お前何だそれ?
ビラを配ることのできるエリアはあらかじめ決められている。校内にいくつかある渡り廊下と、校門を入ってすぐのところだ。こうしないと、校内各地でビラをみんなが好き勝手に配りまくりカオスなことになる上、お客さんも落ち着かなくなってしまう。
僕と稲城は、校門を入ってすぐのところで配ることにした。
到着すると、様々な団体の人が並んで、通り行くお客さんにビラを差し出していた。そして割とスルーされている。
そう。こうした空間ではまずは注目してもらうことが必要だ。美濃と美雨は手にぬいぐるみをはめて動かすことで注目集めようとしていたようだ。
僕はさらに上を行こうと思う。僕は、このビラ配りのために一生懸命作った、チョウチンアンコウの被り物を被った。
「羽有、お前何だそれ?」
お、早速稲城に注目されている。
「チョウチンアンコウだよ。ビラ配りのために作ったんだ。これで注目を集めるわけ」
「あのな、それで、注目を集めてもその結果羽有から離れていくだけだと思うんだが。得体の知れないキャラみたいになっていて気持ち悪いぞ」
「そんな……」
僕はショックを受けながらも試しにやってみないとわからないと思い、ビラ配りの列に入り、何人かのお客さんにビラを差し出してみた。
お客さんたちは、え? みたいな顔でこちらをみた後、何事もなかったかのように若干僕から離れたところを歩き、そのまま行ってしまった。
「だから行っただろ。今すぐそれを外すんだな」
そういう稲城は結構調子よくビラを配っていた。こいつその気になれば親しみやすい雰囲気作れるんだよな。
仕方がないので僕はチョウチンアンコウを脱いで、稲城を見習って地道にビラを配ることにした。
チョウチンアンコウを作った僕の努力が……。きっといつかこの被り物は役に立つよな。そうと無理にでも信じないとチョウチンアンコウを頑張って作ったことを思い出して悲しくなる。
ある程度配り終え、陶芸室に戻る途中。
もしかして、美雨と美濃だけじゃ会計が追いつかないくらいお客さんが来てたりしてな……いやそれはないか、なんて想像したり、えりかとりすとやまねは楽しんでるかな、と考えたりしていると、今まで考え事の世界に行ってそうだった稲城が話しかけてきた。
「羽有は、今回の文化祭で、賞は狙っているのか?」
賞。文化祭においては、三種類の賞が存在する。
一つは、審査委員会が授与する賞。審査委員会がすべての出し物を複数回周り、さらに展示や演劇などの専門家を呼んで会議を重ね、その結果選出した優秀な団体トップ3に、金賞、銀賞、銅賞を授与する。
二つ目は、統計をまとめる会、というやることがそのまま名称になっている団体が、文化祭の来場者を対象に投票を実施し、その結果得票数が多かったベスト3に与える賞である。
三つ目は、これもまた統計をまとめる会が、来場者を対象にアンケートを実施し、その満足が高かったベスト3に与える賞である。
賞を狙うかどうか……。
僕は文化祭前日に、甲斐先輩に相談したことを思い出していた。