Cannibalism
ウェスト・コーストの風に吹かれた君の匂いが僕の鼻を擽る。僕たち以外に誰も居ないこのプライベートビーチに流れ着いて来るのは叶わなかった夢だけだから、あともう少しだけ此処で君を眺めていたい。もう抱え込むものなんてないんだからとでも言う様に夕焼けの空が君を透けて乾いた風が君の髪を撫でる。悲しいくらいに幸せのような気持ちになった。君はこちらに振り向きながらどうしたの?と微笑みかけてきた。淡い空色のワンピースに日焼けして少しピンクに染った頬が僕には少し照れくさかったから、僕は何でも無いよとでも言えば良かったのだろうか、無愛想に片眉を上げた。パステルカラーで彩られた大きなビーチパラソルの作る不細工な影にどうにかして入り込もうと君が身を捩らせて来た。今更影に入ったってもう遅いよ。日焼けして頬が真っ赤じゃないか。と僕が言うと、うるさい。これ以上火照らない様にしてるだけなんだから。と余計に頬を赤らめて言う。遠くに奏でる波の音が切ないくらいに綺麗だった。
ねぇ、私たち、このままずっとこうして居られたら良いのにね。
君は顔に似合わないハスキーな声でそう言った。僕はやっぱり何も言えなくて、煙草に火を付けた。
そろそろ行こうか。今夜はドライブインシアターに行くんだろう。折角行くからにはいい席を取ろう。
パラソルを閉じてタオルを折り畳む。海岸沿いに止めた68年製のインパラを目指した。君はシボレーのその形を指の腹でなぞりながらラゲッジに腰掛け僕の方を見つめた。ブロンドヘアに包まれたヘーゼル色の瞳に吸い込まれる。うなじへと続く柔肌に噛み付く様なキスをした。君はどこか甘くて、とても美味しそう。この欲をどうしようかと考えあぐねて車を我が家へととばした。
アール・デコ、シボレー、ハリウッド、華麗なるギャツビー。豪華絢爛でどこか危うさや儚さを抱えたアメリカの20年代が好き。