起き上がるぬいぐるみ
それから、パソコン研究部、科学部、生物部と回ったが、やはり、未確認生物同好会と同様、工夫がなされていた。
パソコン研究部は、ゲームに名前を登録できるようになっていて、その日のスコアランキングを出したり、登録した名前が印字された景品がもらえる仕組みになっていたりした。
科学部は数々の体験実験で、作ったものを持って帰れるようになっていたし、実験ショーはお客さん参加型で、常に満員だったらしい。
生物部は、小学生が読めるようすべての説明パネルの漢字に読み仮名をふっていて、規模こそ小さいものの、水槽のあるエリアはこの前行った水族館のような雰囲気だった。
人気が出るわけだと思った。でも、だからと言って、ぬいぐるみ部がどこを見習えばいいかというとなかなか難しい。
校門が閉まる時刻となったので、僕と美雨は学校を後にした。
いつものように美雨と自転車で帰り、いつものところで美雨と別れ、そして僕は家に着いた。
自分の部屋のベッドにたどり着いた僕は、甲斐先輩のぬいぐるみを手に持っていた。
ぬいぐるみコンクールで金賞をとったクマのぬいぐるみ。このクマのぬいぐるみは全てが可愛いのだが、一つ、興味深い部分があった。
何かを抱えるようなポーズをしているのだが、何も抱えていないのだ。
僕は今のところ、持ち主が好きなものを抱えさせることができるようにしていると解釈しているが、甲斐先輩に聞いても答えは教えてくれなかった。そしてそれがより一層ぬいぐるみの魅力を増大させていると言っていいだろう。
こんなぬいぐるみを作れればな……。
僕は自分が作ったぬいぐるみが、甲斐先輩のクマのぬいぐるみより、あらゆる面において劣っているような気がしてきた。しかもおそらく実際そうなのだ。
そんなつぶれたぬいぐるみのようにネガティヴになっちゃだめだ。
必死にぬいぐるみに関する楽しいことを考えようとした僕はスマホでにたくさんの着信が来ていることに気がついた。
『明日も頑張りましょう〜!』
『明日はぬいぐるみ売りのお手伝いもしたいよ〜』
『もっとお客さんを楽しませたいから、がんばる』
『すごい楽しかったー、明日も元気に行こうねー』
『そうだね! あれ、優見てる?』
『羽有はまだ見てないようだな。とりあえず今日はお疲れ。今からHPに今日の様子を載せる』
僕がこうしている間にも、みんな明日を見ていた。
僕は起き上がる。倒れてしまったぬいぐるみが、持ち主に立ててもらって、再び起きるように。
明日も、僕たちの魅力たっぷりのぬいぐるみの世界をみせてやる。
僕はスマホのパスワードを解除し、メッセージを既読した。
そして、僕を立ち上がらせてくれたみんなに、感謝の気持ちを送った。