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第159話 ミナモVSショウジョウ

ミナモの視界に映るのは、ゴウダイよりも背丈が高く筋肉隆々の大男。

髪は短髪にしており、巨大な槌を背負っているのが印象的だ。

そして力忍術の使い手……これを知った彼女に笑みがこぼれる。余裕と判断したか。



(えっと、たしかショウジョウって奴だっけ? ……実は私、鵲のことほとんど知らないのよねー……フウマさんとゴウダイ君が対応してたし……スズメから力忍術を使うって言われてちょっと信じられなかったけど……マジじゃん。これならヨユーヨユー!)



そういう発想だからか、ミナモはほぼ無警戒でショウジョウの前に躍り出る。



「……」



そして彼女を一瞥し、向き合うような姿勢に変える。敵と認識したか。

だが他の鵲の面々と同じく、やはり生気のない目をしている。



「ふふふ! 私は華武羅番衆が一人、水のミナモ!! 集落に仇なす輩へ人誅を下しに参上よ!!!」



決まったと思ったのか、フフンと鼻を鳴らすミナモ。

ショウジョウはゆっくりと彼女に向けて歩き出す。



「すっとろいわねー! そんなんじゃ、私に近付くことさえも……ほえ?」



気が付けば、既に拳を振り上げているショウジョウが間近に。早速近付かれてしまっている。



―強空拳・鉄心―



バギィィィ――――!!!



「きゃああああああああ!?」



ゆっくりと近付いたと思いきや、突如速度を上げ近付き拳を振り下ろしたショウジョウ。

命中はしていないものの、傍にあった樹齢を重ねた木を簡単にへし折ってしまう。



「ふ、不意打ちとは汚いわね! ……でも、力忍術の一文字なんて敵じゃないわ! 二文字の力、水鞠忍術の力を思い知りなさい! 忍法!」



―攻の型 紅珠!!―



ミナモの手に、赤い水玉が纏われ放たれる。

しかしショウジョウ、その場から動かず全身に力と気を込める。



―力精剛鎧―



内面から気が溢れるような様子。自身の強化の術だ。そして、さらに拳に気を入れて背に掲げる槌を手に持つ。



―強空拳・崩潰―



向かって来る水の玉にめがけて、気を巡らせた槌を振り下ろす。

すると玉は瞬く間に弾けてしまい霧散。加えて、地面にまで攻撃が至りそこが破裂したかのような様相を示す。



「……ひっ!」



思わず小さな悲鳴を上げるミナモ。驚きや恐怖が垣間見えることから、いろいろと予想外だったのかもしれない。



(こ、こんな筈じゃ――――!!!)



少々涙目になりながら、ショウジョウの攻撃を回避する彼女。すでに追い詰められている側である。



「この……! 忍法!」



―攻の型 水牙(すいが)!!―



水を槍のようにした、数にして十程度の刺突攻撃。



ドスドスドスッ……



彼の下半身に命中するも、その傷は決して深くなくそのまま真っ直ぐ突き進んでくる。



「ふえ!? な、なんで!?」



二文字の水忍術であるにも関わらず、一文字の力忍術使いに対してそれほど大きな効果が見られない現実。

さらに一文字を素早く繰り出すも、当然その突進は止まらない。



―強空拳・鉄心―



「ひっ……!」



凄まじい風切り音。当たれば一撃で気持ちよくなれるだろう。

なんとか体さばきで回避するも、現状劣勢と言える状態だ。



(どうして!? ……コイツ、()()()()()()()……? 様子がおかしいって話だけど、それも込みってことかな……?)



よって、強化を施されているという結論に達したミナモ。

そうでなければ、力忍術に遅れを取るとは思えないという考えもあるのだろう。


その後も劣勢は続く。

ショウジョウの攻撃は基本的に術を使用してくる、また気を纏わせた槌での攻撃を術として放ってくるため、その威力は凄まじい。

爆撃音のような轟音がそこら中に鳴り響き、戦でも起こっているかのような様相を醸している。



(力忍術なんて、その辺の土木作業でしか使わないんじゃないの!? なんでこんなに戦闘特化してんのよ!!! イズミに聞いときゃ良かった……)



