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貧乳コンプレックス娘、胸ver美醜逆転の世界に転生しました

作者: フェイリー

ポロっと降ってきて、殴り書きました。哀れな主人公の恋愛をお楽しみください。


 いわゆる『美形』やら『美人』ってのは場所によって様々なもの。


東西南北どころか、同じ国でも時代によって変わるんだもん。そりゃあ世界が違えば美意識やら価値観、ついでに常識なんてものが違って当たり前。

でもさぁ。 ……いくらなんでも、これは無いんじゃないかなぁ!?



「えーと。話って何ですか?」


オープンカフェのテラス席。知り合いの男がなかなか切り出さない為、女性は自分から話しかけた。

彼女の名はアイ=ミネバル。まだ20代前半の、ポニーテールにした長い濡羽色の髪、蜂蜜色の大きく勝気そうな目をした彼女はそこそこ可愛い女性、なのだが。まぁあくまで『そこそこ』だ。服や装飾品の至る所に護法の魔術式を彫り込んであることから、魔法を使える事が伺える。

そんな彼女と向き合う男は筋肉が盛りに盛り上がった巨体のムキムキマン。そんな奴が緊張でプルプルしながら顔を赤くしている。これを可愛いと感じるか気持ち悪いと感じるかは、人によるだろう。

が、アイにはそんな事はどうでも良かった。


わかりやすい態度の男にアイが抱くのは期待────ではなく、警戒心。

やがて意を決して男が口を開いた。


「あ、あんたのその、まな板のような平らな胸が大好きだ!! お願いだ、俺と付き合ってくれ!!」

「だぁぁぁれが『まな板』かぁぁぁぁ!!! 広場に出ろ、今すぐ人間姿焼きのローストにしてくれるわっ!!!」


男の告白は、即座にアイをキレさせ爆裂呪文で男を吹っ飛ばす結果となった。

……数分後。オープンカフェには暴れまくる女が周囲にいた人間に取り押さえられ、ボロッボロにされた筋肉ダルマがショックと恐怖で涙ぐむ姿があった。



 § * § * § * § * § * § * §



私には、いわゆる『前世の記憶』ってやつがある。

この世界とは違う世界の日本って国でフツーの一般人として生きていた私は、交通事故で若死にした。で、気づいたらこの世界のアローズって国で転生してた。

どこの小説だよと驚いたし、自分が死んでしまった事はショックだったけど、この世界ではごく稀にだけどそういう人が生まれるらしい。大抵は同じ世界からの転生だけど、ごく稀に私のように異世界からの転生者もいて、そういう人は『記憶もち』と呼ばれて国から専属の相談役をつけられる。だから常識からして違うこの世界で戸惑いも悩みもあったけど、彼らに支えられて何とかなった。


ただね、でっかい問題があった!



「どうして、どうして駄目なんだ!? 俺は本気でその平坦な大草原のように傾斜のない胸が好きで……っ」

「まだ言うか! 平坦な大草原で悪かったな!?」

「ちょ、落ち着けアイ! アイツに悪気はないんだ、許してやれ!!」

「お兄さん、アイちゃんに『その言葉』は絶対に禁句なんだよ! ここは任せて逃げな、半殺しにされるよ!」


近くにいた知り合いのおじさんが私を羽交い絞めにしたりおばさんが頭を撫でて慰めてくれる。優しさが心に染みるよ!


「なんでよぉ! なんで知り合って数日の奴にまで『まな板』だの『平坦』だの言われなきゃなんないの!?」


私の魂からの叫びに、おばさんが心底憐れんだ目になった。


「この世界では『胸が平らなほど魅力的』なのが常識だからねぇ。アイちゃんにとっては『胸がデカい』って貶されてるのと同じなんだろうけど。」

「あぁ。告白で相手の魅力的なところを伝えるのは常識だからな。特に胸を褒めるのは定番だ。決して貶されたわけじゃないんだ、わかってやってくれ。」

「うわあぁぁぁぁぁぁあん!!!」


おもわず床に突っ伏して大号泣する私。憐れんだ人たちが労しげな視線を向けてくるのが、余計に涙を誘うのだった…。



そう。この世界は『女性は胸が小さい程に美しい』とされてるのよ! ちなみに男性は『筋肉のついた巨体ほど格好良い』。しかもだ、その優先順位は顔の美醜よりも断然高い! 日本の感覚からすると信じられないけど、大抵の人は顔なんて日本での腕とか足くらいにしか見ていない。とにかく胸と筋肉。フェチでない限り、何を差し置いても胸と筋肉なのよ……っ!


理由は多分だけど、この世界に危険な魔物やら魔獣といった生物が多いからなんだって。一応は魔法が存在する世界だけど、それを使える人は少ない。それゆえ人々は主に己の肉体を武器に戦ってきたとか。



で。結果として。

筋力を鍛えた人ほど力が強い=力が強ければ魔物をより倒せる=素敵な人!



