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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
8/73

よかったら、また来てね

「では、今から始めます!」

 

 美濃がそういうと同時に、まだ少しざわついていた部 屋の中が静かになる。

 僕は幕の後ろで、女の子のぬいぐるみに手を突っ込み、シュークリームのぬいぐるみに柄を取り付け準備を整える。


 二十人ほどの女の子たちに見つめられ、ぬいぐるみ劇が始まった。




 ストーリーはお菓子を作るのが大好きな女の子の話だ。

 女の子は転校してしまうシュークリームが大好きな友達のためにシュークリームを作る。

 しかし、作ったシュークリームが勝手に動いて行ってしまう。

 慌てて追いかけると、丘の上についた。そこにはその友達がいて、一人で泣いていた。転校して誰も友達がいないところに行くのが心細いと言う。

 女の子はその友達を励まし、お手紙を送り合う約束をして、夏休みにはお菓子を一緒に作ることにした。その友達は笑顔を取り戻した。その途端それまでうろちょろしていたシュークリームが動かなくなった。

 女の子はその友達にそのシュークリームをプレゼントした。めでたしめでたし。


 ぱちぱちぱち。 


 ぬいぐるみ劇が無事、終幕すると、拍手が起きた。


 僕は幕の後ろから顔を出す。


 行儀よくずらりと並んで座っているみんな。


 その一番後ろの隅っこに、ぽつんと座っているえりかが目に入った。

 


 ぬいぐるみ劇が終わると、いつものように、みんなそれぞれ散らばって遊び始めた。お絵描きを始める人たち、「だるまさんがころんだしよ!」と言って外に出て行く人たち。


 そんな中、りすとやまねは、裁縫道具を開く。いつもであれば、りすとやまねに教えに行くんだけど。僕はピンクの手提げ袋を肩にかけ、靴を履き、児童館の扉から出て行こうとするえりかに声をかけた。


「あ、もう帰る?」


「……うみがめさん」


 えりかはかすかに肩と腕を動かした後、振り返った。


 そして若干の沈黙の後、


「私、こういうところ、あんまり好きじゃないから。ごめんなさい。劇は、すごく面白かった」


 ぺこりと頭を下げた。繊細な髪が寂しそうに、少し垂れる。それから、僕を見て、一瞬だけど確かに笑顔を見せ、児童館を出て行ってしまった。


「……えりか」 


 自動ドアの向こうのえりかを僕は呼び止める。


「よかったら、また来てね」


「……はい」


 ガラスの向こうで、こちらを向いたえりかの口が小さく動いた。




「えりかちゃん、学校に行けてないんだよね」


 遠のいて行くえりかを見る僕に、梨田さんが心配そうな口調で話しかけて来た。


 今日は火曜。ごく普通の平日で、ここに来ている子たちは、みんなランドセルのまま、小学校のすぐ裏のここに来ている。しかし、えりかの持ち物は、ピンクの手提げ袋だけだった。だから僕にも、なんとなく、そうなんじゃないかという予想はついた。


「……」


 どうして学校に行けていないのか、知りたい気持ちも少しあったけど、僕が突っ込めることでもないし、何も言えずに僕は黙っていた。


「うゆゆ、裁縫、教えて〜」


 服の裾を軽くりすに引っ張られた。


「うん。わかった」


「みうみうと、みつばちは、忙しいみたい」


 りすの視線の先を見ると、やまねに、美雨は裁縫を教え、美濃は、トランプをやっている子たちに混ざっていた。


 ちなみに、りすとやまねは、美雨をみうみう、美濃つばきを苗字の頭文字とつばきを繋げてちょっと変えてみつばちと呼んでいる。小学生はあだ名をやたらとつけたりするもんなんだろうな。 


 僕はりすがぴょんと座った座布団の隣に自分の裁縫セットを持って腰を下ろす。


「じゃあ、先週のぬいぐるみの続きつくろう」


「はい!」


 座布団の上で少しお尻を浮かし、準備するりすの元気な声が、僕の耳に響いた。

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