第100話 撃破
《う……クソ西国人……》
「オヤオヤ、あなた随分様子が変わりマシタね」
トムの復活にたじろぐゲンゾウ。
《へ……へっ! この岩城にゃ、テメーの烈風も通用しねーぜ! 何せ対フウマ用のとっておきだからな!》
「!!」
ここで出るフウマの名前。ごぎょうは、相当彼を警戒していた様子。
《ククク……ゴウダイ。腕をぶち壊していい気になってるようだが……こいつはご存知のとおり、いっっっくらでも元通りになるんだよォォォォォ!!!》
ガチ……ガチャ……ガチャ……
再度、音を立てて腕が形成されていく。
だが彼はまだ分かっていない。もはや今、トムとゴウダイの実力は……
ドォォォォォン……
《……あ、あれ?》
また腕が落ちる。落ちた方の腕を確認すると、鋭利な刃物で淀みなく切られている印象。
「フウマサン用にしては、チョット脆いミタイですね」
トムの仕業だ。
対フウマ用の代物と言い張る、ゲンゾウの忍術で生成された岩城をあっさりと斬ってしまう。
「……さすがだなトム」
「何をイウんですかゴウダイサン。本当に助かりマシタ」
《う、う、う……ぐぐぐ……》
ゲンゾウのプライドが、ゴウダイの術に阻まれた時のように、トムに切り落とされたように、少しずつ崩されて行く。
「だからウゼ――――んだよテメ――――――――!!」
そこに、先程トムに吹き飛ばされたハクフが、真っ直ぐ彼に向かって爪を立てようと向かってくる。もちろん二人は慌てる様子もない。
「潮時だな」
ここでゴウダイ、トムを軽く一瞥し……
「トム」
「エエ! ゴウダイサン!!」
二人が構える。気勢を大きく上げ、シンクロするように印を結ぶ。
《お、同じ……構え? な、なんだよそれ……》
「な、何よ!? 一体……!!」
徐々にトーンダウンしていくごぎょうの二人。
それもその筈。トムもゴウダイも、これまで見せたことない気勢。実力で上回る者たちの絶大な力を直視すれば、自然とそうなるだろう。
「ハァァァァァ――――……」
「おおおおおおおおおおお!!」
さらに上がる二人の気勢。
トムに風、ゴウダイに火が、渦巻くように集まって行く。
「忍法!!」
まずはトムが、印を結んだ手をゲンゾウとハクフに差し出す!
―颶風昇天螺!!―
《う、うおおおおおおおお!?》
「あああああああ!?」
ごぎょうの二人を中心とした極大の竜巻。
ハクフは耐え切れず即座に巻き上げられ、ゲンゾウも体がギシギシを悲鳴を上げ始める。
《く、くそが!!! こんなもんで持ち上がる訳が……あ……?》
ガコッ……ミシ……
《あ……あ……や、やめろ……やめろ……》
大きさ的に、到底持ち上げられるものではない。だが所詮は組み立てられたもの。部分ごとに耐久の強弱はある訳で、弱い部分から軋み出し、崩れ、巻き上げられる。
それはやがて彼を丸裸にし、ついには岩城が完全に崩壊する。
「バカなバカなバカなバカなぁぁぁぁぁ!! う、うわあああああああああ!!!」
ハクフ、ゲンゾウ共に竜巻に巻き上げられたまもなく、今度はゴウダイが印を結んだ手を竜巻の起点に差し出し……
「忍法!!!!」
―赤陽紅蓮焔!!―
それはまるで小型の太陽。
地上近くの竜巻の中心に現れ、放つ大火力の炎を風が巻き上げて行く。
ミシ……ミシ……ミシッ
「ぐああああああああああああああ!!」
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
巻き上げられたごぎょうの二人。
まずは上へ下へ、右へ左へと吹き荒れる風により骨が軋む。
ハクフは体毛を生やし補強、ゲンゾウは石や岩を纏うが、トムの術の威力に抗えない。
やがて軋む骨は砕け、両手足があらぬ方向に。
だがそれだけで悪夢は終わらない。
ゴォォォォォ……
「!?」
「ひ、ひぃ!!!」
今度は巻き上げられたゴウダイの炎が、螺旋を描きながら二人を襲う。
「がががが……があああああああああああ!!」
「ひ……ひ……ぎ、ぎ、ぎいいいいいいいいい!!???」
まとう術も一瞬で消失させられる。
皮膚は焼け爛れ、猛烈な灼熱感が襲い掛かっていることだろう。なお岩等を容易に溶解させる辺り強烈な威力であることが伺える。それを喰らったごぎょうの二人が未だ姿形を残しているのは、体内に巡る気やその勢い……つまり気勢により自然と守られている部分があるか。
そしてトムとゴウダイはもう一度印を結び……
「終わりだ」
ゴウダイの言葉を合図に、印を結んだ手を同時にかざす!