……こんな構図が出来上がった結果が、今の価値観に繋がってるんじゃないかと。女の人は強い人ほど胸が小さかったからだってさ。

現在はその価値観が微妙に変化して、男は実用的じゃなくても分かりやすく膨れ上がった筋肉が、女は筋肉がなくても小さい胸が美しいってなったんだろう、って教わった。


初めて聞いた時は顎が落ちるかと思った。なんなのその理由!強い女性が胸が小さかったって、それ大胸筋が鍛えられて筋肉になってたからじゃないの!?女性アスリートさん達みたいにさ。


更にはこの世界の人達、よく褒めてくるというか好意の伝え方がストレート?なのか。人を褒める時や口説く時なんかには、特に相手のもっとも魅力的な部分を褒めてくる。しかもその誉め言葉は彼らにとって素晴らしいもの、つまり褒めるのは胸や筋肉……!



そして私はお察しの通り、胸が小さいのであ~る。悔しい程に、ない。えぇ、ないとも!! 更には前世もペッタンコだったさ!


そりゃ、モテるよ? 前世ではあまりモテなかった私が、超絶モテまくり女となりましたさ。小説で読んだ不細工女子が異世界では超絶美少女としてモテる『美醜逆転』ジャンルを思い出すほどに。


でも、ここで美意識の違いが大きな問題となった。


考えてみて欲しい。胸ペッタンコなのを理由に初めての恋人に振られ、2人目3人目と同じ理由でフラれ、胸が超コンプレックスになった女子がいたとして。その子が『その平らな胸が云々』と言いまくられて告白される度に感じる気持ちを。



ハーイ★ その女子、ワタシでーす★



……。 殺意わくよね? 喧嘩うられてると思うよね…?


そ い つ ら 血 祭 に あ げ て も、仕 方 な い よ ね ?



幸いにも(?)魔法が使えた私は盛大に暴れた。前世のぶんも大いに暴れた。悪意がなくとも関係ねぇ!!

結果として、昔からこの街にいる身近な人達には、私に対して『胸の話は禁句』と知れ渡ったんだから頑張った!

……同時に『凶暴だけど強くて最高の美女!』ってファンの男が増えたけどね。なんでよ。

でも面倒くさい事にこの街は交易が盛んなもんだから、さっきの人みたいに(無自覚に)人を貶して不幸になる人はあとを絶たない。


胸の話をしなければいいだけなのに…。

他のまともな部分を褒めてくれればいいだけなのにっ!

なんでこんな、斜め上な価値観の世界に転生したかなぁ!?


アイ=ミネバル、20歳。胸コンプレックス持ち。美女(笑)だそうです。

胸の話題をしないような彼氏が欲しいです。



 § * § * § * § * § * § * §



「聞きましたよ、アイさん。また暴れたんですか?」

「ヴッ」


仕事から帰宅してすぐ家を訪ねてきた男性からニッコリと──でも目が笑ってない──指摘され、思わず呻く。

彼は国から派遣されている『記憶もち』の担当者、相談役のエルド=ユージーンさん。白に近い金髪に鮮やかなエメラルドグリーンの海の色の瞳、少し垂れた目の優し気な甘いマスクの美青年さま。右目の下の泣き黒子が色っぽい。そして好みの細マッチョ。そしてそして、何よりも一番の特徴は『ザ・王子様!』と言わんばかりのイケメンボイス! この声で耳元で囁かれた日には腰砕け間違いないと思う!

まるで美しい人形のような(かんばせ)の彼。けどその麗しい顔には怒りの笑顔を浮かべている。


別名「お目付け役」「お世話係」の彼の仕事は、私の動向をチェックすること。なんでも昔、この世界に生まれた『記憶もち』が周囲に頼まれ、記憶を頼りにより強い魔法を再現しようとした際に失敗、その事故により大きな被害が出てしまったらしい。

この世界の人々は元々大半の人が『全ては己の力で得てこそ!』って考えがち。それもあって以来『記憶もち』が余計な知識や技術を齎さないよう、相談役兼見張り役がついたんだとか。それが『記憶もち』の相談役。


……そして彼は私の担当。当然、今日の事も知られているわけで。



甘い笑顔のまま、ヘッドロック&米神グリグリ攻撃をしてきた!


「痛い痛いって!? やめてユージーンさん勘弁してよぉ!?」

「例え怒りを覚えようと、受け流せと言ったでしょう?この頭は飾りですか?」

「すみませんんんんん条件反射で攻撃を仕掛けてしまうんですぅぅぅぅ!!」


涙声で訴え続けていると、ようやくこめかみ攻撃だけは止まった。うぅ、頭に穴が空いたんじゃないの?ずっと微笑んだままなのが、いと恐ろし。


「まったく。貴女の『胸コンプレックス』とやらは相当に頑固なのですね。過去に貴女と同じ価値観の女性が何人か確認されていますが、皆さん早々に『そういうもの』として受け入れたそうなのに。」


呆れた声が頭上でするんですが、解放されないのは再度グリグリする可能性があるからですか?


「そりゃあ私だって『最高のプロポーションだぜヤッフー!』とか喜びたいよ。でもね、無理なの。前世からのコンプレックスが! 胸の小ささを指摘する奴を滅せと訴える!」

「滅するんじゃありません。」

「いだだだだだだだっっ!!」


いつも容赦ないねユージーンさん! そんな優し気イケメンスマイルのくせに!!

