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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
6/73

ついに究極のお子様ランチを作る時がきた


 日が変わって今日は火曜。ぬいぐるみ部文化祭絶望問題の解決策については昨日の夜ラインでも少し話したが進展はなし。しかし!


 僕は朝から満面の笑み。そりゃあそうだ。自分のぬいぐるみを大切にしてくれている人に出会ったんだから。


「なんでにやにやしているの? 新しい女子小学生のお友達ができたから……なんてことはさすがにないよね」


 背中に重みを感じる。振り向かなくてものしかかってるのが美雨だとわかる。これもよくやられてるから。柔らかいしいい匂いがする………。


 柴崎えりか。昨日会った女の子は僕に名前を教えてくれた。そしてお友達になってくださいと言われた。女の子からお友達になって欲しいと言われるなんて素晴らしいことだ。喜ぶのも当然だってわけ。つまり僕は堂々とにやにやして自慢していいということになる。


「えりかっていう女の子とお友達になったんだ。しかもすごいぞ。聞いて驚くなよ?」


 僕は昨日あった出来事を美雨に話す。


「呆れたわ」


 美雨は僕の背中に頭を押し付けて首を振る。一緒に喜んでくれると思ったのに心外なんですけど。


「おはようございます! 今日もいい天気ですね!」


 美雨よりさらに後ろから高くて柔らかい声がした。美濃だ。


「そうだな。ぬいぐるみを作りたくなってくるな。というわけで美雨どいてくれる?」


 僕は裁縫セットを取り出す。朝の光を浴びながら教室でぬいぐるみを作るのが僕の理想の始業前の過ごし方だ。


「え〜。やだ」


 動かない美雨。美濃が美雨に体重を預けているらしくさっきよりも重い。


「優くん。朝は友人とおしゃべりするための時間です! 一人でぬいぐるみ作るなんていつでもできます! 今しかないかけがえのない時間を大切に!」


 それ五回くらい聞いた。でもぼっちだった頃から、朝はぬいぐるみ製作が日課なのに。まあ……仕方ない。正直以前より毎日が楽しくなったのは確かだ。僕は裁縫セットを鞄にしまった。



 人としゃべると時間が経つのは早いもので、あっという間にチャイムがなった。

 と同時に教室の扉が開き、小柄……だけどすごいふくらみをお持ちの若い女の先生が入ってきた。我が校が誇る家庭科教師で、ぬいぐるみ部顧問の小町真子先生である。ちなみに、美濃は将来目標にする人として小町先生を挙げている。どの辺りを目標にしているのかは聞かないでおいた。


「じゃあ、授業を始めます。よろしくお願いします。全員出席ですね。みんな家庭科が好きなのかな。そうだったら嬉しい!」


 にこっと笑う小町先生。小町先生の家庭科は一時間目なのにいつも遅刻する男子陣が遅刻することはまずない。なぜかは知らん。予想はつくけど。


「では、教科書の九十一ページと、調理実習計画プリントを出して下さい。各班に分かれて調理実習の計画を練ること。計画プリントの提出は今日までです。では作業してくださいね」


 小町先生はそう言って先生らしく教室を見回した。


「ふっ。ついに究極のお子様ランチを作る時がきた……」


 隣で百色えんぴつを楽しげに広げ、調理実習計画プリントに色を塗っている怪しい人が、独り言のように呟いた。


 こいつの名前は田植凛太。今日の調理実習計画プリントのお子様ランチの絵を描くためだけに百色えんぴつを持参。料理部に所属し、究極のお子様ランチを作って、幼い子を笑顔にすることを、将来の夢としている。


 周りからはロリコン扱いされてしまっているが、僕は田植の情熱をよく理解していて、そのことを伝えたら感激されて調理実習の班を一緒に流れで組むことになってしまった。ここ最近の最大の失態だと認識している。


「羽有、ぬいぐるみのデザインは完成したか……?」


「え?まじで作るの?」


「当たり前。お子様ランチとは、おまけのおもちゃも含めてお子様ランチだ。つまりおまけのおもちゃがないお子様ランチは、それはおっぱいの小さい小町先生のようである……」


 言っている意味がわからないようでわかることにはわかる。


「ちゃんと男の子用と女の子用も作ってくれよ……。児童館の評価がよければ、文化祭でも売り出すし……」


「児童館の評価……?」


「知らないのか……? 我らの班の作ったお子様ランチは特別に児童館の子達が試食してくれることになったんだ。衛生管理もしっかりするからよろしく……」


 まじかよ。知らなかった。僕は再び百色えんぴつでの色塗りに集中し始めた田植とは反対の方を見る。そこにはもう一人の班員の稲城の姿が。まともな人僕しかいないじゃん。辛い。


「おい、大丈夫かあのグループ。変な奴しかいないじゃん」


「ぬいぐるみ大好きロリコン暇そうだな」


 どこからかひそひそ声が聞こえる。

パソコンを開いている稲城と、色塗りをしている田植は暇そうではないから、ぬいぐるみ大好きロリコンというのはどうやら僕のことらしい。


「進んでますか?」


 巡回中の小町先生が話しかけてきた。


「かなり順調と言えますね」


 稲城がパソコンから、顔を上げて答える。視線が顔じゃなくて胸に行ってるぞ。しかもかなり凝視。さては、小町先生大好き巨乳好きか……? うん。ぬいぐるみ大好きロリコンの方がマシだな。


「そうですね。料理部の田植くんを中心にしっかりと話し合いしてるって感じですね」

 

 僕は小町先生が煽りの達人だと確信した。まあしかし、僕も稲城もどうせ田植のいいなりになるだけなので、順調と言えばそうなるのか。

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