


まったく、西国の連中は素晴らしいものを我々に教えてくれたよ。東国中の金も思いのままだ……ふふふ。そしてゆくゆくは……」



不気味に笑いつつ彼は右掌を開き、五指にそれぞれ炎、水、雷、風、土を小さく渦巻かせる。



「その後は……そうだな。西国の要人の暗殺と言ったところか。忍術に劣る魔術では守り切れまい。白豚共は利用されているとも知らず……馬鹿な連中だ。ふふふ、ははははは!!」




※※※




〜街道〜




「ま、そんなこったで俺は命を狙われているって考えていいだろ」



これまでの事、兄姉たちの思惑などを、予想を交えて説明したリュウシロウ。

イズミは悲痛な面差しだ。



「そんな……肉親同士で殺し合いなんて、ありえる訳がない!!」



当の本人よりも傷付いているように見えたのか、リュウシロウはニヤリと笑いイズミを一瞥(いちべつ)する。



「ほんとお前って、父ちゃん母ちゃんに愛されて育ったんだな」


「……え?」


「でもよ、どの家庭もそうって訳じゃねえ。跡継ぎ、利権、派閥とか…あと単純に邪魔とかな。そんなもんが絡めば、人は親でも子でも容赦なくぶち殺す事もあるんだよ。必ず親子お互いに愛があるなんて幻想だ」



涼しげな表情で、何とも切ない発言をするリュウシロウ。しかも言葉にまるで迷いが無い。



「リュウ……シロウ……」


「何でお前がへこむんだよ。別に今更何も気にしちゃいねえって」



落ち込む部外者である筈のイズミを、どういう訳か当事者のリュウシロウが慰める。

しかし彼女は不安気なまま。そんな、親子の絆など最初から無いと容易く言ってのけるリュウシロウを、案じているのかもしれない。



「ぽん……」


「ぽん吉……はは、お前も心配してくれてんのか。飼い主によく似てんのな、お前って」



ぽん吉も、妙に明るく振る舞うリュウシロウを心配したのか、足元にやって来て擦り寄る。

そして彼はイズミに視線を送りつつ、笑顔で言う。



「だから今は結構幸せなんだぜ?」


「?」


「身内っつっても、血縁があるってだけじゃねえか。そんなもんなくても、こうやって……あの、その、なんだ……気にしてくれるっつーの? まあ、あれだ。な、仲間って呼べる連中が居るんだ。わ、悪くねえよ」


「リュウシロウ……!」



本心だろう。言葉こそあっけらかんとしているものの、高揚感のある口調。おまけに、この手のセリフは慣れていないのだろう。気恥ずかしさも感じられる。

何となく良い雰囲気になるが……



「ソオオオオオノ通りでぇぇぇぇ――――ス!! 持つべきものは友、仲間ナンデスよ!! いい事を言うジャないデスかリュウシロウサーン!! 我々の固い絆デアレバ、なんだって乗リ越エられマース!!」


「い、いや待てよ……俺とイズミはともかく、お前と出会ったのまだ二日前だろうがよ……」


「オー! ケツのホールのスモールなコトをトークしている場合ヂャありまセーン! 絆は日数デハないのですヨ!」


「いつもみたくもう少し西国語端折れよ!! 余計言い辛そうじゃねえかよ!! それと何でよりにもよってケツを西国語にしなかったんだよ!!」



トムがぶち壊す。もっとも、リュウシロウは悪い気分ではなさそうだ。


そんなこんなで和気藹々(あいあい)の一行。

雑談を主に、笑いがこだまする様子を事情を知らぬ者が見れば、旅と言うよりもピクニックかそれに近い印象を受けるだろう。


そんな時間を過ごしていればまもなく夕刻。

しかし、なずな町からはこべら町までは徒歩で五日も掛かるようで、そろそろ寝床を探さなくてはならない。



「もうこんな時間か……一日は早いもんだな」


「はぁ……はぁ……しんど……」



一日歩き続け、イズミやトムはともかくリュウシロウはひどく疲れた様子。



「だらしないぞリュウシロウ! それでも忍か!」


「ぽんぽん!!!」


「忍業は……はぁはぁ……開店休業状態だっつーの……はぁはぁ」



彼女だけでなく、ぽん吉からも突っ込まれる始末。

それでも最低限口は回る模様。



「その様子を見るト、ほんとにリュウシロウサンは戦えナイのデスネ」


「ずっと言ってるだろ……はぁ……自慢じゃねえけど、〇ンカス弱小一般人なんだって……」


「頼むから自慢にしないでくれ……ん? あれは……茶屋?」



リュウシロウが自虐をしていると、進行方向に建物が見えるようでイズミが反応した。



「おおお!! 茶屋はっけぇぇぇん!! 行くぜ野郎共!!」



ひどく疲れている筈のリュウシロウが、一目散に宿に向けて走り出す。

人間、ゴールが見えると元気になるのはどの世界でも変わらないのである。



「げ、ゲンキですねー。疲れてるノデハ?」


「こらリュウシロウ! ボクは野郎じゃないぞ!!」



そう言いつつ、一行は茶屋に向けて足早に進むのだが……

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