あ。でもユージーンさんのその美貌も、この世界では無意味なのよね。この世界でモテる男ってのは『筋肉巨体』。ボディービルダーとかのアレなのよ。顔も当然、男らしい(いか)つい系がモテる。不細工ってわけじゃないみたいだけど、万人に好まれる顔ではないらしい。


……そんな彼を好きな女が、ここにいるけどね。



その後も言い訳してはグリグリされて、ソファーで膝を抱えてすっかり不貞腐れていたら、隣に座ったユージーンさんに慰めるみたいに頭を撫でられた。もう20歳になるのに長年の付き合いのせいで未だに子供扱いだ。


「ねー、ユージーンさん。この世界の男の人ってみんな胸が好きなの?」

「皆ではありませんよ。確かにそういった方は多いですが、中には内面重視で外見は然程、という方もいらっしゃいますし。」

「ユージーンさんは?」

「私は内面を重視していますが、それ以上に大事な拘りがあります。」

「え、なにそれ!? どんな拘り!?」

「内緒です。」


それって女性の好みってことでは!?

思わず身を乗り出して胸元を掴みかかる勢いで聞くも、あっさりと躱されるし。いいじゃん、教えてくれたって。減るもんじゃなし!


「ん───相変わらず、アイさんは良い香りがしますね。好きですよ。」


身を寄せたから私の香水が香ったんだろう。ユージーンさんはこの香りが好きらしいから興味がそっちに向いたらしい。けどそんな事どうでもいい!


「はいはい、この香水は男の人がつけるには甘すぎるし、今度この香りで石鹸か何か作ってあげる。だから教えて?」

「お断りします。」

「ケチ────ッ!!!」




───ユージーンさんとの出会いは、私が16歳の時。もう4年の付き合いになる。


最初は『イケメンだろーが胸の話をしたらぶっ飛ばす!』と警戒を露わにしてたんだけど、ユージーンさんは私の胸について一切触れてこなかった。ただ頭を撫でてくれたり、仕事を褒めてくれたり、叱ってくれたり、ただ話を聞いてくれたり…。


優しかった。 優しくも時に厳しくて、親身になって私を心配してくれる人。

うん、それが仕事なんだろうなぁ、とは思ったけどさ。外見も割と好きで、声は超絶好みで、知れば知るほど性格まで好きなタイプだったら、もう好きになっちゃうよね、そんなの。


でもユージーンさんにとって、私の事はお仕事。しかも16歳の時から見てたせいか、ずっと子供扱い。

せめてユージーンさんも小さい胸が好きというなら、ものっ凄く!我慢して、この胸を武器にするのに。

どうでもいい男からは美女(笑)扱いでも、ユージーンさんに効かないなら意味ないじゃん!



 § * § * § * § * § * § * §



王立の魔法研究所内────つまり仕事場で、私はでっかい溜息を吐いていた。


(はぁー……拘りかー。頭脳優秀とか? それとも何かのフェチ?)


ぷちぷち、ぷちぷち。

花びらを千切るという地道~な作業に、ついつい物思いにふけってはため息を吐く。


今やってるのは魔術を使った特別な香料・サシャの抽出作業。これも立派な魔法のお仕事です。

サシャの花って『女神の香り』と呼ばれるほどに甘く薫り高くて人気が高いけど、普通の方法じゃ香りが飛んでしまうのよね。だから抽出には魔術が使われる。もちろん生産量は少ないわけで、その類稀な香りと合わせて超高級な貴族の女性・御用達の香水だ。

ちなみに私も愛用してるけど生産元だからタダ同然。初めて作ってユージーンさんに褒められて以来ずっとつけてる。


「せめてどんな拘りかわかればなぁ…。」

「誰の?」

「うおわぁっ!?」

「ぶっ!?」


物思いに耽ってる時にいきなり背後から話しかけられ、ついつい驚いて手の中の物をおもいっきり投げつける。あービックリした!


「ちょっとナディア、驚かさないでよ!」

「それはこっちの台詞よ!? なんで普通に声かけただけで、顔面に花を叩きつけられるのよ!?」


文句を言ったらそれ以上の勢いで文句を返されてしまった。反射行動だ、気にするな。

ウェーブのかかった金髪を肩のあたりで結わえた、グラビアアイドルも真っ青な色気たっぷり抜群プロポーションの美女(日本基準)、ナディア。私の仕事仲間で飲み友の彼女は、基本モテない。これでモテないとか世界の差って本当デッカイわ。彼氏いるから良いらしいけど。


「全くもう。ま、いいわ。あんた何やってるの?今週分のサシャの香料は納品済みでしょ?」


あ、なるほど。それが気になって聞きに来たのね。


「プレゼント用にサシャの香料を作ってるの。ついでに来週分も作ったら楽できるし。」

「プレゼントぉ?はっ、まさか私に?」

「んな訳あるかい!ユージーンさんによ!」


ナディアのボケに即座につっこむ。本人も冗談で言ったのだろうけど、私の出した名前に納得したらしい。


「ああ、アンタのお目付け役のエルド=ユージーンね。え、あの人って香水使うの?ただでさえ外見が男っぽくないのに?」

「失礼ね、ちゃんと男っぽいもん!」


馬鹿な、細マッチョなユージーンさんはガチムキゴリマッチョ至上主義の世界に人間からしたら男らしくないというの!? 細マッチョはセクシーな腹斜筋とか男らしい色気たっぷりじゃないの!

