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第129話 トムVSスザク③

『ありえない』、が本音だろう。

忍術を扱うものが、魔術をも扱いそれを融合する……これはスザクを初めとした、ごぎょうの者たちの研究により成せたものであり、何も知らない者が扱えるものではないのだ。



「な、何故だ!? どうして貴様が煉術を……!」


「それほど難しいことではありませんよ? 忍術と魔術を同時に発動、そして混ぜるだけの話です」


「ふざけるな!!!!! そんな簡単なものでは……ぐ……ぐぬ……」



大きく狼狽するスザク。怒り以外の感情を、ここまであからさまに示すのは初めてだ。



「……む……ぐ…………フ、フフフ……はははは!」


「?」



悔しげな面差しから、一転口角が釣り上がる。



「同時発動により少々取り乱したが……やってみるがいい! 貴様如きに習得出来るものではないのだ!」


「では、おっしゃる通りにさせてもらいましょう。さしずめ、風々煉術と言ったところですか……」



そう言うとトムは攻撃モーションに入る。



(ふん。そういえば白豚か。もとより魔術が使えるのも頷ける……が、バカめ! 煉術は術を掛け合わせるだけのものではない! 忍術と魔術をそれぞれ放つ間、術同士が相反せぬ安定さの維持、互いを増幅させる術の強弱の調整……いずれが欠けても成せぬのだ!)



ほくそ笑むスザク。そして自身も炎を身にする。攻撃が失敗した後、直ちに攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。しかし……!



―攻勢・エアリアル鎌鼬!!―



「な――――――――!?」



細かな無数の風の刃が、激しい横回転をしつつスザクへ向かう。通常鎌鼬は刃のみが遅い掛かることから「線」の攻撃となるのだが、この場合は「面」……つまり攻撃範囲の向上が見られる。

煉術を、忍術や魔術の上位と位置付けるのであれば、この攻撃は忍術寄りではあるものの間違いなく煉術としても差し支えは無いだろう。

現にスザク、喫驚と言える規模で驚いている。



「バカな……ぐぁ!!」



威力としては、一文字に魔術を被せたものであり、この戦いのレベルを考慮するとそれほどのものではないだろう。だが目の当たりにした事実により防御を忘れたのか、直撃してしまう。



「バカな……バカなバカなバカなバカなバカなぁぁぁ!! 何故だ!? 何故だぁぁぁぁ!!」


「……」



トムは何も言わない。

煉術の使用を、天賦の才と言い張る彼に突きつけられた過酷な現実。認めたくない、認められない。



「い、いや! その程度……オレの煉術に比べれば!!! 火々煉術真打ぃぃぃぃ!!」



―竜鳳紅蓮フォーティア!!―



再びあの術。朧嵐月を穿った、スザクの奥義。

するとトム、少しだけ両手を広げ気勢を上げる。



「……私の術ですから直接あなたとは関係ありませんが、どうせ倒すのであればせめてあなた方の言う煉術で……トドメを刺させていただきましょう」



―ヴォルテックス朧嵐月!!―



「………は?」



隕石のような様相を浮かべる巨大な風の塊が、大渦を纏い回転しながらスザクへ向かう。見た目の圧迫感だけでも、通常の朧嵐月の比ではない。

もちろんスザクの放った術の威力も凄まじい。暫くはせめぎ合い、互角の押し引きをしていたのだが……



「何故だ……何故だ!!!! 私の……煉術が……! 私の歴史が!!! 私の……私の……」



やがて、スザクの術はトムの術に飲み込まれる。

そのまま彼に向かい直進するのだが、スザクはそのプライド、また認めたくない気持ちが、回避行動を大幅に遅らせる。気付けば時すでに遅し。



「こんな……ものは……認めん! 違う! 煉術は……煉術はこの程度では……この……程度……こ……の……う……あ……うあああ!!!」





「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」





『ゴゴゴ』という音を鳴らし、ゆっくりと突き進む朧嵐月。

スザクは必死に抵抗をしていたのだが無力。そのまま地面を斜めにえぐり、彼ごと押し潰してしまう。



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



リュウシロウ一同、声も出ない。



「す……げえ……」



ボソリとルーク。己の傷も忘れて、トムの術に見入る。



「これが……真の忍術と魔術の融合か……トム……お主は本当に……」



トムのあまりの強さに、フウマも詰まりながらの発言だ。



「妾にも……あれほどの力があれば……」



白丸は悔しそうな面差し。自身の力の無さを憂う。



「魔術を使わねえ理由は大方()()()()だったぜ」



最後にリュウシロウ。



「スザクは強敵だ。それは認める。だから忍術だけでどうにかしようとしてたなら、たぶんトムは負けてた。でもよ、性格からしていくら死にそうになっても、そんで過去からしてトムは絶対魔術は使わなかったって思うんだよ。でも使った」



