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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
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すごい分析です!


「まあ、それは置いといて、ここで去年の文化祭に来た女性の年齢別割合を確認してみようか」


 僕がロリコンかどうかの追及は終わり、稲城がパソコンを操作する。


 ロリコン疑惑は無事晴れた……と信じることにして、僕は稲城のパソコンの画面を覗きこむ。そこには、わかりやすくまとめられた円グラフ。そういえば分析好きな文化祭実行委員がこんなのを公開してたっけ。


 稲城が説明を始める。


「最も多いのは四十八パーセントの大学生以上。多くは僕たち生徒の保護者か、小学生の付き添いの親と思われる。次に多いのが小学生以下で二十七パーセント。JKJCは二十五パーセントとほぼそれに互角。そして注目すべきはここだ」


 稲城が美雨と美濃にも見えるよう、画面の向きを変え、指を指す。小学生以下の女子のさらに細かい年齢別割合がグラフの下の表に書いてある。


「えっ。かなりの割合が小学校三年以上だね」

 

 美雨がさらによく表を見ようと机に身を乗り出す。


「その通り。我が校は、中等部と高等部に分かれた中高一貫。学校見学のために来る中学受験生が多い。つまり小学校中学年以上が多いというわけだ。しかし、羽有がやろうとしているぬいぐるみ劇は、小学校低学年むけ。小三でも人によっては、ましてや小四以上には子供っぽすぎるだろう。男で興味ある人はほぼゼロに等しいと思われる。よって集客は見込めない。これが理由の一」


 確かに、今思い返せば、去年買ってくれた女の子達も小四、五くらいの人が圧倒的多数だったような気がするな……。


「すごい分析です! 優くんよりもぬいぐるみ部の部長に向いている気がします!」


 美濃が興奮してぴょんぴょんはねる。


「ありがとう……と言いたいところだが、そもそも羽有より部長に向いていない人などこの世に存在しないと思われるがな。まあいい。理由の二は簡潔に述べられる。すでにフランス語劇部が演劇部から小ホール使用の許可を得た。だから、小ホールを使うという計画自体、不可能だ」


「な……そんなに行動が早い団体があったとは……団体別部屋割り配られたのつい一時間前くらいなのに」

 

 ていうかフランス語劇部なんてあったのか。知らなかったな。観客からしたら、何言ってるのかわかんない気がするんだけどどうやって劇をやるんだろうか。


「甘い。部屋割り団体の情報はその気になればもっと前に知ることができる。現に、自分は三日前に知っていた」


「三日前?」


 美雨が目を丸くして、さらに幼い顔になる。

 僕は思い返す。三日前何があったか……あっ。


「文化祭実行委員・職員合同会議か」


「流石ぬいぐるみ部の部長だ。文化祭に関する日程は全て把握して然るべき」


 稲城が僕の方を見て眼鏡を整える。


 文化祭実行委員・職員合同会議。その名の通り、文化祭実行委員と先生達が話し合い、文化祭に参加する団体、部屋割り、催し物のおおまかな企画等に問題や危険性がないかを確認するための会議だ。この会議により決定した部屋割りが、今日配られた紙に記載されている。しかし、例えばこの会議をどこかで聴いていたとしたら……。


「羽有の察し通り、フランス語劇部会議を密かに聴いていた可能性が高い。フランス語劇部は人数も実績も少ない弱小部活。部屋割りが満足できるものでないと判明した瞬間、いち早く行動に出たかったものと思われる。自分も会議の全容を聴いていたが、フランス語劇部は小ホールが取れない限り、文化祭の参加は厳しかっただろう」


「稲城、会議聴いてたのかよ」


「当然。ちょうどこの机の下で昼寝をしていたら、会議の開催場所がここだったようで、気がついたら会議が始まっていた」


 それ全くもって当然じゃない気がするんですけど。むしろこれ以上ないたまたまじゃん。と思ったがそれには突っ込まず、僕は質問を投げかけた。


「じゃあ、どうしてぬいぐるみ部が、音楽室楽器置き場裏しかもらえなかったかももしかして聴いた?」


 稲城は、待ってましたとばかりに、


「ああ。聞きたいか?」


とにやりとした。いちいちもったいぶられるのは面倒なので、


「教えて欲しい」


とシンプルにお願いする。


「まず、今年は史上最多の参加希望団体数だった。だからどうしてもどこの場所も与えられない部活が出そうだという話になった。その、文化祭参加を諦めてもらう部活の候補が、三つの弱小部活だった。フランス語劇部、ビーチバレー同好会。そして、ぬいぐるみ部だ」


「えっじゃあ、私たち文化祭に参加できないの……」

 美雨が不安げな顔を見せる。


「いや、実際は、音楽室楽器置き場が与えられている。それは三つの弱小部活の参加権を奪うということに異をとなえる人がいたからだ。音楽部部長で、前文化祭実行委員会委員長の、三里沙耶。彼女が猛反対した」


 三里さん……? どうして三里さんが反対したのだろう。三里さんの音楽部は文化部一、二を争う巨大部活だし。ただ単純に優しい性格で弱小部活かわいそうだなって思ったとか? 不思議に思っている僕に構わず稲城は続ける。


「彼女が反対した結果、三つの部活にはなけなしのスペースが与えられることとなった。というわけでぬいぐるみ部には音楽室楽器置き場裏が与えられたわけだ」


「そうだったんですね。で、残りの二つの部活はどうなったんですか?」


「フランス語劇部は体育館ステージ裏、ビーチバレー同好会はゴミ集積所横しか与えられていなかった。しかし、フランス語劇部は小ホールを獲得、ビーチバレー同好会は農芸部の未使用の畑を開拓しビーチを造った。よって切羽詰まっているのはぬいぐるみ部だけだな。まあ頑張れ」


 稲城は、言うだけ言ってパソコンを閉じて席を立ち、すたすたと歩いて行く。


「ちょっと待て。僕の計画にダメ出しといてなんか提案とかはないのかよ」


「自分はあいにくぬいぐるみ部の部員ではないんでね。特にそういったものはない。じゃあな。また会おう」


 行っちゃった……。毎度のことではあるが、気まぐれなやつ。


「じゃあ、どうしようか……」


 僕は美雨と美濃に問いかける。


「うーん……」


「そーですね……」


 二人の反応は薄い。その理由は単純明快。二人とも何も思いつかないからだ。


 そのまま、たらたらと身のない話し合いを続けること一時間。進展がないので僕たちは少し早めに下校することにした。



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