鍛えすぎたこの世界の『イケメン』は私にはくど過ぎてノーセンキューだ。


「ユージーンさん、サシャの香りが好きらしいの。だから日頃お世話になってるお礼もかねて、男の人でも使える石鹸を作ってあげようかなーと。」


ついでに好感度あがらないかなーとか、拘りについて聞けたらいいなーという下心もあるけど。…って。


「…何よ、その顔は。」

「いやぁ?普段、男をぶっ飛ばしてばっかのアイにも可愛い所があるわーと思って? ふふ、いい加減に異性として意識してもらえるといいわね~?」

「余計なお世話だ!! ぶっ飛ばすわよ!?」

「同じ魔法使いが簡単に吹っ飛ばされると思って?返り討ちにしてくれるわ!」


ワーギャーもめる私達を職場の皆は眺めるだけ。日本なら止められるだろうけど、ここは強さイコール魅力の世界。命の危険がなければ、たいへん大らかです。

でもなかにはちゃんと止める人もいる。


「こらこら。建物の中で魔法を使ったら部屋がムチャクチャになるから、やめなさい。」

『はーい、課長。』


この課のトップ様に止められた。止める理由が部屋を心配してってとこが常識の差よね。


「なんだか楽しそうだったけど、何の話をしてたんだ?」

「アイのお目付け役のエルド=ユージーンさんの話ですよ。アイが贈り物するんですって。」

「えーと、日頃の感謝をこめてですね?ユージーンさんの好きなサシャの香りの石鹸でも作るかなーと…。」


なんでバラすかな!? 私がユージーンさんを好きだってバレるじゃないのー!

内心で罵倒するも、出た言葉は戻らない。渋々認めると……予想だにしていない言葉が返ってきた。


「ん?サシャの香りが好きなのはエルドじゃないぞ? 彼の元婚約者のほうだ。」



『は??』




「………。」


いま……、なんていった………?


「こ、ん、や、く?」


こんにゃく、の聞き間違い?

現実逃避して呆然とする。なのに課長は更に無情な現実を叩き込んでくる。


「…課長? エルド=ユージーンと親しかったりします?」

「会えば話す程度にはな。 エルドは王宮の役人で優秀だが身分は平民だ。で、やっぱり上を目指すのに貴族の階級があったほうが有利ってんで、お貴族様と婚約したんだよ。ま、何故かご破算になったが。」


ご令嬢が使ってた香水…サシャの香りが好きだなんて、多少は惚れてたのかね? と呟き、私にトドメを刺した。

そのあともナディアと課長が何か話していたようだけど、ショックが大きすぎて内容が頭に入ってこない。気が付けば課長はいなくなっていて、ナディアが心配そうに顔を覗き込んでいた。


「アイ、大丈夫? 意識ある?」

「……だいじょぶ、じゃ、ない。」


ユージーンさんは拘りがあるって言ってたけど、きっとそれは『身分』だったんだ。

ううん、もしかしたら元婚約者が持ってる他のなにかかもしれない。


どちらにせよ。ユージーンさんには好きな人がいた……?



「……ハハ……、来世こそ、巨乳、に…、生まれ、た……い…………。」

「ちょ、死ぬなぁぁぁ!!? だれかぁ! 治癒魔法かけたげて───っ!!?」



ショックのあまり魂がお空へ旅立ちかける私の耳に、ナディアの必死の叫びがかすかに届いた気がしました。



───なんとか生還を果たした後。

ショックのあまり、まだ魂が抜けかけてる私をナディアは自分の家に泊まらせて、更に翌日の有給申請をしてくれた。しかもユージーンさんへお泊りの連絡まで。

ありがたすぎる! 家に帰れば日課の動向報告でユージーンさんと顔を合わせないといけないもん。持つべきものは頼れる友達。

無理。いま顔あわせるとか、ぜったい無理!!

とにかく気持ちを落ちつけたくてナディアに事情を暴露。それでも昇天しそうな気持ちで過ごして────




「────喜びなさい、アイ! 課長をはじめユージーンさんと元婚約者の関係を知ってる人に片っ端から話を聞いて回ったけど、どうもユージーンさんが元婚約者に惚れてるってことはなさそうよ。」

「それホント!?」

「ホントホント。だから襟首つかまないで。」


次の日。ナディアの家でひとり白くなってボーっと過ごしていると、夕方に帰宅したナディアからとんでもない情報が。即座にモノクロからカラーに戻ったよ!


ナディアが色んな人から聞いた話を総合すると、ユージーンさんが伯爵家のご令嬢と出世の為に婚約していたのは事実。ただし3年前に婚約はなぜか解消。

ご令嬢はユージーンさんが平民で(この世界的に)美形じゃないことが不満で、2人はあまり良い関係じゃなかった────


「──って、あれ? サシャの香りの話は?」

「それが不明なのよ。でも少なくともユージーンさんがご令嬢に惚れてたってことはない、ってユージーンさんに親しい人から証言があったわ。」

「男らしくないから甘い香りが好きって隠してた、とか? じゃあユージーンさんの言う拘りって、貴族の身分?」

「その可能性が高そうよね。あんたの相談役を引き受けたのだって出世のためって話だし。」

「え。なにそれ初耳。」


……確かに危険を齎すかもしれない『記憶もち』の管理って、国にとっても大事な仕事。実際に管理したり誘導したりする相談役に就けば、彼らの知識等を悪用するような人物じゃない、国にとって信頼に足る有能な人物だって周りに知らしめられるかも?

