第102話 白丸VSエレン
一方、また別の場所では……
「はーはっはっは! 妾の華麗な術に手も足も出ないようだなぁ!」
白丸が高笑いをしつつ、無造作に術を放ちまくっているようだ。
―攻勢・切颪!―
―攻勢・鎌鼬!―
―攻勢・旋風!―
―攻勢・烈斬!―
あらゆる風忍術がエレンを襲う。
もっとも、戦術も何もない、ただ術を乱れ撃つというなんともお粗末なもの。
「……調子に乗りやがって……」
回避行動を取り、チャンスを伺うエレン。
(……つーか、魔術と似てるけど総じて威力が高ぇな。その分、術の発動がちょい遅い……次狙ってみっか)
白丸の風忍術を分析。反撃を狙う。
―攻勢・切颪!―
(ここ!)
―アクアバスター!―
「!?」
エレンの掌から、人間の頭部大の水の塊が放たれる。反撃を予想していなかったか、白丸は不意を突かれ術が直撃してしまう。
「う……貴様ぁ! 今度こそ切り刻んで……」
―フローズンブリッツ!―
そう放ちながら印を結ぶ白丸。
だがエレンは、新たな魔術をすでに放っていた。
「遅ぇんだっつーの、バーカ!」
「な!? う、ぐ!!」
いくつかの氷が、彼女の肢体に食い込む。
白い肌を、自身の血が赤く染める。
「うおらぁぁぁぁ! もうテメェの番は来ねぇよ!!」
―アクアマグナム!―
―スプラッシュ!―
―ウォーターブレード!―
―アイスコメット!―
―フリージングブレス!―
「そんでもってぇ……」
今度は白丸が回避行動に防御と、術を出す暇がなくなる。ダメージを負い、息を整えざるを得ない状況で、エレンはここぞとばかりに青い気勢を強く上げる。
―メイルシュトローム!!―
「うああああ!?」
周囲には多量の水。それが渦を巻きながら中心部に居る白丸に襲い掛かる。
時間と共に渦は中心まで縮小、最後は弾けるように消失。
「へ! 調子に乗ってっからだよ! マヌケ!」
その容姿から、とてもこのような乱暴な言葉遣いをしそうには思えない彼女。
見下したような笑みを浮かべながら、白丸が倒れているであろう渦の中心部だった場所を一瞥するのだが……
「!? ……居ない?」
周囲を見渡すも白丸の姿はない。その時!
―颶天真空列斬!!―
「は……!? やべ!!」
エレンの足元から真上に風が吹く。それは嵐となりやがてところどころに真空を生み出し、彼女の体を裂こうとする。
―アイスウォール!―
「これで……ん? うわぁ!」
だが即座に氷の壁を作るエレン。だがその分厚い氷も時を置かず粉砕され、彼女に幾ばくかのダメージを与える。
「ふん……守られたか。魔術というのは面倒だな」
「?」
上空から声がする。
その方向に視線を向けると……
「な、なんだぁ!? ……コイツは……」
驚愕と困惑。
この場合、人間であれば自然な反応だろう。
何故なら白丸、隠していたであろう羽を羽ばたかせ空に浮いているのだから。
「妾の玉の肌に傷を……許さん!」
そして片手を上げ、すでに次の攻撃の準備は万端だ。巨大な風の槍が彼女の傍らに確認出来る。
(アレはまじい!!)
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
―猛勢・凰翼刺!!―
―フリージング・ヴェール!!―
ズドォォォォォォ!!
衝突音。双方の術がかち合う。
エレンが張った氷の防壁が大きく削れたのか、細かな水の粒子が周囲に舞う。
「忌々しい……」
「……マジかよ。フリージングヴェールでこの有様ってオイ……」
凰翼刺は、エレンが作り出した幾重にも折り重なる氷膜に遮られ、彼女の手前で止められている。
「つ、つーかてめぇ! 人間じゃないだろ!!」
「だから何だ三下。妾は烏天狗を束ねる頭領、五百年を生きる大妖怪、大天狗白丸であるぞ! 頭が高い!!」
傷付けられ、大技を止められ、怒り心頭の白丸。
エレンは彼女が人外であることに戸惑っている様子。
「えーっと……つまりはアレか。デヴィルみたいなもんか……」
その言葉、白丸には禁忌である。
「貴様ぁぁぁぁ! あのような異形と妾を同一にするか!!」
憤怒を見せ、そのまま滑空。
印を結び、次の攻撃の準備をするのだが……
ーアクアマグナム!!ー
エレン、魔術を速射。直線的な動きをする白丸に直撃する。
「……」
効いている筈なのだが、その場から動かない。
(なんだぁ……?)
