五人の女子小学生がおしくらまんじゅうをしている感じかな?
美雨に追いついた僕と茹であがっていた状態からやっと戻った美雨は、図書室に向かっていた。ぬいぐるみ部などどいう文化祭に於いて部屋すらもらえない部活にもちろん部室はない。話し合いは常に図書室で行う。
図書室に到着すると、自習スペースのテーブルに、美濃つばきが、むっす〜〜と不機嫌そうに座っていた。見た目がおもちゃを買ってもらえなくてふてくされてる幼い女の子だ。ぬいぐるみ部が悲しいことになってしまったことは連絡済みなので、そのことで不機嫌になっているっぽい。
「あっ。来ましたね。早速抗議に行きましょう! 三人で行けば怖くないです!」
やっぱりか。予想した通りだ。
僕と違って美濃は行動派だ。だから、ぬいぐるみ部にまともなスペースが与えられなかったと知った瞬間、抗議に行くことを決めていただろう。まあ、行ったところで結果は変わらないだろうとはわかっているだろうけど。
いや、もしかしたら美濃が甘えた声を出したら、あの強そうな人揃いの今年の文化祭実行委員でも折れるかもしれない。
しかしそんなことはどうだっていい! なぜならすでに完璧な計画は僕が考えたからだ!
計画の内容は大体こんな感じだ。
昨年、我がぬいぐるみ部は、女子小学生を始めとする多数の来場者にお買い上げいただき、ぬいぐるみ計千四百三十一個を売り上げた。しかし、その内訳を忘れてはならない。前部長の甲斐麗奈先輩千三百個、美濃つばき六十六個、海瀬美雨六十四個、羽有優一個である。
つまり! 仮に文実に抗議して売り場のスペースをもらえたとしても、売り上げ見込みは百三十一個。これでは、全国の女子小学生のハートを掴むというぬいぐるみ部の最終目標とは程遠い。
では、一体どうすればいいのか? 答えはいたって単純。毎週月曜に児童館で公演、女子小学生に大好評の、ぬいぐるみ部オリジナルぬいぐるみ劇を文化祭で公演すればいいのだ。
場所は、小ホール。演劇部が公演を行っていない時に使わせてもらえないか、交渉する予定だ。ちなみに小ホールの収容人数は百人。長椅子を有効活用すれば、身体の小さい女子小学生なら、百五十人は入るだろう。ぬいぐるみ部に、千人超の女子小学生を虜にする絶好の機会が訪れた!
計画の説明が終わると、
「小学生が大好きなんですね」
「女子小学生という単語が五回出てきたよ。これは五人の女子小学生がおしくらまんじゅうをしている感じかな?」
あれなんか、美濃と美雨の第一感想おかしくない?
美雨よりも美濃の方が胸が大きいと言っているのと同じくらい的外れな気がする。
「……ふむ。欠陥だらけだな」
気がついたらあごに手を当て、パソコンをカタカタいじりながら偉そうにしているメガネ男子が隣に座っていた。
「い、いつの間にいたんだ?」
気配すら全く感じなかった僕は驚いて声を上げる。メガネ男子の名前は、稲城翔太。図書室を拠点とし授業にたまに出没するという、まあ要は授業をサボりがちな人間。周りからは謎扱いを受けているが、僕は彼とはそれなりに親しい関係にある。その理由はぬいぐるみ部の活動場所が図書室であることが多いからだ。それに、なぜかぬいぐるみ部の活動によくちょっかいを出してくる。
「……んで、どこが欠陥なのかできたら教えて欲しいな」
僕は稲城に即ダメ出しされて動揺しそうなのを押さえながら優しい口調で言った。そうしたら相手は踏ん反り返って上から目線になったりすることもなく、快くアドバイスをくれるだろう。
「それは難しい質問だ。全てが欠陥の場合、場所を定義することは難しい。つまりそこら中にキノコが生えたゲームの世界があったとして何処にキノコが生えているかを説明するのが難しいようなもので、強いて答えるとすれば、全て、となるだろうか」
めちゃくちゃ踏ん反り返って上から目線なんですけど。
「じゃあ、できたらそう思った理由を教えて欲しいな」
仕方がないので下手に出まくることにするよ。
「理由か。まず逆に聞くけど、ぬいぐるみ劇を普段見に来る人はどんな人だ?」
「はいはーい。小学校一、二年くらいが大半で、あとは常連の小三の女の子二人ですね。優くんのお好みの年頃です。」
美濃が手を上げて答える。でた。手上げてるくせに当てられる前に爆弾発言する人。
「そうだよ。特に小三のりすちゃんとやまねちゃんって子と仲良しで……」
さらに誤解を生む発言をする人。
「羽有、お前ロリコンだったのか」
そしてそれをあっさり信じる人!
「なわけないだろ!」
僕は最大級の否定をする。
僕はどこからどう見ても、ぬいぐるみが好きな普通の高校生で、ぬいぐるみに興味がある小学生と仲良くしてるだけなんだけどな……。困ったもんだ。