理解はできるけど、仕事だってわかってもいたけど。出世のために仕事で接してたんだよ!って実際に聞いちゃうと、なんか、なんか……。


「身分かー。ごめん、喜べって言ったけどアイは平民だし。望み薄世だったわ。失恋おめでとう。」

「ちょっと!? 色々とショックを受けてる友達に、更に追い打ちをかけるとか鬼かアンタ!?」

「そうは言っても。平民なのは変わらないし。駄目もとでその小さい胸で色仕掛けでも仕掛ける?」

「小さい言うな!! ……効かないと思うし。」


被虐的と言うなかれ。実際やってみたのよ。

自分では悪口にしか聞こえなかろうと、胸が小さい=美女なのは事実。ずっと前にユージーンさんに女をアピールする為に、あえて薄着でベタベタくっついてみた事があったんだけど、見事にスルーだった。勇気を出して玉砕した私は泣いた。スイーツやけ食いした。

そもそも誰もかれもが胸の小ささを褒めるのに、ユージーンさんだけはしないもん。本当に興味がないんだと思う。



もしかして、これって打つ手なし?

受験に合格するどころか、実は受験資格すらなかった??


失恋確定? え、相談役の交代をお願いするしかない??



会えなくなるのは嫌だけど顔を合わせても辛い!どうしよう!? と悩む私の耳に、ナディアの「あ。」という呟きが聞こえた。


「武術大会があるじゃないの。」


そして頓珍漢な台詞。ぶじゅつたいかいぃ?


「それって王室主催で開かれる来月のアレ? ミスコンよろしく強い=素敵な人は誰か戦いで決めて、それを周りがキャーキャー騒いで見るアレ?」

「ミスコンが何か知らないけど、それよ。あんた、あの優勝者に王様から与えられるものって知ってる?」

「知らない。」


興味ないもん。ボディービルダーみたいな筋肉太りのマッチョマン共が汗臭く戦う大会なんでしょ、どうせ。


「優勝者の望みをひとつ、叶えてもらえるの! もちろんある程度の制限はあるけど。」

「え?」


望みを、ひとつ?


「え、それって『貴族にしてください』でもいいの?」

「過去の優勝者は男爵位を与えられてたもの、きっとイケるわ。」

「マジですか!?」

「平民向けの大会だから、騎士とか国の精鋭が出てくることはないわ。魔術師で出場する人は少ないけど、駄目ってことはないし、攻撃魔法に慣れてるアンタならイケるかもしれない。」

「ありがとうナディア! 希望が見えてきた!」


確かに私には『愛の告白』という名の胸こき下ろし野郎どもを即座に魔法で吹っ飛ばしてきた実績がある。ナディアとも頻繁に魔法を打ち合うコミュニケーションをしてるし。

甘いかもだけど、相手に近寄られる前に魔法を連打しまくれば、もしかして…!?



「あれ、ちょっと待って。大前提としてアンタがお子様扱いから抜け出せない限り、貴族になろうと可能性はないんじゃない?」

「………。そ、そっちは時間が解決してくれるもん!」


せっかくあがったテンションを落とさないで!!

も、もうちょっと年月が経てば、もうお子様じゃないってユージーンさんも気付いてくれるもん。いや、大会で優勝すれば『もう子どもじゃない』と実感してくれるかもしれないし?

まずは恋の受験を受けるための受験資格を得るのよ! だいじょうぶ、万が一にも身分が不要になれば『身分不相応だったので』と返上すればいいし。


よし、やるぞぉー!




それからの私は、とにかく頑張った。先手必勝で魔法をブチ当てることを前提に、ナディアを付き合わせて練習に励む。


「アイさん。武術大会に出るつもりだと伺ったのですが、本当ですか?」

「うん! 見ててね、優勝してみせるよ!」

「…おやめなさい。筋肉自慢の男たちが出る大会なのですよ?そんな小さな体で、怪我をしてしまいます。」


「うっ。と、止めても無駄だよ。私にはこの大会でおっきな目標があるんだから!」


ユージーンさんからのストップも何度もかかったよ。けどそれ位じゃ諦めない! 心配してくれてるのは嬉しいんだけど。

ただ何故だか、私に告白してくる人達が増えた。まぁいつも通り、全員が禁句を口にした時点で練習代わりに吹っ飛ばしたけどね。



 § * § * § * § * § * § * §



そうして、大会の前日。事件が起きた。


「アイさん。少しお話を伺いたいのですが、今日は私の家に来てくれませんか?」

「はい! 行きます!!」


ユージーンさんが! 初めて家に誘ってくれたのよ!!

初めてだよ初めて。これまで話を聞く時は私の家かユージーンさんの仕事場だったのに。これは即座に頷くしかないでしょう!




────で。


「ユ、ユージーン、さん……?」



これはいったい、どういう事でしょう?


現状。ユージーンさんに壁ドン───いや、ソファだからソファドン? されてます。

え、いや、なんで?


「さ。話を聞かせてくれますね?」


麗しいお顔でニッコリと迫るユージーンさん。目が笑ってない…。


「え、と……?」

「どうして武術大会になど、出ようとしているのです?」


ソファドンは確実に逃がさない為の捕獲でしたか!?