その表情に無数の怒りマーク。いろいろと思い通りにならず、相当苛立っている模様。
不自然な反応にエレンも戸惑っているようだ。
「こ、この妾を……ここまでコケにするとは……ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
(ヨーカイ……っつったっけ? なんでこんなに感情豊かなんだよ……)
彼女が知る人外とは大きく異なっているようである。
完全にキレている白丸、大惠刀印を結びあの言葉を並べ始める。
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色……」
「??? なんか怪しい言葉並べやがって! させっかよぉ!」
―フローズンブリッツ!―
「……!!」
印を結び、集中していることから、そのほとんどが命中してしまう。
さらに傷が増えてしまうのだが、もはやそんなことはお構いなしだ。
やがて……
「は? ……なんだぁ!?」
白丸の姿が完全に消える。お得意の神通力である。
(なんだよコレ……気配すら感じらんねー……)
静まり返る周囲。だが、着実にエレンにとっての危機は忍び寄っているのだ。
ズドォ!!
「~~~~~~~~!!」
無防備なところに、突然の腹部への激痛。言葉が出ない。
「は――――はっはっはっは!! これで貴様は手も足も出まい!」
「????」
何が何やら分からない。何故消えているのか、どうして気配すら感じないのか、その理屈がまったく分からない。
ドス! ドガッ! バキィ!
「ぐ……がはぁ!!」
滅多打ちにされるエレン。白丸と同様、鮮血がところどころで確認出来る。
「ふざけた術使いやがって……でもよ、これなら……」
そういうと、全身に青色を輝かせる。
「……」
と、ここで白丸は沈黙。
そのまま距離を置き、様子を伺う。
「へ! 大方ちょっと離れたんだろ? ……無駄だっつーの!」
―サーチミスト―
「??」
エレンを中心に、霧が発生する。
(何のつもりだ? これではあやつも妾が見えんではないか……)
暫く周囲に漂う霧。やがてそれは晴れていくのだが、白丸はこれで何をしようというのかがよく分からないようだ。
だが、霧が晴れエレンの姿が見えた時にそれは分かった。
「何!?」
―ダイダルウェイブ!!―
なんとエレン、霧が晴れた頃に術を発動。
どういう訳か、ぴったりと照準を白丸に合わせている。
「この状態の妾でも……察知が出来るのか!」
「当ったりー! 姿消すだけじゃなくて意識も逸らすみたいだけどよ、物理的に居なくなったわけじゃねーし! 終わりだよ!」
エレンの真正面に現れた津波が白丸を襲う。
十分に気を練れたのか、高威力の魔術のようだ。横幅も縦幅も長く、避ける手段がない。
「うああああああ!!」
よって、飲み込まれてしまう。
目視しただけで伺える凄まじいまでの水圧。そのダメージは計り知れない。
実際、放たれた方向にある木々や岩等も流され、更地と化してしまう。
直撃した場所から暫く後方。そこで仰向けに倒れている白丸の姿が確認出来る。
それを見たエレンはニヤリとし、急ぎ足でやってきては彼女の頭を踏みつける。
「うっふっふっふ~。どーお? これで上下関係分かったっしょ?」
「ぐ……うう……」
体を動かせない様子の白丸。下唇を噛み、恨めしそうに足蹴の主を見つめる。
「んだよその目は。東国のデヴィル風情が、ジェネラルに勝とうってのがそもそも狂ってんだよ」
「!!!」
またしても悪魔扱い。悔しげな眼差しから、一転無反応となる。
「悪魔……ではない……妾は……」
「はぁ~? なんだって~? いひひひひ」
「悪魔よりも遥かに恐ろしい『妖怪』だ」
すると白丸、目が赤く輝きエレンの足首を掴む!
「な!?」
「ふははははははは!!」
ベキ、バキ……バキバキ……
彼女の腕が足が自然、いや意図的なのか、バキバキと折れて行く。
折れたことにより骨の制限がなくなったようで、手も足も伸びエレンの全身に絡みつく。
「う、うああああ!? なんだ!? なんだこれえええええええ!!!」
「ひひひ、ひゃははははは、あーっはっはっはっは!!」
赤い瞳で口角を異常に釣り上げているあたり、痛みは感じていないようだが恐ろしげな様相だ。
さらに首も自ら折ったのか、エレンの目前に後頭部を置きそのまま百八十度首をゆっくり回転させる。
「ひ……ひいいいいいいいいいいいい!!!!」
もはや怪異。
骨格を無視したその動きはもちろん、振り向いたその顔は口が裂けたように釣り上げたられた口角に、人間の拳大にまで見開かれた赤い眼。
「さ~~~~て……どうしてくれようかのう……妾のこの姿を見られたからには……ククククク……」
「ひいいい! た、た、助けて!! いや、いや、いやあああああああ!!!!!」
エレン、戦意喪失。ただその場から逃げたい一心なのだろう。
だが白丸はそれを許さない。
ミシミシミシミシィィ――――――――!!
「へ……? は……が……ああああああああああああああ!!」
絡み付いた手足で締め上げる。
エレンはやがて白目を剥き、泡をふきつつ力なく倒れてしまった。
「ふう……」
数分が経過し、自身の体を戻した白丸。自分の意思で体をどうにかする分には、痛みを感じないようだ。それにしても思わぬとっておきがあったものである。
その後、彼女は周囲をキョロキョロと落ち着かない様子。
(リュウシロウは……見てないな! うん! 良かった!)
元の愛らしい姿でガッツポーズ。もはや違和感しかない。
白丸。エレンを撃破。




