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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭編
52/73

ええっ。なんで今?


 美雨と僕は様々な人々で賑わっている校舎内を歩いていた。楽しそうにはしゃいでいる女子小学生たちとその後ろを歩く親たちもいれば、他校の女子を引き連れて髪を染めた男子が歩いているし、椅子がある休息スペースでは謎の二十人くらいの老人の集団が話している。


「なんか、こうやって歩いてると、優と文化祭回ったりもしたかったなあ」


 二階同士を結ぶ渡り廊下まで来た時。下にある屋台に並んでいる人たちを見下ろしながら美雨は言った。


 ぬいぐるみ部の人数が少なすぎて、僕も美雨も稲城も、ましてや放送部の方もある美濃はなおさら、とても文化祭を見て回る時間などない。でも、ぬいぐるみ部として一日中文化祭に参加すると決めた以上、それは当然のことであって、自ら選択したということを意味する。


 でも、正直、僕も文化祭を客側で満喫したいという気持ちはかなりあった。


 だから、


『僕も美雨と回りたかったな』


そう言おうとした。しかし、美雨と二人で回りたいって言っているみたいで恥ずかしいんじゃないかと思って、


「そうだね」


 そうただ肯定するだけにとどまった。


 

 渡り廊下でビラを配っている団体は少なかった。ライバルが少ないということであり、チャンスとも言える。ただその分、お客さんも校門付近に比べれば少ない。それでもお客さんが多い時間帯なのでそれなりに人は通っていた。


 渡り廊下と校門、どちらがビラ配りに適しているかは正直わからない。ただ、僕と美雨が今いる渡り廊下は、アニメ研究会と科学部と、パソコン研究部が近くにある。小学生以下の人たちの密度が高いところではあるだろう。


 実際、予想通り、小さな女の子を連れた親子連れにかなりビラを渡すことができた。この中で、少しでも興味を持って見てくれる人がいれば。


 そう願って、僕と美雨は来た方向と反対側から渡り廊下を後にした。渡り廊下は、混雑緩和のために、お昼付近の時間帯は一方通行になっているからだ。


 一度一階に降りて外に出て校舎の脇を歩き、その後校舎に入って階段を上がる。このルートが人も少なくて行きやすいと思ったので、僕と美雨はそうやって行くことにした。


 しかし、途中でものすごい人混みとそこから上がる歓声に僕は気づいた。そうだった。去年は閑散としていたこの辺りだが、今年は農芸部の未使用の畑をビーチバレー同好会頑張って開拓してビーチバレーコートをつくったんだった。


 しかし、まあ、観客が男子ばっかりだな。みんなビーチバレーがきっと大好きなんだな。僕ビーチバレーがそんなに人気なスポーツだって知らなかったなあ。


 ビーチバレー同好会は、ぬいぐるみ部と同じくらい弱小で、文化祭参加権も、ぬいぐるみ部とともに奪われそうになったのだ。それなのに、ぬいぐるみ部よりも圧倒的に人がいる。


「なんであんなに人がいるんだろう……? ぬいぐるみ部より集客がうまいのかな」


 美雨は本当に不思議がっているのか内心予想がついているのかわからない。


 しかし、僕にしてみれば一目瞭然。人混みの隙間から見える水着姿で砂場を動き回っている女の子達。


「なっち、スタイルいいなあ。背高くていいなあ」


 砂場でジャンプしてアタックを決める、背の高い女子が僕の目にも入った時、美雨はつぶやいた。


 確かビーチバレー同好会のエースだったはず。身長は百七十二センチ、と前に誰かが言っていた。そして全体的に細い身体の線なのに、胸やお尻はしっかりとある。


 ちなみに僕は話したことは一度もない。クラスも高一高二と違ったし、接点はゼロ。


「優もあそこ行って見たかったりするの? やっぱり男子って例外なくああいう子に魅力を感じるもんなんでしょ」


 ぼんやりと砂場を眺めていたらそう尋ねられてしまった。


「いや、別に全く」


「あ、そっか、優はもっと小さくて……」


「それも違う」


「あそう。まあ違わなかったら困るからよかった」


 今日は僕がロリコンかどうかの追及がいつもより浅い。


「美雨」


「なに?」


「……ありがとう。あの時、こっそり、僕にぬいぐるみが売れてることを教えてくれて」


「ええっ。なんで今?」


 視界の端で美雨が驚く仕草をした。


 美雨は、あのビーチバレー同好会のエースと比べれば背は少し低めだけど、美雨は美雨で、かわいらしい女の子だ。そう伝えるべきだったかもしれないけど、僕はお礼を言いたかった。


 美雨が可愛くて、あと……胸も大きいのは美雨のいいところだと思うし、僕はそのせいで毎日どきどきしてるところもあるけど、僕は一番、美雨の優しいところが素敵だなあと思うから。



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