「そ…っ、れはですね、闇よりも暗く夜よりも深い混沌のようなそうでもないような事情がありましてね?」


前世で好きだった小説の呪文みたいな事を口走りつつ、何とか逃げ出せないかと視線を走らせるも。右も左も、ついでに前方まで、ユージーンさんに囲われていて逃げられない。

死ぬ、このままでは心臓がドキドキで破裂して死んでしまう! 危機感から必死でその身体を押し返そうとしても、全然動かない!


「事情、ですか。それは私には話せない事ですか?」

「い、今は、無理かなー、なんて?」


えへへ、と目を逸らしながら誤魔化そうとする私────の首筋を、何かが擽る感触。


「ふえッ!?」


ユージーンさんが私の首元に顔を伏せたんだ、と遅れて気づいた。


「ユユユユユユージーンさんっっ!!?」

「……アイ。お願いがあります。」

「~~~~~!!??」


名前を呼び捨てにされて、とんでもない衝撃を喰らう。ちょ、その王子様ボイスで名前呼び捨てとか!

駄目だ、クラクラして気を失いそう!

けど次の発言が、ある意味で気付け薬の役目を果たしてくれた。



「貴女の異性の好みが普通とは違うことも、貴女が私になど興味がないこともわかっています。ですが、どうか───婚姻相手を探しに武術大会になど、出ないでください。」


「───?? ……はい……??」





今 なんか 変な 言葉が 聞こえた ……ような??




え?え? こんいん?

頭が真っ白になって硬直する。脳まで硬直したんだろうか、意味がわからない。

ひどく混乱してるのに(ユージーンさん)は容赦なく追い打ちをかけようとしてくる。


「このような事を恋人でもない私が言う権利などないとわかっています。ですが、」

「ちょっ、待って待ってユージーンさん!? いま混乱してるから!」


更なる情報を齎されても理解が追い付かないって! 更に言い募ろうとするユージーンさんの口を慌てて手で覆って待ったをかける。

ユージーンさんは少し不満そうな顔をしていたけれど、納得したのか『わかった』というように首を縦に振ってくれた。けど、その動きで彼の唇に自分の掌がくっついてると自覚して、恥ずかしさのあまり慌てて引っ込める。

私が逃げないようにか腕は相変わらず私を囲っているけど、それでも少し体を離してくれたユージーンさんは、私が落ち着くのを待っていてくれるらしい。


(えーと、えぇーっと?)


ユージーンさんはさっき何て言ってた?

幸いにも記憶中枢はしっかりと機能していたようで、無事に記憶を取り出せた。


「えー…と。あの。まず、『婚姻相手を探す』ってどういう事? 武術大会でしょ?」

「え?」


今度はユージーンさんが驚いて硬直した。私にそんなつもりは一切ない。思いつくわけもない。だって、お見合い大会じゃなくて武術大会なんだし。


「まさか、知らないのですか?」

「正直、全然意味がわかんない。」


信じられない、というようなユージーンさんに即答。疑い深く覗き込んでくるユージーンさんに、近くて恥ずかしいけど耐えて目を合わせる。

やがてユージーンさんにも、それが本当だという確信が得られたのだろう。ソファドンを解除してふらぁっと立ち上がったと思ったら、力尽きたようにドサッと隣に座るや、私から目を背けるように肘掛けに顔を伏せた。


「ユージーンさん??」

「まさか、知らなかったなんて。…いえ、貴女は前に『見るだけで汗臭そうだし観戦しない』と言っていましたし、伝統など知らないと気付くべきでした。」

「伝統?」

「えぇ。武術大会は理想の相手と出会うための、恰好のアピールの場となっているのです。」


(なんじゃそりゃ!?)



───そもそも武術大会は筋肉至上主義者な国民にとって最高のお祭り。その様子は魔法の道具……水晶型のテレビというか、プロジェクターみたいなもので国中で流され、みんなが挙って観戦する。

そして何十年か前の大会で、その人気の高さを利用した女性がいた。結婚適齢期も過ぎかけ焦る彼女の異性の趣味は少々変わっていて『一緒に魔法談義ができる細身の人』。筋肉マンだらけな国で、そんな男がどれだけいるか。

考えた末、彼女はなんと大会に出場、選手の名乗りの場にて『自分の理想のタイプ』を声高々と語り、婚姻を前提とした相手を求めたという!

流れた映像を見た人々は噂を広げ、該当者が数人名乗り出て、彼女は無事に相思相愛となれる理想の男と巡り合った────


これが今や伝統となり、理想の結婚相手を探す為に武術大会に出場する者が一定数いるのだとか。まさかの(一部とはいえ)武術大会がお見合い大会に近い事になってるの!?

知らない! 聞いてないよ!! 告白してくる人が増えてたのはそれが原因!?



「…。それでユージーンさんは、私が『理想の婚姻相手を探す為に』武術大会に出ると思ったの?」

「えぇ。貴女の異性の好みがどういったものか知りませんが、少なくとも胸を褒めてこない男ではあるはず。そんな男自体、この世界では稀少でしょう?」

「うん、稀少ね。」


今のところユージーンさんしか該当者がいないよ。項垂れているユージーンさんに深く深く頷く。どんなにイケメンでステキな細マッチョだろうと、それを口にした途端にサヨナラ☆グッバイだ。物理的に。


「大会に出る理由を話したがらないなら確実に『それ』が目的だと思いました。だから引き留め、それでも駄目なら明後日までこの家から出さない計画だったんです。」

「まさかの監禁の危機だった!?」


危なっ!? 思いつめると極端に走る性格だったの、ユージーンさんって! いや二日くらい良いけどさ。

で、でも、そっか。結婚相手を探そうとしてると思ってたんだ。それで出場を反対してたんだ。


(いやいやいや、期待しちゃうよコレ? いいの?)