「風!!」
トムが叫び
「火!!」
ゴウダイが応える。
「「双術!!!!」」
竜巻と炎が圧縮される。
風はより強い嵐となり、炎は赤をさらに濃厚にする。
やがて風が抑えきれない炎の塊が、竜巻の中心部から上部へ強く放たれる!!
ー風・林・火・山!!!!ー
ドォォォォォォォ――――――――ン!!
大爆発と共に、ごぎょうの二人が真上に打ち出される。
それはまるで、火山の噴火のような様相だ。
大空に放たれたごぎょうの二人。やがて力なく落ちて行く。
ズドォォォ! ……ズドォォ――――ン!!
自由落下の後は地面に叩き付けられ、落ちた箇所には大穴。
「あ……………………」
「……………………」
双方、すでに意識はない。
僅かに体動があるところを見ると、二人共まだ生きているようだが時間の問題か。
「……」
「……」
二人が完全に沈黙したのを確認したトムとゴウダイ。お互いを見合わせそして
パーン!!
勢い良くハイタッチ。
「やったな、トム!」
「やりマシタね! ゴウダイサン!」
勝利の余韻。
もちろんそれを噛み締めているのはこの二人だけではない。
「やったぁぁぁぁ!!」
「ごうだいさますごーい!!」
「さいこくじんのお兄ちゃんもつよーい!!!」
一斉に子どもたちが歓喜の声を挙げる。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「子どもたちを救っていただいて、なんとお礼を言えば……」
大人たちも、涙を流しお礼を言う。
するとゴウダイ、子どもたちに近付き一人ずつ頭を撫でて行く。
「よく……頑張ったな……」
子どもたちの目が輝く。
その目線は、憧れている人へ向けるものそのものである。
「うん!」
「ありがとーー!」
「大きくなったら……」
その中の一人の子どもが、彼に近付いてこう言う。
「ごうだいさまみたいに、たくさんの人を守るんだ!」
「……!」
望んだものはこれほど近くにあった。
思わず目頭が熱くなるゴウダイ。
「ああ……! 強く……なるんだぞ」
彼がそう言うと、民衆は皆大きく手を振ってその場から歩き出す。
「…………」
その姿を、見えなくなるまで暫く見つめる彼のその面差しは、まるで何事にも変え難い大きな成果を得たようなものに感じられた。
そして時を置かず……
「ちょっとぉぉぉぉ! ゴウダイ君! 私のこと完っ璧に忘れてない!?」
ドアップでミナモが現れる。
「む、むう……ミナモ……そ、そういう訳では……ああ、そう言えば体は大丈夫か?」
「『そう言えば』って、やっぱり完璧に忘れてんじゃない! ……まあ、あの戦いには手が出せなかったから仕方ないけど! でもこれでゴウダイ君も二文字……これで……うふふふふふふふふふ」
「これで……何だ?」
「ああ、ううん! な、な、なんでもない! えっと、トムさんもありがと!」
トムと同じくミナモも復活していたようだが、戦いのレベルが高く手出しが出来なかった様子。
「コチラこそ! あとトムでオッケーですよ! ……デモ、さすがに疲れましたネ。チョットそこの茶屋で抹茶ラテでもシバきたいトコロなんですけど」
「あー! その前にライトとテッペイも回復してあげてぇぇぇぇ!!」
「む!? 二人も来ていたのか!」
徐々に平和な時に戻りつつある雰囲気。
それを遠巻きから見ている者が……
「ったくよぉ……俺たちも頑張ったつもりなんだけどなぁ」
「ばばば! ライド、ひがむなひがむな」
ミナモの術によりある程度回復したのか、いつのまにか街道の端に座り込んでいるライトとテッペイ。なお、立ち上がった際に潰された下草がすぐに戻らないところを見ると、ある程度以前からここに居た様子。この度の戦闘がよく見えそうな場所だ。
(……すげえなゴウダイ……情炎忍術か。記録されている分しか知らねえけど、まだ過去に二人しか使い手が居ねえヤツを習得しちまうとはなぁ……)
ニヤつくライト。何となく嬉しそうな雰囲気すら伺える。
(もうお前は誰だって守れるぜ。……良かったな……夢、叶えるだけの力がその忍術にはあるぜ)
「おいライドぉ、行くべや」
「おお、悪い悪い」
そう言うと、まだ少々足取りが重そうだが、皆と合流しようと歩みを進める。
今ここで、ごぎょうの長女と次男との戦いは終結した。
現在、能面の一部を除けば最強の一角となったトムとゴウダイ。
ハクフ、ゲンゾウをついに撃破す。




