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男二人の会話

お久しぶりです。今までの短編を読んで、評価やブックマークしていただきありがとうございました。今回の短編も、なにとぞよろしくお願いします。

夜、とある町の居酒屋で男が一人飲んでいた。男は何かを悩んでいる様子であった。そんな中、店の扉が開き、新しい客が中に入った。


「あれ?」

「ん?」


新しい入った客は、男の知り合いであった。


「久しぶりだな~。お前の結婚式以来だっけ」

「ああ。お前の式に来れなくてすまなかったな」

「いいって。仕事じゃあしょーがねえし。にしても、未だに信じがたいぜ。お前が当時の学校のマドンナを娶っているとはな~」


二人は高校時代の友達であった。三年間、何かの縁でずっと同じクラスで学んでいた二人。どこかで他の人と距離を取りがちがある男に対して、男の知り合いはかまいなしでいつも男に絡んでいた。クラスの中でもうざいぐらいと思われるその知り合いは昔から、そして今でも男に絡んで無駄話をしていた。


「相変わらずのしゃべり口だな」

「んだよ~。せっかく久しぶりに会った親友だから、色々話してーじゃん。あ、タバコ吸っていい?」

「喫煙席だから好きにしろ」

「じゃ、遠慮なく。と、火…火…」

「ほら」

「お、サンキュー」


男は自分のポケットライタを火をつけ知り合いに差し出して、知り合いをその火に自分の口にあるタバコを近づけた。タバコに火がつけ、煙が出始めた。


「ふはあ。で、何悩んでんの?」

「…別に」

「お前も、相変わらずの言葉足らずだな。拒否したければお前に関係ないって言えばよかったのに」

「…」

「な、お前さ、一目惚れって信じてるか?」

「何だ、藪から棒に」

「俺は信じているぜ。というより、さっきまで経験したわ。あの子を一目見ただけで胸がぎゅうっと締められた気がした」

「…」


妻もちが何言ってんだ?とは男は言わない。確かに目の前の人はうざくて、いつも無駄の話をしていて、たまには品もデリカシーもない話もするが、自分が持っているものをぞんざいに扱う真似はしない。だから男は、いつも通り知り合いの次の言葉を待つ。そしたら、その知り合いは自分のスマホの画面を男に見せた。写したのは、つかれきったにも関わらず目に見えて心からの幸せな笑みを浮かんでいる女性の隣に寝ている赤ちゃんであった。


「今日息子は生まれたんだ。出産を終えて、母親も安寧しているので、父親は今夜さびしく一人で家で寝るところだが、興奮で寝れるそうもないわ。このちっちぇー生き物がよ。今日はじめて会ったのに、こんなにも大事に想っているんだよ。俺は。不思議だよな。元気に泣いているのを見て胸がほっとして、止んだときに手を触れたら暖かな気持ちになってたんだよ」

「そうか。だから目が赤かったのか」

「…煙が目に入っただけだし」


そっけなく態度で返したその知り合いが、相変わらずの見栄っ張りだった。そう男は小さく口先を上げた。その時、ふいにその知り合いからまた声をかけられた。


「なあ。お前が昔から色んなものを背負っていることを分かっているつもりだ。俺みたいなただの見栄っ張りの一般人の倍以上をな」

「…」


そうだ。この男は昔から変なことに首を突っ込むくせがあった。自分にできることがあったからと。困っている人を助けたいと。そんな風に、一種の青臭い気持ちで無茶をやってきた。そしてその気持ちは、経験で甘さが減っても今もまだ男の中に燃えている。高校を卒業して、男はその気持ちを貫くための道を選んだ。ある機関に身を置き、いわば危険な仕事をやってきた。自分にとって確かにその仕事のやり甲斐があった。しかし、そのために男はよく家を留守してきた。男の妻は彼のそういうところを承知で結婚した。だが、子供はどうだ?子は生まれた家を選べない。父親がろくに家にいない家族は子供はどう思う?自分は、子供にとっていい父親になれるのか?

男はずっとそう悩んでいた。そして、目の前の知り合いはなんとなくそう察した。だから彼は、口数の少ない男を代わってしゃべった。


「お前がやっていることを理解するのは難しい。実際、昔の俺は自分が何も分からないのにお前に無神経で話しかけていた。うざがられてもしかたねーさ。悪かったな」

「いや…」

「ま、話を戻すが、もしお前に子供ができたら、その子供はお前を理解するのは難しいと思う」

「…容赦ないな」

「いつもはしてほしくないくせに。だがよ、お前はそれで子供を愛せないのか?自分を理解できない子供をお前は見放すのか?」

「そんなわけないだろ」

「んじゃ、答えは決まってんじゃねえか。子供がどう思っても、俺たち親のやることは変わらない。あいつらがでかくなるために動き、見守る。平和に成長できるために世の悪を滅ぼしたり、普通の会社に出て将来のためにお金を稼いだり、方法は何でもいいさ。うずうずするのは似合わねーよ、お前には。こちっとら、バカ親なんて大人になった子供に絶対にうざいと思われるんだからな」

「それは確かに」

「そこは即答しないでくれよ」


二人は笑った。いつの間にか悩みが吹き飛んだ男は、店員に追加の酒を頼んだ。


「おい、こんな高い日本酒、俺払えないが」

「俺のおごりだ。代わりとは思っていないが、お前の人生の頂点の姿は見れなかったが、今日はお前が父親になった記念日だ。そして、お前の息子の誕生のお祝いに乾杯させてくれ」

「…へへ。それじゃ、呑みつくすまで付き合ってくれよ」


二人は改めて晴れた気分で、二人の再会に、一人の父親になった記念に、そして一人の父親になる決意に、杯を交わした。


しばらくして、二人は飲み終わった後に道を歩いていた。が、一人は他の一人の肩を借りていた。


「…うえ」

「そんなに強くないのに無理したからだ」

「だってよ~。めったに呑めない高い酒だからよ~。それを頼んだお前が悪いんだからな…ちょっと裏道に入ってくれ。吐く」

「おいおい」


裏道に入り、ゴミの捨て場の近くに吐いた後、二人は少し休むことにした。


「ちゃんと二日酔いの薬飲めよ。明日は愛するの家族に会うんだろ」

「わーってる。こんなざまで嫁が見たら、息子には会わせてくれねーよ」

「しっかりした奥さんだな」

「俺への気遣いの言葉はなしかよ。へいへい。どうせ俺はただのうざい元クラスメートだよーだ」

「すねてもかわいくねーな。ま、確かにお前はうざいし。下品だし。話しかけられる度にこいつ暇だなとは思ったけど」

「ちょっと待って。思ったよりひどいんだけど」

「だけど、うれしかったな。お前との話で俺はあの日常にいていいって感じることができた」

「お前…」

「自分が他のと違うと思って距離を取った。今の言葉では、俺イキッてたよな。そんな俺を無駄話にしてくれてありがとな」

「…んだよ、いきなり。そりゃ俺だって、無視してる思ったら実はちゃんと聞いてるお前に感謝しているよ。くそ、やっぱ呑みすぎた」

「お互い、酒が回ったようだな」


お酒のせいにする。大人のずるいやり方で、信用性には欠けるが、二人にとってはそれはどうでもよかった。それぞれ、自分の気持ちは確かだからだった。


「それにしても、そういう話をする場所じゃねーよ。俺のゲボがすぐそこだぜ」

「男二人の話なんて、ロマンチックを求めんなよ。汚い場所がちょうどいいだろ」

「へ、違いねえ」

「さ、行こうか。親友」

「おうよ」


そして二人はまた、支えあって歩き出した。


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