俄かに期待で胸が騒ぎだす。さっきだって『貴女が私になど興味がないことも~』とか『恋人でもない私が言う権利など~』とか言ってたじゃない。好きな人にこんなこと言われて、期待しない方がおかしい。

貴族の身分は?とか気になるけど、異性として好意を向けてくれているっぽい、気がするし。……これまでの散々な子供扱いに今ひとつ断定できないけど。


うん、今こそ告白すべき時でしょ!


「申し訳ありません、アイさん。」

「え?」


脳内で意気込んでたら、いきなり謝られた。まさか心の中を読まれて断られた?

さっきまで項垂れていたユージーンさんが、いつの間にかまっすぐに私の方を見ている。その顔は何かを決意していた。


「本来ならば私こそが相談役として貴女の手助けをしなければなりません。例えそれが理想の相手を見つけることでも。ですが私がしたのはその逆………。貴女の信頼を裏切った私は、相談役失格です。数日中に私は相談役を辞しましょう。」

「え!? や、やだ!!」

「大丈夫ですよ。きちんと引継ぎをしていきますから。貴女と気が合いそうな人材を、」


「ユージーンさん以外の人なんてやだ! 私が好きなのはユージーンさんなのに!!」



………あ。



「…アイさん?」


勢いで言っちゃったぁぁぁぁぁぁっ!?


「えと、えっと、だから……っ あ゛ーもう!! 私が好きなのはユージーンさんなの!! 悪い!?」

「逆ギレ……え、ですがアイさん。私の告白を悉く無視してきましたよね?」

「え?」


なにそれ知らない。


「? 何度も言いましたよね。好きです、と。」


はぁぁぁ??


「……。まさか、気付いてなかったのですか?」


知らない、そんなの知らないよ!? 『好きです』なんて、そんなの聞いた事ないよ!

頻繁に『好き』って言葉は聞いてたけど、それはあくまで香水の、サシャの香りのことで、私のことじゃ───


……。

……………?



───告白で相手の魅力的なところを伝えるのは常識だからな。────


───アイさんは良い香りがしますね。好きですよ。────



おじさん、言ってたよね…。魅力的なところを褒めて告白するって。

もしかして今までのあれって『サシャの香りが好き』って意味じゃなく、『サシャの良い香りをさせる私が好き』ってこと、だった?


え?


「ユージーンさんは、サシャの香りをさせる女性が好きなの!?」


「!? 違います! …はぁ、迂闊でした、通じていなかったなんて。いいですか?サシャの香りは好きですが、それは貴女がつける香りだからです。貴女だから好きなんです。」


「私だから。」


「ええ。アイさんだから、です。」


「………。貴族のお嬢様と婚約してたって聞いたけど。」


「! 知ってたんですか。その、出世するにはその方が都合が良いので。ですがアイさんと出会ってしまったので、婚約は解消しました。相手の父親がごねて一年程かかってしまいましたけどね。貴女の相談役を他に譲る気はないので、出世する必要もなくなりましたし。」


それってつまり、貴族の身分は別に必須じゃなかった、ってこと?


「理解していただけましたか? 私が好きなのは、貴女です。」

「……。」

「ここに閉じ込めようとした事は謝罪します。ですが私はどうしても────?」

「…………。」


「アイさん?」


「………………。」


「───……あぁ、これが幼い頃にあったという『オーバーヒート』ですか。アイさんが武術大会に出たい理由はわかりませんでしたが、アイさんが好きなのは私だと言う言葉もいただけましたし……いいですよ。ゆっくり休んでください。」





ソファドン。初の呼び捨て。武術大会の伝統に、何よりユージーンの告白。

いっぺんに驚愕の事態によるタコ殴りにあい、精神は摩耗し脳みそは熱暴走を起こした結果。アイはソファにぐったりと凭れかかって、完全に気を失っていた。いわゆる知恵熱&現実逃避。


常識の違いに日々混乱していた幼い頃のように、アイはオーバーヒートでその日は一日ぶっ倒れてしまったのだった。



 § * § * § * § * § * § * §



────まさかのぶっ倒れでユージーンさん宅にお泊りした翌日。ようは武術大会の当日。

あらためてお互いの気持ちを確認しあって、お付き合いが決定しました! やったね!!

それで今日はそのままユージーンさんと過ごしていたり。


「うわぁ。本当に理想のタイプ?を叫んでる……。」


ただいまソファに座ってユージーンさんと武術大会の様子を観戦中。

映し出された映像の中では、帽子なしの競泳選手のような恰好をした女性が名乗りと共に『女の子みたいな年下の男性が好みです!可愛い恰好をさせてください!』と宣言してる。好みと言うか性癖??


「割と相手が見つかる確率が高いので、そういう意味でも人気があるのですよ。」


王子様ボイスが後ろから耳元でそう説明してくれる。そう、後ろから。

現在、なぜかソファに座ったユージーンさんのお膝に座って後ろから抱き締められるという、もんのすごく!!恥ずかしい体勢なのよ!!

