落ち着ける場所
学校前には人がごった返していた。
時刻は五時過ぎ、つまり文化祭準備や部活動はまだ行われているはずの時間帯だ。なんでこんなに帰っている人がいるんだ……?
「……どうした、羽有……忘れ物か?」
向かいから田植が歩いてきた。周りには料理部の人たちらしき人が料理について盛んに話している。
「まあ、ちょっと学校に用事が。料理部は今日はもう終わりなの?」
「……終わりというか……今日はそもそも五時までしか活動できない日だろ……羽有、もしかして先生の話聞いてなかったのか……」
「え、そうなの? まずい、じゃあな」
僕は田植に軽く手をあげて、走り始めた。
今日一日ぼーっとしすぎて何も聞いてなかった。しかし、五時までなんなら……。
「やっぱりか……」
靴のまま校舎に入り、技術室の扉を開けようとすると、すでに施錠されていて開かなかった。
中庭にも一人もいず、片付けも完全に完了していて、すでに帰った後のようだった。
僕は階段を上がって放送室に行くがやはりそこもしまっていて、見渡せば廊下の電気も消えていた。
これは、明日会うしかなさそうだ。今日会って、そして謝って、一番大切なことを思い出したことを伝えたかったけれど。遅かったようだ。
僕は息切れをしながら、下駄箱にたどり着いた。美雨の下駄箱が目に入った。一応、帰っているか確認したくなって静かに開けた。静かに開けても、その音が響く。上履きと、他にも入っていた。
中に入っていたのは……。
僕は朝七時に登校した。少しでも早く会えればと思ったから。しかし、八時二十分になっても来ない。はっきり言って稲城はそれが通常だ。美濃も始業チャイムぎりちょんセーフをよくやる。しかし、美雨はいつも結構早く登校していた。
「ねえ、美雨っち、今日休むから明日ノートと課題見せてだって。今連絡きた」
「昨日もなんとなくしょんぼりだったし、大丈夫かな……ちょっと疲れてるとかかな……」
近くの席で、そんな会話をしている女子二人がいた。
「あ、また連絡来てるよ」
「ほんとだ。少し落ち着ける場所で休んでから行くから一、二時間目だけお願い、だって」
「なんだろうね。落ち着ける場所って」
二人で息を合わせたかのように首をかしげる。
でも、それを聞いていた僕は、心当たりがあった。
落ち着ける場所。そう、それはおそらく……
初めて、僕と美雨が話した、あの広場だ。