ここで彼は、今は勝利の余韻に浸れる場面であるに関わらず悲痛な面差し。



「それは自分のためのような言い方をしてたけどよ……俺の、俺たちのためだったんじゃねえかな……? 負けちまえば俺たちも終わりだ。だから魔術を使わねえって信念を曲げて、自分の手で終わらせようとしたんじゃねえかな?」


「…………」

「…………」

「…………」



皆沈黙する。

リュウシロウは握り拳を作り、目を瞑る。



「すまねえ……トム……」


「それは違いマスよ、リュウシロウサン」



謝罪をする彼に、トムが声を掛ける。いつもの口調だ。



「我輩には新たな目的が出来ましタ。プレジデントという子どもを叱り付けるという目的デス。そのタメにはあらゆるモノを排除する必要がアリ、そのための力が必要になりマス。きっと、魔術ですら使わなければならないデショウ。今は、そのスタートを改めて切ったダケに過ぎないのです。……デスから、あくまでも我輩自身のタメなのですよ?」



最後にニカっと笑顔を見せるトム。



「……へへ、お前らしいや。悪ぃ、『すまねえ』とかじゃねえな、『ありがとよ』」


「ドウイタシマシテ! ではそろそろ……ム?」



話がまとまりを見せようとした時に、トムは違和感を抱く。

ジッと、スザクが倒れている方向を見ているようだ。



「……」



スザクは何やらぶつぶつとつぶやいているようだ。



「あの方もタフな方ですネ……全身全霊を込めたのデスが、まだ意識を保ってマス。シカシ……」


「チッ! まだ生きてやがるのかよ!」



まだ警戒は怠れない。

皆はスザクを注意深く観察するのだが、何の予備動作もなく突然立ち上がる。



「た、立った……? いや、そもそも何故あの程度の負傷で済んでいるのだ!」



白丸が疑問を呈する。

確かに、強烈な攻撃を幾たび受けてもそれほど大きな負傷をしないスザク。



「……なら……負け……だが…………もう……」



皆の疑問など関せず、空を仰ぎまだ呟いている様子。

ここでトムが前に出る。



「スザクさん……勝負ありだと思いますが、まだ戦りますか?」


「何をしている! 早く殺せ!!!!!!」



白丸が煽るのだが、トムが今現在無防備なスザクに対して手が出せない性質を持つのは、彼女もある程度想像出来るところだろう。実際、この発言の後は不満そうではあるものの、それ以上何も言わない。



「もう……いい……負ける……くらい……なら……」


「?」



ずっと空を仰ぎ、ひたすら呟くスザク。まともな精神状態とは言いがたい。



「負けるくらいなら……負けるくらいなら……私のこれまでが水泡に帰すくらいなら……」



だが少しずつその瞳に光が戻る。いや、怨嗟の炎が灯ったと言い換えていいだろう。

するとスザク、背中から何かを取り出す。



「もう……構わん……」



ケンペースのような、不思議な光沢を放つ金属製の長い箱。

結界のような封がなされている上に、自身の気か何かか周囲がぼんやりと輝いており、極めて厳重に保管されているような印象だ。

これまでの戦いで無傷であることから、物理や術に対しても極めて高い耐久力があることが伺える。



「あれ……は……?」



トムが不思議に観察していると、スザクはその箱の封を開け中身を取り出す。手にしたのは太い針が数本付属している注射器のようなもの。中身は薬剤なのか、漆黒の液体が確認出来る。



ズグッ……



それを首筋に刺し、液体を注入する。



「まだ試験運用もしていない代物だが……理論上大きな力を得られる。その後はどうなるか知らんがな……」



即効性が極めて高いのか、徐々に肌が浅黒くなるスザク。



「だがもう構わん。このまま敗北し、没落するくらいなら……!!!!!」



これまでと同様彼は炎を纏うのだが、その炎には時折黒が混じる。瞳も赤くなり、牙のようなものも確認出来る。そう、その様相はまるで……



「デ……ヴィル……?」



そんなスザクの姿を見て、思わず言葉にしてしまったルーク。


さらに戦いは苛烈なものとなる。

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