『未来のホームレス小僧』
『未来のホームレス小僧』
㈠
「まあ、気楽にやっていこうぜ」
これが、或る人との、合言葉だった。特に、前兆はなかったが、どうにも苦しい生活を送り始めた様だった。それでも、互いに、気楽に生きていくという標識は、見失わずに居たと思っていた。
処が、である。或る人は、大きな病気にかかってしまい、その入院費で、借金をしたらしい。
そのことがきっかけで、互いは疎遠になっていった。勿論、そんな我々は、互いを思わない日はなかったのだ。
㈡
その頃から、時々メールでやり取りする内容は、
「ホームレスになるのだけは、避けような」
だった。何か、不吉な予感を、互いに感じていたらしい。ふざけんなよ、と内心は思ってはいたが、それでも、未来のホームレスになるとは、自分には予想はつかなかった。夢の様であった。しかし、現在なら、ホームレスで、どこかに座り込んで居たら、恐らく保護されるだろう。ならば、ホームレスは、夢のまた夢である。
㈢
或る人は、結局、売れない小説家になった。それでも、そこそこの収入はあるらしい。最新作は、『未来のホームレス小僧』という題名の小説で、新聞にも取り上げられた程だ。人間の未来など、分からないものだな、とつくづく思った次第だ。
「俺は、この世から、ホームレスが消え去ることを願って、この小説を書いた」
或る人は、誇らしげにそう言った。それは、未来のホームレスを心配しての、心からの祈願だった様だ。自分は、或る人のその姿勢に、感銘を受けた。そして、その小説を買って、人々に配った。人生は、何が起きるか、分からない。




