一人目のお客さんは小学生、ではなくて
さて、一番初めに来るのはどんな人かな?
小学校三年生か、二年生か、一年生か、それとも幼稚園、もっと小さい子かも……。
「優、なんか今日はより一層ロリコンっぽく見えるからお客さんが来る前に頑張って直しといて」
美雨に指摘された。小さい子を想う優しい表情とかではなかったようだ。誠に残念。
そして、一番初めに来たのは、大学生くらいの女の人だった。
あ、残念に思ってるなんてことはない。単に小学校三年生以下かな〜? と思っていただけで、それを期待していたわけじゃないから。
「いらっしゃいませ……」.
と挨拶をする前に女の人が頭を上げていた。ぬいぐるみがこてん、と倒れるくらいの勢いで。
礼儀正しいすぎる人ってことでいいのかな……? と思っていると、
「あの、ぬいぐるみ部ですよねここ」
顔を少し上げてその女の人が尋ねてきた。
「あ、ぬいぐるみ部です」
「ぬいぐるみ部が前に、屋上に閉じ込められたせいで授業に出れず、一時活動停止になったという話を昨日聞いたんです」
そうだ。前に低めの屋上で美雨と美濃と話し合っている時に、鍵が閉まって閉め出されたことがあった。
「はい。確かにそういうことがありましたが……」
「あの、ごめんなさい! 私、ここに教育実習に来ていて……その時にお昼の戸締りを任せられたことがあったんです。その時に私、ぬいぐるみ部の方々がいるのに気づかずに屋上の鍵を閉めてしまったと思うんです。誰も使っていないところだと思ってて……ごめんなさい」
申し訳なさそうにずっと頭を下げ、本気で謝っているようだった。
でも学校のことをよく知らない教育実習生があそこを誰も使っていないと思うのも普通の話だし……。
「いえ、結局そんなに問題なかったので大丈夫ですよ」
「ほんとですか? しかしそれでも申し訳なさすぎるので、せめてぬいぐるみをたくさん買って行かせていただこうと思いまして……あとお詫びとしてつまらないものですがお菓子も……」
女の人は美雨にお菓子が入っていると思われる袋を渡してから、ぬいぐるみを次々に手に取った。
ああ、そんなに気にしなくても……。ぬいぐるみを買ってくれること自体はすごく嬉しいんだけど……。
こうして、開門すぐに、十五個も一気にぬいぐるみが売れた。