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第1章 第2話 バズるために

「アイド……ひぇ? なに言って……るんです……!?」



 「俺のイラストをモデルにしたアイドルになってくださいっ!」。その俺の頼みを理解できていないのか、泊さんはわちゃわちゃと手を動かしながら戸惑っている。が、そんなものはどうでもいい。大事なのはこのふわふわとしたあざとかわいく、それでいて清涼感を確かに含んでいるこの声音。そして、



「ひょぇぇぇぇっ!?」



 目さえ見えない重い髪を掻き分け、その顔を今一度よく確認してみる。やっぱりそうだ……間違いない。優しい顔立ちに、眠そうにあまり開かれていないのに大きく目立つ瞳。控えめな小さい口に、色素を感じさせない白い肌。



 今まで全く気づかなかったが、よく見るとスタイルもいい。身長は155を超えるか超えないかくらいの割と小柄なのに、胸や尻は大きくそれでいて腹は細すぎないくらいに引き締まっている。脚は太めだが、今はそっちの方がトレンド。膝下のスカートの丈を上げればスタイルが際立つことだろう。



 先日上げた100万いいねを突破したイラスト。縄に縛られ、胸や脚を強調させられ恥ずかしそうに顔を赤らめている金髪ツインテールの美少女。髪や服装さえ揃えれば。泊さんと瓜二つになる。



「あ……あの……っ」

「あぁごめん!」



 何も考えずに泊さんに触れていたことに気づき、慌てて距離をとる。



「えーと……それでなんだったっけ……?」

「そ……その……」



 泊さんは前髪を元の汚いぐちゃぐちゃした感じに戻し、目を隠したのにさらに俯きながら言う。



「わ……私……。ずっと……怖くて……恥ずかしくて……ライッターはやってなかった……ううん、アカウントだけ作って見てたんだけど……。栗無くんのイラストがすごいバズってて……みんなに褒められてて……いいなって……。私も……なにか……バズって……。み、みんなに褒められたくて……見返したくて……だから……その……」



 もじもじしながら一言一言確かめるようにつぶやく泊さん。つまり要約するとこうか。



「バズりたいからその方法を聞きたかったってこと?」

「う……うん……っ。な、なるべく簡単な、誰でもできるようなことで……」



 うーん……。それは……どうだろうな……。



「言いづらいけど、バズるのはそんなに簡単なことじゃない。俺は子どもの頃からずっと絵を描き続けてて、小学生の頃からライッターに上げ始めた。最初は1いいねすらつかなかったし、何なら中学生でも1000いいね超えればいい方って感じだった。最近はライッター人口の増加に伴いバズりのラインが昔の10倍にまで引き上がってるし、俺より上手いのに全然いいねがつかない人もたくさんいる。そんな中研究に研究を重ねてようやくバズったんだ。誰でもできることでバズるにはやっぱり着眼点が大事だけど、生憎イラスト一本でやってきた俺じゃその道でやってきた人には劣る。だから泊さんの望む方向での成功は俺の力では無理だ」



 説明を続ける度に、元々俯いていた泊さんの顔が下がっていく。でも、だ。



「1週間。学校をサボってくれるならバズらせられると思う。バズれば何でもいいって言うのなら」



 泊さんは何も言わなかったが、髪に覆われた顔が少し上を向いた。俺は続ける。



「泊さんとあのイラスト……しっかり容姿を整えればそっくりになると思うんだ。だから現実の君をあのイラストと同じ格好にして投稿する。それだけじゃない。キャラクターとして……アイドルとして。活動してもらいたいんだ」

「それ……は……」


「もちろんバズりに絶対はない。こんなことをやっても滑るかもしれない。それにあのイラストは胸の谷間だって見せてるし下着も出してる。身体を売るようなものだ。それが世界中に見られる」

「う……うぅ……」


「それでもいいのなら。それでもバズりたいなら、ぜひ協力させてほしい。協力してほしい。だから……頼む」

「…………」



 泊さんが再び俯き、無言の時間が訪れる。1分……2分……どんどん時間が経過し、体感的には15分ほどが経った頃だろうか。



「…………」



 泊さんの小さな手が、俺の手に触れた。震えていて弱く、それでも確かに熱いその手が、俺の手を包み込む。



「お願いします……っ」



 顔は見えない。声もほとんど聞こえなかった。それでも。



「ああ、がんばろう」



 俺と泊さんの活動は始まった。

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