もちろん拒否したさ。でも捨てられた仔犬みたいな瞳で「…嫌ですが…?」とか言われたら断れないでしょうっ!

しかも今朝からずっと『アイ』って呼ばれてるんだよ。私もエルドって呼んだ方がいいのかな。

……。考えただけで爆発しそう! そ、それはまた今度! 今は無理!!


……そのうち昨日に引き続き、今日もオーバーヒートでぶっ倒れるんじゃないだろうか。



「アイならこの場で、どんな事を言いますか?」

「私? うーん。顔は拘らない、体も極端な肥満や筋肉ダルマじゃなければ。私って暴走しがちだから、ちゃんと私を想って、時には叱りつつも引っ張ってくれる優しくて真面目な人がいい。……あ、出来れば細身のそこそこ筋肉のついてる人で。ううん、やっぱり細マッチョがいい。あと声がよければなお良し! それと、私が暴れても最終的に許してくれる人がいいよね。もちろん胸について触れない人!」


どんどん増えていく私の要望に、なんとなく背後のユージーンさんの顔が引き攣ったのがわかる。


「貴女に好かれるのは、なかなか難しそうですね。」

「ユージーンさんは全部満たしてるよ?」

「…! あ、りがとう、ございます。」


照れた。可愛い!

顔が見たいなーと振り返ろうとしたら、頭を抑えられて固定されてしまった。むぅ。


「ユージーンさんなら何て言うの?」

「私ですか?」


結局ユージーンさんの言ってた拘りは知らないもん。あの時は教えてくれなかったけど、もう交際(キャッ♪)してるんだし、教えてくださいな。


「そうですね…。前にも言いましたが、まずは性格。明るくて前向きで、可愛らしい方が好ましいです。外見に特に拘りませんが。」

「うんうん。」

「何よりも匂いが大事です。どんなに愛らしくとも、匂いが残念では幻滅です。」

「……うん?」



「どんなに美しい外見だろうと、気品を持っていようと、真に大事なのはその体臭。香水の奥に隠された芳香こそが私をもっとも惹きつけるもの。」


「………。」


「これまで生きてきて、アイほど芳しい香りをさせる方は一人もいませんでした。これこそが一目惚れ。 正に至高の香りともいうべきもの!」


「……………。」


「アイが香水をつけだしたのは残念でしたが、香水に隠された仄かな芳香はいつでも私を惹きつけました。ああでも、香水をつけていない今日が一番素敵です。他の虫除けに普段は香水をつけて欲しいですが、二人きりの時はぜひ、そのままのアイの香りを嗅がせてくださいね。」



「…………………。」




いや、いやいやいや。待って?


匂い? 芳香?? 体臭っっ!!??


「~~~ゆ、ゆーじーんさん、の、拘り、って、」

「『香り』ですよ?」




───アイさんは良い香りがしますね。好きですよ。────




ああ、言ってたね。言ってたとも。

褒めたよね、香りを。素晴らしいって、褒めたんだったね。香りを。



~~~~『香り』って香水じゃなくて『体臭』のことかよっっ!!??



……真実を悟った私は、再び意識を彼方へと飛ばしたのだった。






……どうやら私は『変態さん』と付き合うことになったようです。

いや、うん。まぁ、ドン引きしつつも別れる選択肢は今のところないけど、さ。ないけどさぁぁ!!


なぁんでこんな、色々と斜め上な世界に転生しちゃったかなぁ!?



どうしてこんなのが降ってきてしまったのか(笑)初めて主人公に申し訳ない気持ちになりました。

途中、胸が小さいことと魔法で人を吹っ飛ばす性格から某ファンタジー小説の主人公を思い出して連想する言葉を入れてみました。気づいた方は近い年代の方ですね☆ そのうち最終巻のあとに出た巻も読みたいです。


●アイ=ミネバル●

胸の話をするとちょっと凶暴なひと。貧乳コンプレックス。想い人と両想いになれたと思ったら相手が匂いフェチの変態で涙目。でも好き。悩んだ末、香水をつけるのはやめた。この世界は今後も私にこういう試練を与えてくるのか?と遠い目をしている。


●エルド=ユージーン●

アイの体臭が大好きな変態。彼女が香水をつけなくなって嬉しいやら悪い虫がつかないか心配やら。良い印象を相手に抱かせる為に(身なりを整えるくらいの気持ちで)鍛えていただけだったが、アイが細マッチョ好きと知り今後もしっかり鍛えようと心に決めている。

さり気にこっそり臭いを嗅いでいた変態。今後は堂々と嗅ぐ変態。


●ナディア●

アイの親友。割と良い所のお嬢さんで顔が広い。普通にマッチョが好きで、いかついマッチョな彼氏がいる。




当初、相談役という仕事はありませんでした。ユージーンの仕事は仕事で付き合いのある役人さん。

普通の世界でしたら各国がこぞって異世界の知識や技術など絶対に取り込むだろうと思うのですが、『己の力(物理)で全てを成し遂げる!!』な脳筋な世界で想像したら、なぜかこうなった(汗)まさかの拒否状態。全力拒否じゃなくて『あんま持ち込むんじゃねぇ!』ぐらいですが。

知識人まで『知識を手に入れるのは己の力で!』。ただし、同じ世界の者同士で教え合うのはOK。

そして生まれた相談役…難儀な世界だ…。

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