後悔も入り混じっているような、また恨み言のような心の声。

もっとも、それを思ったところでショウジョウの猛攻は止まらない。その体躯から、体力が有り余っていそうな印象だが、そこは見たままなのかもしれない。


そもそも彼は暮七人とまで呼ばれているわけで、二文字の使い手であるカケスやヒタキと同列に扱われているのである。極端に弱ければそこに名入りするわけもなく、同格とまでは言えないのかもしれないがそれ相応の戦闘力はあると考える方が自然だろう。



「はぁ、はぁ……」



やがて、ミナモの方に疲労が現れる。

回避は緊張の連続。攻撃の空振りもそうだが、どのみち疲れるには変わりないのだ。


そしてついに……



「あう!?」



足がもつれる。

バランスを崩し、倒れ掛かった彼女にショウジョウの槌が襲い掛かる。



―強空拳・崩潰―



「……う!? 忍法!」



―守の型 頑氷(がんひょう)!!―



即座に氷を身に纏う。見た目、全身が氷漬けという印象だが、中に居る彼女は腕を動かし無意識に防ごうとする仕草をする。動けることから、見た目とは異なり内部は特殊な状態のようだ。



ドガァァァァ!!!



術で生成された氷の多くは弾け飛ぶ。中のミナモの安否が気に掛かるが、土は寸前で止まっている。彼女は眼を大きくし、その面差しは恐怖を宿している。



「……あ、あ……」



危機一髪なのだが、色濃い恐怖により彼女の動きが緩慢化する。

それを逃すショウジョウではなかった。



バキィ!!!



「あう!!」



すかさず蹴りを腹部に入れる。彼女は横に飛び、地面を数回跳ねて倒れ込む。



(あ、あれ……?)



景色がボヤける。だが、本能かこれまでの鍛錬の成果か、虚ろな表情のまますぐに立ち上がる。



(私……こんなに弱かったっけ……?)



戦闘中であるにも関わらず、敵に視線を置くことなく考え事。朦朧としているのか、自身の力の無さを嘆く。




(なんでフウマさんの代わりが私なんだろ……? そもそも私、フウマさんよりずっと弱いし……それに、ゴウダイ君やトムさんとかめちゃくちゃ強いのに、あのメンバーで最強じゃないとか……もう訳分かんない。何よ三文字って……実在したんだ……)



何故自分がフウマの代わりなのか……それは彼女自身にも分かっていない。



(まともに戦えばハクフもゲンゾウもあっさり倒す二人に、スザクを倒したあの子……そこに入ってくとか荷が重いよ……何が番衆よ。とんだ雑魚じゃん……)



今や華武羅番衆という肩書きやその実力も、能面やごぎょうには到底通用しない。つまり、イズミたちに同行するには力不足であることが否めないのである。

実際彼女の術は、トムやゴウダイと比較しても大きく見劣りする。ゲンゾウの巨岩を巻き上げる風を起こせるトムに、あらゆる攻撃を防ぐ上に二文字の奥義すら発動前に潰せるゴウダイ……その差は歴然と言ってもいいだろう。



(あーあ……何時からこうなったのかなぁ? 私も一揆に入った理由って、ライトとさして変わんないのよね……たまたま小さい頃に忍術が使えたからその流れってだけ……)



この刹那で、昔を思い出している様子のミナモ。

自身に大した志がないことに気付き、少し自虐めいた言い回しをする。



(自分なりに一生懸命……いや、やってないわね。番衆入りしてからはみんなからの羨望の眼差しが気持ち良くって、意味も無く町の中ぷらぷらしてた気がするわ……なーにやってんだか……あ、そういえばその頃ね)



まどろみの中、昔話の中で何かを思い出した彼女。



(ゴウダイ君が番衆になったのって……)



つまり、ゴウダイは番衆という括りであればミナモの後輩に当たるということ。



(前から存在は知ってたけど、最初は気にして……ううん。はっきり言って小馬鹿にしてた。私より先に一揆入りしてんのに、ずっとうだつが上がらない奴だって……)



あの頃が走馬灯のように流れてくる。

今の彼女の表情はとても柔らかなものとなっている。少なくとも、戦闘中に見せるような顔ではないと言える。ほとんど意識がないのかもしれない。



(でも……いつの間にか……ていうか、気が付いたらぞっこんだったなー……)




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