運命の出会いの確率
落ちが弱いと思いました。
こんなの小説でも何でもないのでしょう。
僕は純文学が好きなのです。
僕が高校生の時、友達の紹介で連絡を交換した女の子と付き合うことになった。
三カ月ほど交際していたと思う。
「なんか思ってたのと違うな。あなたといて嫌な気分になったことはないの。ただ胸が高鳴るようなこともないの。」淡々と彼女はそう僕に告げた。
高校1年生の夏、僕はあっさり振られてしまった。
映画やドラマみたいな恋愛をしたい。
そんな誰しも1度は考えるようなことを僕は考え、その目的を達成できる方法を実行することにした。
近場の本屋と図書館の場所を調べると、全部で九カ所あった。
昼休みと放課後に校内の図書室に行って、さあ検証の開始だ。
少し高めの棚に手を伸ばす動作をする。三回繰り返したところで心が折れそうになった。なぜなら図書室に今いるのは僕だけだから。
こんな弱い気持ちでは駄目だ、絶対に運命的な出会いからドラマみたいな恋をするんだと、両頬を自分の手で叩いて鼓舞する。
三十回やったとこでやめておいた。最初から無理するのは良くない。
同じ本に伸ばした指先が触れて、そこから始まる恋作戦。
放課後の図書室でも三十回やった。
高校から一番近い本屋さんに行ってまた三十回棚に手を伸ばしたけど、誰の指に触れることもなかった。
先の長い戦いになりそうだ。
家に帰ってから見通しの悪い曲がり角を思い出せる限りノートに書き出した。
次の日の朝早めに家を出て、塀が高くて見通しの悪い曲がり角で、三十回曲がり角を小走りで通った。
二十七回目に一度知らないおじさんに軽くぶつかった。誠心誠意謝った。
パンをくわえて遅刻遅刻と走ってくる美少女とぶつかって恋に落ちる作戦。これも先の長い戦いになりそうだ。
そして高校三年生の冬、とうとうその時がやってくる。
駅前の大型書店で五千六百回目に手を伸ばした僕の指先に何かが触れる。
涙が出そうになる。ああ、やっとこの時が来たんだと横に立ってる人に目を向けると、そこには大学生くらいの年齢と見える美少女がいた。
二人共すぐに手を引っ込めてお互いの視線が重なる。
「すみません、どうぞ僕は違う店で買うので。」
あくまでも紳士的な態度で本を譲る計画だった。
「良いんですか?なんか悪いですね。」
照れ笑いしながら頬を赤く染める彼女。
そこから自然に会話を繋げる準備は出来ていたのだけれど、見過ごす事が出来ない事実に気づいてしまう。
僕が手を伸ばした先にあった本のタイトル。
「上手なスキピの作り方」
僕が知る本のタイトルの中で最も頭の悪そうなタイトルだった。
怒らないで下さい