最後の公演
ふわふわの雰囲気の、甲斐先輩の友達の胸の感触も忘れかけた頃。
いよいよ、最後の公演となった。
最後だけ長いバージョンをやるという案もあったけど、結局、最後まで、通常バージョンでいくことにした。
というか、通常バージョンが僕たちの全力だから。
これまで大きな失敗もなく、こちら側としても楽しんでぬいぐるみ劇をやることができた。
だからこそ、最後になってより緊張する。
えりかは昨日か一昨日もらったヨーヨーでぼいーんびよーんと振動の観察をしていて、やまねは一人でひたすらミサンガを作っていて、りすは文芸部の部誌を読んでいた。
この時間にセリフの確認をしていた一日目が、かなり前に思えた。
そうして、お客さんの列整理へと向かう時間がやってきた。
それぞれのことをしていた三人も、一緒に来てくれた。
しかし、それを予想していなかった人がいた。
「あ、ママきてるー! 来ないって私とちゃんと約束したのにー!」
「私もした〜なのにいる〜! おかしいね〜」
「私のお母さんも、来て欲しくないって言ったのにきてる……」
三人に発見されたお母さんたちは、あら、とかくれんぼしててみつかっちゃったと言った感じの対応をとった。
本当はこっそり見にいくつもりだったのだろう。劇が始まれば暗くなるし、いると思わなければ気づかないこともありうる。
まあ僕は列整理をもともとする予定だったし、審査委員がいるかとか注意してるから気づいただろうけど。
というか、またおんなじ審査委員が来ている。今回も懲りずにランドセルを背負っている。
「ごめんね、見たいからみんなできちゃった〜」
りすのお母さんがりすと似たような話し方で言った。
三人とも、「ずるいずるい〜ちゃんとお話ししたのに〜」「結局来ちゃって〜」「来るかなって少し予想はしていたよ」
と言っているけれど、そこまで嫌そうでもなかった。
さらに緊張が高まったりすると良くないかなと思ったが、そういう問題にはならなさそうだ。
やがてお客さんが席に座った。一番最後に一番たくさんというのが理想かもしれないが、この時間帯は様々な団体が多くのイベントを行っているため、そうはいかない。
二日目、三日目の平均くらいの人数で、満足するべきだろう。
僕は、ぬいぐるみをセットする。
またほたる児童館ではやるだろうけど、綿が溢れ出しそうなぬいぐるみほどのみんなの思いが詰まった、このぬいぐるみ劇を、この文化祭でやるのはこれで最後。
かちゃ、とドアの小さな音だけしか立てず、後ろから小町先生が入って来て座った。
静かでもおっぱいが静かじゃない。
あ、今の雰囲気壊すからなしで。
稲城がライトを照らした。
ぬいぐるみが輝いて、劇は始まった。