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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
29/73

もしかして、わからない……


 少し前に渚ヶ丘の特徴として、職員室がないことを挙げたと思うけど、それ以外にもいくつかあって、その一つが中間試験がないことだ。 


 九月に二学期が始まってから十二月の初めの期末まで試験がないから文化祭の準備もできるし遊べるし最高だね! と思いきや、何人かの意地悪な先生は、小テストと称して、めちゃくちゃだるいテストを出してくる。そして追試、補講あり。


 これに引っかかることは文化祭の準備に参加できない期間が生じることを意味する上、とにかくつらい。だからある程度の点数を取らなきゃいけないわけだが……。


 あの怒鳴りまくる中洲先生の小テストが僕はどうやってもクリアできそうにない。


 そもそも僕は英語は苦手。そういうわけで美濃にお願いして教えてもらうことになった。そして、美雨もついてきて、なぜか稲城もついてきたので結局いつもと変わらない。


 ただ、場所が違う。学校の図書室は今色々騒がしい。だから、僕たちは駅前の図書館で勉強することにした。


 朝と昼に、ある程度文化祭作業を進めることができた僕たちは、明日の小テストに向けるべく、放課後すぐに図書館へと向かった。ちなみに今日は火曜だが、児童館自体がお休みの日なので、ぬいぐるみ劇はやらない。




 十年ほど前に建てられた比較的新しい図書館は、一階から三階が吹き抜けになっている超開放的な空間だ。僕たちは自習スペースの一角に腰を下ろす。


「さて、私のハイパー指導の出番というわけで、優くんはここに座ってください」


 美濃は右隣の椅子をぼすんとたたく。ここの図書館椅子のクッションが柔らかくていいんだよな。


 そして僕のさらに右の椅子に美雨が座る。なにこれ。稲城をぼっちにしたいのかな? それとももしかして……。


 美雨を見ると、僕には目を合わせず、少し離れた本棚の前で本選びをしているちびっこたちを見つめている。指先を意味もなく、動かしている。


 昨日の放課後、図書室で話した時、美雨が「うん!」と見せた笑顔を思い出した。


 美雨が、僕の隣がいいと思ってるとしたら……。


「では作戦通りでお願いします。美雨は優くんが寝そうになったらすかさず優くんの腕をつねる係ということで。私は教科書や自分のノートを見ながら教えるので、優くんをずっと見ることはできないからお願いします」


 あれ? 全然違う気がしてきた。確かに自習室のテーブル大きいから向かいからだと腕をつねろうにも手が届かないもんな。納得した。指先を動かしていたのはつねる練習、いわばエアつねりをしていたってことっぽい。


 向かいに一人座った稲城の隣にはすでに他の人が座っていた。稲城はさっそくパソコンを開いている。


「よし、やりますか」


 美濃の言葉が合図となり、僕たちも勉強に入った。




「もーだめだめじゃないですか! 時、条件を表す副詞節ですここ! 未来のこと言ってても現在形なんです!」


 なんて言った美濃? トキ上機嫌……??

 僕の頭の中で、福祉施設の周りをトキが上機嫌で飛び回っている映像が浮かび上がる。佐渡島あたりにありそうだね。


「もしかして、わからない……」


「はい、その通りです……」


 美濃が頭を抱えてうずくまる。やばい、美濃が辛そうなくらいに呆れて困り果てている。


「これは……今日は閉館時間までやるしかないですね」


「閉館時間って、確かここの図書館かなり遅くまでやってるから……」


「十時です。そしてそのあと帰ってからも優くんは暗記にいそしんでください。そうすればもしかしたら小テストで合格点が取れる可能性が少しばかり見えてきますね」


「そんなにやばいの僕?」


「今のは少しオーバーに言いましたけど頑張んないとまずいです」 


 わりかし真面目な顔で美濃が言うので、それから僕は超超真面目に英語をやった。




 美濃に遅くまで教えてもらうのは申し訳なさすぎるので、七時以降は一人で図書館に残って暗記することにした。英語は最後は覚えないとどうにもならないし。


 そして十時半。図書館から帰宅。小テストも何とかなりそうだと思えてきて、少しほっとして自室のベッドに座ると、スマホの着信音がした。


 美雨だった。ぬいぐるみ部のグループに送ってきている。


『お昼使った文実器材返し忘れた気がする……どうしよう……』


 ……まじか。

 文化祭実行委員が貸し出しを行なっているメジャーや金槌や差し金のことを、文実器材と言う。


 これを文化祭実行委員に返却し忘れると、これまた一週間活動停止となる。厳しすぎるような気もするけど、文化祭実行委員は中洲先生並みに恐ろしいと言って差し支えないので仕方がない。


 今日の昼休みは美雨が「返しに行っとくね〜」と言ったから任せたのだが……。


『返しに行こうと思ったんだけど、その前にトイレ行きたくなって楽器置き場裏の端に置いておいてそのまま忘れちゃったと思う……ごめんなさい……』


 楽器置き場裏は狭いとはいえ、せっかくぬいぐるみ部に初めから与えられていたスペースなので木材やぬいぐるみの材料などを置いている。あそこに置きっ放しにしちゃったか……。まあしょうがない。


『忘れることはあるししょうがないよ。謝れば許してくれるかもしれないし、活動停止になったって、前みたいにすれば何とか作業も進むと思うからだいじょうぶだいじょうぶ』


 僕はそう送った。

 その後、美濃が僕の十倍くらいの励ましとなぐさめの文章を送信。


 しかし、次の日。意外……そして不思議なことが起きていた。


「ぬいぐるみ部? ちゃんと返してあるぞ」


 器材チェックシートを見ながら文化祭実行委員の武田が言う。


「返してない気が後からしてくるって結構あるあるだからそれだと思うぞ」


「よかった〜」


 美雨が全身の力を抜いて前向きに壁に寄りかかる。胸がむにんとつぶれている。


「でも本当に返し忘れたと思うんだけどね。もしかしたら誰かが返してくれたのかな? うーん」


 美雨がその体勢のまま不思議がっている。


「いや、そりゃないと思う。あんなところ誰も通らないって。音楽部の人ですら裏は見ないでしょ」


「それもそうだよね。やっぱり私返したのかな〜」


 と、いうわけで何事もなく終わったわけだ。


 そしてその後、待ちに待ってはなけいけど、昨日詰め込んだものが飛んで行かないうちに受けたい英語の小テストがやってきた。感触をいえば、結構わかった。


 美濃が私のおかげですね! えっへん! という顔をしているので、お礼をめちゃめちゃ言って、パフェを僕におごってもらえる券をあげた。



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