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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
33/73

うみがめのぬいぐるみ


 僕は砂のついた、ランドセルを背負ったうみがめを拾いあげた。口元の糸が、ほどけかけていた。


 僕は、自分のぬいぐるみを宝物にしてくれている人まで傷つけてしまった。りすとやまねに話しても、同じように失望されてしまうだろう。


 ぬいぐるみに関する全てが終わってしまった。


 僕はランドセルを背負ったうみがめの砂を払う。砂が落ちていく先に、一つの袋があった。


 えりかの忘れ物か……。


 届けるべきだよな……行きにくいけど。僕はそれに手を伸ばし、触れる寸前で手を止めた。



「うみがめさんへ」



 えりかの字だ。漢字練習帳に大きく書いていたのと同じ。ひらがなでも大きく書いている。


 僕、宛て……。


 どういうことだろうと思って、袋をそっと手に取り、口を開けてみた。

 

 ……!


 なんだこれは?

 中に入っていたのは、ネッシーのような生き物のぬいぐるみ。ネッシーとも違う。得体の知れない生物、新種のUMAだった。


 そして、もう一つ。うすピンクのたたまれた紙。開くと、宛名の字より小さく、えりかの字が並んでいた。




 うみがめさんへ

 ぬいぐるみげきがんばろうね。

 私も一しょうけん命練習します。

 宝物のぬいぐるみをつくってくれて、水ぞくかんにもつれていってくれて、りすちゃんとやまねちゃんと仲良くなるきっかけをつくってくれたうみがめさんにお礼がしたくて、うみがめのぬいぐるみをつくりました。

 

 ありがとう



 ……これ、うみがめだったのか。糸くずがあちこちでていて、今にも壊れそうで、こうらがいびつな形で、そもそも頭の位置が変だし、目もよくわからない。ぬいぐるみのクオリティとしては、低い。



 それなのに……僕は泣いていた。

涙が止まらず、僕のズボン、ベンチの上の乾いた砂を湿らせる。


 僕は今までたくさんのすごいぬいぐるみに出会ってきた。甲斐先輩のぬいぐるみ、水族館で売っていた数々のぬいぐるみ、女児アニメのキャラの超人気ぬいぐるみ……


 そんなぬいぐるみと比べれば、えりかが作ったぬいぐるみを誰も褒めやしないだろう。



 だけど、僕は、一番、このぬいぐるみに心を動かされていた。



 一番大切なことを、思い出した。



 僕は、ここ最近ずっと、ぬいぐるみのデザイン、裁縫技術、どうすれば「買ってもらえる」「人気が出る」か、そういうことを考えていた。ぬいぐるみ劇の脚本でも、どういう展開がうまいだとか、どういうセリフなら効果的かとか、インパクトがあるかとかだ。


 そこには、ぬいぐるみの魅力を伝えたい、ぬいぐるみに沢山思い出を詰めてほしい、面白いと思ってほしい、そういった想いが、完全になかった。


 僕はベンチから勢いよく立ち上がり、走った。えりかがつくったうみがめと、ランドセルを背負ったうみがめを、優しく、けれどしっかり握って。


 学校へと向かった。ぬいぐるみ部を復活させ、そして、えりかとりすとやまねと、ぬいぐるみ劇をするんだ。えりかに謝ってもう一度誘うんだ。


 そのためには、美濃と、稲城と、そして美雨に、会いに行くしかない。



 

 

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