ずばり、緊張だね!
僕たちは、文化祭準備をそれからも懸命に進めた。母親とも比較的良好な関係を築くことに成功し、ぬいぐるみ劇の練習と、ぬいぐるみ製作を毎日毎日美雨、美濃、稲城、りす、やまね、そしてえりかと楽しくやり続けた。
そしてポスターや看板、ぬいぐるみ製作パンフレットなどまでつくった。
HPはより一層充実し、アクセスしてくれている人もちゃんといるらしい。
文化祭前日、ぬいぐるみ部は、文化祭に向けてやるだけのことは全てやりきり、文化祭がいつでも迎えられる状態となった。
そして、文化祭一日目。
「はろー。ふらふら歩いてどーしたの優?」
学校の駐輪場から昇降口に向かってふらふら歩いていると、海瀬美雨が後ろから声をかけてきた。
「美雨か」
僕はそう言いながら思い出した。文化祭準備シーズンの始め頃、同じような感じなことがあった。
「なんでふらふらしてるか当ててみせよう」
「うん……」
「ずばり、緊張だね!」
「当たりだ……」
校門には大きなカラフルな門。『第70回渚ヶ丘学園文化祭』の大きな文字。そして、その門をくぐるとすぐ目につくずらりと並ぶ各団体の看板。
ちなみにぬいぐるみ部はくじ運が良くて結構見てもらえそうないい位置が取れた。
昨日準備が終わらず、当日まで粘っている人たちが多く、今日は早い人たちだと六時くらいから登校しているようだ。
ぬいぐるみ部は準備万端ではあるが、僕はなんとなく早く来てしまった。きっと美雨もなんとなく早く来たのだろう。
僕と美雨は文化祭のためいつもと違って隅に追いやられた下駄箱に靴を入れ上履きを履き、陶芸室へと続く階段を上った。
ぬいぐるみ部がそこにあることをアピールするために、外装にはたくさんぬいぐるみを貼り付けた。
陶芸室は、ぬいぐるみ劇をする場所と、ぬいぐるみ販売とぬいぐるみ製作パンフレットの配布を行う場所の二つに分かれている。
「うおお! ここにお客さんがたくさん入った時の様子を思わず思い浮かべちゃうな。……まあ、来ればの話だけど」
「大丈夫。来るよ。そして私たちは、来たお客さんを楽しませる」
「だな」
「うん」
美雨と改めてそう確認し合っていると、
「ぴーんぽーんぱーんぽーん、えー、テストほーそーです。あ、なんか聞こえてそう? 校内各地にいる放送部員は、これが聞こえたら、放送室に戻って来てください。で、なんか雑音っぽかったりしたらそれも報告してください」
美濃によるテスト放送が流れた。美濃もすでに学校に来ているようだ。
相変わらず可愛く雑な感じだけど、美濃の放送のおかげで緊張がほぐれた気がする。きっと僕のように思っている人が他にもたくさんいるだろう。
「ぴーんぽーんぱーんぽーん、あ、ついでに今言うと、開会式は八時半からなので、八時二十分には講堂に行きましょう。それまで、最後の仕上げ頑張ってください〜」
八時半か、まだ時間が結構ある。僕は陳列してあるぬいぐるみをさらに綺麗に並べ直したり、ぬいぐるみ劇のセッティング確認をしたりした。美雨はセリフを言ってみたり、宣伝用のビラを輪ゴムでまとめてみたり。
「準備完璧という感じか」
八時過ぎごろ。稲城がいつも通りパソコンをもって陶芸室にやって来た。
「HPのアクセス数、結構伸びてるぞ」
「ほんと?」
余った輪ゴムを手に持った美雨が勢いよく反応した。その拍子に輪ゴムがびょーんと飛ぶ。
「真面目にHP作っているところ少ないからな。しかも見たからってここに来てくれるとは限らないがな」
「まあ、でもとにかく嬉しいな」
とりあえず、ぬいぐるみ部があって、ちゃんと文化祭で出し物をしているということくらいは知ってもらえたわけだし。きっと中には興味を持ってくれた人もいるだろう。
「羽有、最終チェックしに来たぞ」
「おお、武田か。文実の仕事お疲れ」
文化祭実行委員会による最終チェック。ここで、きちんと出し物ができる状態になっていることが認められると、無事文化祭に参加できる。
「大丈夫っぽいな」
「よし!」
「あ、そろそろ講堂に移動してくれると助かるぞ。多分入り口のあたりに人が詰まるから」
「わかった」
僕たちは、あとはお客さんが来るだけとなった陶芸室を出て、文化祭の開会が告げられる講堂へと向かった。